新潮文庫
現存する漱石の11巻の日記のうちの7巻が納められている。以下に各日記に表れた興味を引く記述を抜き書きする。しかし一番面白かったのは大正3年の家庭日記で鏡子夫人および下女どもの事がぼろくそに書いてある。漱石の真の姿が素直に現れているのは、もしかしたら全作品中でこれが一番かもしれない。
ロンドン留学日記
・この煤煙中に住む人間が何故美しきや解し難し。思うに全く気候のためならん。太陽に光薄きためならん。・・・・・妄りに洋行生の話を信ずべからず。彼等は己の聞き足ること見足ることをuniversal
caseとして人に話す。(26p)
・西洋人はしつこいことが好きだ。華麗なことが好きだ。・・・・これが皆文学に返照している故に洒落超脱の趣に乏しい。(45p)
・日本人を見て支那人と言われるといやがるはいかん。支那人は日本人よりは遥かに名誉ある国民なり。ただ不幸にして目下不審の有様に沈倫せるなり。(46p)
「それから」日記
・もし巨万の富を積まば子供は二十人でも三十人でも多々益々可なり。(95p)
明治の終焉日記
・帝国の臣民、陛下・殿下を口にすれば馬鹿丁寧な言葉さえ用いれば済むと思えり。・・・・皇室は神の集合にあらず。近づききやすく親しみやすくして我らの同情に訴えて敬愛の念を得らるべし。(189p)
大正3年の家庭日記
・「じゃあやまりましょう」「じゃ」は余慶だ。御前は今日まで夫に心よくあやまった事はなかろう。(203p)
・私は便所に起きる時妻の枕を蹴飛ばしてやろうかと思った。 ・・・・妻は私が黙っていると決して向こうから口を利かない女であった。
・・・・・私の上着と下着がそろわないと妻は着方が悪いからだという。 ・・・・妻は朝寝坊である
・・・・妻君の按摩も驚くべき現象の一つである。(211ー213p)