IDEA BOX
こんなアイデアを生かして作品を作ることはできないだろうか。といってまだ固まっているわけではないから、書き出す気にはならない。そんな段階のものを短編風にまとめてみた。


1赤い薔薇


丸山警視は困っていた。
ひどい女に引っかかった物だ。なるほど確かに最初にちょっかいをだしたおれが悪い。しかし結婚するつもりなど毛頭なかった。それが、どこからか、おれの暴力団との結びつきを発見し、それを種に結婚を迫られている。ああ、あいつさえ、いなければ、敏腕警視のおれの前途はようようなのだが・・・・。
インターポールからの連絡で、パリのホテルで日本人が射殺されていたとのこと。これだけなら、従来の方針で扱えば良いのだが、側には赤い薔薇が一輪。どうも国内で最近起きている連続殺人事件との関連が心配される。
丸山警視はこの「赤い薔薇」連続殺人事件を担当する警視庁捜査一課の敏腕刑事。
この事件の発端は大阪の病院で植物人間だった女性が死んだ事にはじまる。。心筋梗塞と判定され、なんでもない事件に見えた。しかし、分からないことがひとつあった。枕元に誰がおいたともわからぬ赤い薔薇が一輪・・・・。
次は奥多摩山中で若い女性の絞殺死体が見つかった事件だ。。その女性は裸にされた上、谷のちょっと人目にはつかぬところに放置されていた。死後3週間は経っていた。関係していた会社の上司に一時は疑いの目が向けられたが、明確なアリバイを主張され、警察は手を引かざると得ない。そばには枯れた赤い薔薇が一輪・・・・
三番目は子供と海水浴に行っていた男が溺れ死んだ。その日は波が高かったから、全くの事故だと考えられた。そして葬儀が執り行われたのだが、なんと、遺族の元にまっ赤な薔薇の花束が届いた。差し出し人は全くの偽名であった。
そして今度の事件・・・・・:。
その夜、丸山警視は行きつけのクラブに行った。ここは彼が関係している暴力団系だから、綱紀粛正の折り、無料とは行かぬがほんの小遣い銭程度で楽しませてくれる。いつもの皮ジャンの男が近づいてきた。
「いや、その女がしつこくて困っているんだよ。」
「少し、お金はかかりますがね。私が誘惑して差し上げましょうか。」
「そんなこと出来るのかい。そうしてもらえりゃ、ありがたい。で、いくらくらいお礼をあげればいいんだい・・・・。」
金の交渉が済んだ。
「じゃあ、向こうから別れ話を持ち出して来てくれるわけだね。」
「ええ、とにかくあの女性はあなたの元から消えてなくなりますよ。それでいいんでしょう。私たちの組織が仕事を終えた印にいつも赤い薔薇をおいておくことにしているんですよ。心配することはないですよ。」

2 自白新薬


証拠がなければいけない、違法な捜査は断じて許されない、そんな手かせ足かせをされた上、悪を許すな、検挙率をあげろ、の大合唱。警察は本当に困っていた。
そこで科学捜査研究所では民間の協力も得て、ある新薬の開発に、多くの予算と期間をつぎ込み、ついに成功した。その名も自白新薬。とにかく一錠飲めば、たちどころに効果をあらわし、相手の質問に何でも正直にべらべらしゃべってしまう。
特になかなか真実をしゃべらない政治家、官僚、企業のトップなどの証言獲得に絶大の威力を発揮した。政治家に使えば
「はい、選挙資金をだしてもらった見返りに、あの申請を通すよう、役人に圧力をかけました。そうしないと、次の選挙で勝てません。もちろん、どの代議士だってやっていることです。ほら、あの官房長官の・・・・・」
官僚に使えば
「はい、ザブンが三度で、ドボンが五回、その見返りに飛ばしは黙認、所得はすべて、費用で帳消し、利益はでないことに・・・。ええ、もちろん、次官もご存知の話でございまして・・・・」
会社のトップに使えば
「はい、談合にちょっとばかり目をつぶっていただくために、お役人に女を抱かせまして・・・・。いや、企業の予算から比べればハナクソみたいなものでして・・・・。これで業界がみんな幸せならそれでいいじゃないですか。良心の痛み?感じませんなあ。」
その新薬があるとき盗まれたから、さあ、大変。警視庁始まって依頼の捜査態勢を引いて調べるが、行方が分からない。
ところがある時、警視総監が新聞記者に取材を受けた。高血圧気味の総監はいつも記者会見をする前に、興奮抑止剤を一粒飲んで、それからおもむろに答弁するようにしている。ところが今日はなんだか様子が違った。受け答えを聞いて側にいた秘書が、腰をぬかさんばかりの驚き・・・・
「ええ、大物政治家のH氏から、頼まれまして、彼の献金疑惑については一切捜査を中止することにいたしました。いや、それがなんと言ったって、警視総監に出世するこつなんですよ。皆さんも分かっているでしょう。」
気を利かした秘書は、そっと廊下にでて、ウエイトレスと一言、二言交わし、飲み物の載ったトレイを自分で運び込んだ。記者にその飲み物を進めたところ、今度は記者の目が据わってきた。秘書が、耳打ちしてこの記者に質問するとべらべらしゃべりだした。
「ええ、あの担当課長のY氏を買収して、新薬を密かに盗ませましたのは私の功績と自負するところ・・・・・。」

3 南米X国にて


「秋葉か、あいつもいろいろうるさい事を言うやつだったからな。ま、あちらで五年も相手にされなければ、ちっとは頭がさえるだろうよ。」
N商事の秋葉敏夫がは南米X国支店Y事務所に赴任した。支店と言ったって、日本人は秋葉一人、他に現地採用スタッフが二人、秘書の女の子が一人というこじんまりしたもの。事件など起こりようもない。本当はもう閉鎖しても良いのだけれど、数年前、山の中で銅の有望な鉱脈が発見されたという話があり、その利権のおこぼれにでもあずかろうと、N商事も事務所を開設した。そのなごりみたいな形で今もY事務所が残っているのだ。
秋葉は独身である。「そんなところで日がな一日、何をしろ、と言うのさ。」辞令をもらった秋葉は周囲のものに不満たらたらで、出発まで元気がなかった。
その秋葉が地元のゲリラ「赤い蠍」に突然誘拐された、と聞いて本社はもちろん、現地大使館も、X支店も、マスコミも大騒ぎとなった。自宅から事務所に向かう途中、武装グループにおそわれ、拉致された、とは放り出された運転手の証言である。
「繰り返される企業戦士の悲劇」「海外活動に対して安全意識少ない日本の企業。」「逃げ腰の日本政府」等々の記事が新聞や週刊誌をにぎわした。有識者達が騒ぎ、関係者が嘆きの談話を発表した。
そして、それらをあざ笑うかのように「身の代金は五百万米ドルである。」と「赤い蠍」から発表された。そして誘拐を証拠立てる秋葉氏の持ち物などが、関係各所に送られてきた。現地警察と連絡を取るべく日本の警察が現地に派遣された。しかし社員の身の安全を第一と考える平和主義者のN商事は、密かに現地の誘拐対策専門と称する業者を雇い、「赤い蠍」側と交渉した。そしておさだまりの「人命尊重」の観点から、多額の身の代金が支払われた。
有識者は眉をひそめたが仕方のないことだった。
三ヶ月たって、秋葉氏は解放された。N商事では秋葉氏の帰還を祝うと共に、秋葉氏をテロの実際の経験者として本社に呼び戻す事にした。「企画室調査部長」・・・・これが秋葉氏の新しい職名である。誰もが秋葉に一目おくようになり、彼の会社内での信用は飛躍的に向上した。
ビルあらしが捕まった。沢田吾一と言うその男は、ビルに都心のビルに夜間忍び込み、現金。もしくは金になりそうなものを失敬しまくっていたのである。その回収された品物の中に奇異な物があった。それは一通の手紙であった。警視庁のスタッフがそのスペイン語を額に汗しながら訳すと
「プロジェクトの成功おめでとう。お礼の代金百万ドルをスイス銀行のあなたの口座xxxxxに振り込みました。・・・・「赤い蠍」」


4 エンマ庁の一日

あちらを見れば針の山、こちらをみれば、猛火の山、逃げまどう民、追いかける鬼、行く手にはだかる地の池地獄、中に不釣り合いに立派で、豪華な地獄一丁目地方裁判所医学部門エンマ庁・・・・。
閻魔大王「今日の裁判はどのような物か。」
青鬼「第一は、四十八人を殺した男・・・。」
閻魔大王「けしからんやつだ。地上での罪状は・・・。その男はどうしてそんなに沢山の者を殺したのか。戦争指導者とでも言うのか。」
青鬼「いえ、いえ、彼の殺人は、地上では全く気づかれませんでした。彼は病院の看護夫をやっておりましたが、ある面では心の優しい男でした。しかし植物人間になった者どもを何とかしてくれ、遺族に頼みこまれまして、やむなくモルヒネを注射したり、空気を注射したり、鼻をつまんだり、そんなことをいたしましてばたばたと・・・。」
閻魔大王「それで、その男は遺族から多大な金を巻き上げたとか、強請ったとか・・・」
青鬼「いえ、いえ、そんなことはありません。」
閻魔大王「それは一種の善行かもしれないな。仕方あるまい。その男は極楽の蓮の台にまわしてやるように・・・・。」
青鬼「ははーっ」
閻魔大王「次!」
赤鬼「次の役人の罪は、地上の基準から行けばたいしたことはございません。業者から薬の代金をあげて欲しい、と頼まれまして、ちょっと便宜を図りました。」
閻魔大王「して、その便宜とは・・・。」
赤鬼「なに、癌に効果のある角山新薬の薬品について「効果なし、医薬品として認めない。」とした紙に判子を押しただけでございます。」
閻魔大王「役人が得た報酬は・・・・。」
馬頭「ノーパンシャブシャブでかっぽれ踊りをおどり、家を新築してもらったという他愛のないもの。」
閻魔大王「角山新薬は本当に癌に効果があるのか。」
牛頭医学担当「おおありのコンコンチキ。」
閻魔大王「その薬が認可されなかったばかりに早死にした奴が沢山いると申すのだな。」
赤鬼「仰せの通り。」
閻魔大王「とんでもない奴だ。そのものは血の池地獄に、針の山、ええい、それでもたらぬ、無間地獄じゃ・・・・・。」
赤鬼「ははーっ。」

5 お腹がいっぱいの鶏

溝口康子の夫、正雄は下町の小さな電気部品メーカーを経営していた。よくもなく、悪くもなく、そして毎日こつこつと働かなければならず・・・・・。
これに対し、康子は若いときから文学を志し、派手好み、そんな夫が歯がゆくてならない。二人の間に子はなかったが、正雄には先妻の子で大学生の昭がいた。
康子が小説教室で知った小田桐省三は、中学生相手の私塾を経営していた。格好良さを気取るものの、経営は苦しかった。
正雄が、いつごろ康子に別の男がいるらしい、と感づいたかは定かでない。しかし無口な正雄はそれを責めるでもなく、自分一人の問題として悩んでいた。そんな正雄が、ある時同窓会で学生時代の卓球部の後輩、神崎俊子とであった。彼女は正雄より八つも若く、眩しく、美しかった。
小田桐省三が、自宅でピストル自殺を遂げたのはそんな状況の中であった。側ではなんと神崎俊子が青酸カリを飲んで服毒自殺していた。遺書には熟の経営が思うようにゆかない、恋人と共に死ぬなどと、書かれていた。彼自身が書いた物である事は筆跡から確かめられた。そして彼の遺品の中からは、神崎俊子と鎌倉周辺を散策している写真が見つかった。
当局では二人は恋仲だったが、小田桐の会社経営が思わしくなくなり、小田桐が神崎を殺し、自殺したものと考えた。
しかし、光田刑事は偽装心中であることを発見した。
理由は(一)ピストルにかかっている指がちがう。(二)小田桐の手から硝煙反応が検出されない。(三)最後に神崎とのデート写真がパソコンによる合成写真であることが分かった。
犯人は、当初親のだらしなさをなじる大学生の昭ではないか、と考えられた。しかし、捜査の結果、逮捕されたのはなんと溝口康子であった。
康子の告白
「私は、最初、仕事一筋で私のことをかまってくれない夫に不満だった。そこで小田桐と関係したのだけれど、小田桐の熟経営は思わしくなかった。その上、次第に彼の酷薄さ、調子の良さがいやになってきた。夫の元に戻ろう、と考えた。ところが、夫にはいつのまにか神崎俊子がいる事を知った。私は急に夫が大切に見えてきた。私は関係のない二人をこの際、心中に見せ掛けて殺し、夫と新しい生活を始めようと考えた。
かねてから私は小田桐には「「小説の書き方」を教えてくれ。」と頼まれていた。半分私のごきげん取りだろうけれど、私はこれを利用して、遺書らしき物を彼に書かせる事にした。そして彼の部屋で情事にふけるさなか、彼が秘密に所持していた銃で撃ち殺した。
神崎俊子は、簡単だった。「私の夫を奪って何だ。三人で話をつけようと自宅に呼びつけ、青酸カリ入りジュースを飲ませ、夜間、車で小田桐宅に運び込んだ。」

6 やさしい妻

私が寝たきりで、あなたにご迷惑をかけっぱなしでごめんなさいね。あなたが、そんな私に愛想をつかして秘書の川村さんに夢中になっているのも仕方のない事かもしれないわね。
でもね、喜んでね、ここ2ヶ月くらい前に私、完全になおったのよ。体調もとってもいいのよ。それでも休んでいたのは、あなたに甘えていただけだわ。ごめんなさい。
一年くらい前だったかしら、私、あなたが酔っ払ったとき、あなたの手帳を見ちゃったの。その中にいくつか生命保険の会社の電話番号が書いてあったわ。それで、私、いろいろ聞いてみたの。「私に生命保険がかかってますか。」って。そしたら、三件にわけて、三億円ばかりかかっていたわ。
私、「あなたにもかけておいてあげなきゃ悪いわ。」って考えたの。それで、入ったの。月々のお支払いは苦しかったけれど、私のへそくりを使ったのよ。
でもその時、私、思い出したわ。いつも景気がよさそうなあなただったけれど、ここ1年くらい「会社の業績が思わしくない。」って、嘆いていたのを・・・。男の人って、いつも大変なのね。
半年くらい前だったかしら、ガスの臭いがしたの。私、ガス屋さんに来てもらったの。そしたら地下のガス管の継ぎ手が、一個所緩んでいたのよ。もちろん直してもらったわ。でもその時考えたのよ。どうしてこんな事になったのかって。それはガス工事がずさんだったかも知れないわ。でもうちは十年来、ガス工事はしていないでしょ。「不思議ねえ。」って言ったら、ガス屋さんが「奥さん、おかしいですね。このガス管、最近いじった後がありますよ。」って言うの。そしたら思い出したの、私がその三ヶ月くらい前、旅行から帰ったとき、御台所のワゴンを誰かが動かした跡があったのを見つけたことを・・・。あの下から床下に潜れる様になっていたわね。
それから最近あなた、私によく御料理を作ってくださるようになったわね。とってもおいしいわ。でもね、最近のはなんだか変な味がした。それに、食べるとなんだか、だるくなるのよ。それで妹尾先生に相談したの。あの先生は薬学を研究していらっしゃるでしょう。だから、御料理に何が含まれているかを調べるのは御手の物だったみたい。
あなた、知ってる?最近、ガス器具はみんな安全になったんですって。前みたいにガスの中に一酸化炭素は含まれていないのよ。でもね、危険がないわけじゃない。お風呂に入るでしょ。燃やし続けるでしょ。お湯はどんどん温かくなってくるわ。熱くなってくるわ。最後は入っている人のお肉が煮えてくるわ。お肉がちじんでくるわ。
あら、あなた、眠くなってきたの。あのお薬はよく利くわねえ。さ、お風呂に入りましょう。私が入れてあげるわ。


<展開>
骨格は相手の暗殺計画を知り、返り討ちにする物。煮沸殺人が面白い。
・ガス爆発による殺人、毒殺、煮沸殺人の三つがあるが、これをすべて夫がやることにし、最後に妻が気がついて、その連絡で昔の恋人が助けに来るというのはどうだろうか。
「夫・私はもう妻を愛していない。金に困った。何とか殺して保険金を取りたい。まずガス爆発による殺人を試みる。
妻・何だか匂いがする。ガス会社を呼ぶ。地下でガス管がはずれていた。なぜ・・・。私は黙って元通りにしておいた。
夫・どうしてあれが失敗したのだろう。仕方がない。毒殺だ。
妻・どうしてこのジュースは妙な味がするのだろう。私はジュースを飲んだふりをして捨てた。私はサンプルを医者をやっている昔の彼のところに持ち込んだ。AB濡ないところだった。砒素系の毒が入っていた。でも誰が・・・・。可能性としては夫しかない。
夫・どうしてあれが分かってしまったのだろう。仕方がない。今度は煮沸殺人だ。
妻・夫の手帳を見た。今日の夜のところに○がしてあり、風呂と書いてある。夫は今日私を風呂を使って殺そうとしている。どうやって、・・・浴槽の花嫁の様に溺れさせる気だろうか。私は彼のところに助けを求める。彼は出ない。仕方がない。留守番電話だ。
夜・・・・・
夫・さあ、このワインをお飲み。・・・・・
妻・危ない、危ない・・・・・。しかし夫は新しい封を切った。飲む・・・あ、眠くなる、眠くなる・・・・。
夫・さあ、君を風呂に入れてあげるよ。最近は風呂場でガスを点けっぱなしにして煮えてしまうケースが多いんだってね。
妻を抱き上げる。カーテンの陰から男と警官が現れた・・・・。
<アイデア>
・妻を病気にする必要があるか。
・飛行機などに妻を乗せ、飛行機ごと爆発させるという話をいれる。
・妻と夫を入れ替える事が考えられるが、女をここまで残酷に慣らせるのは難しい?
・妻は死んだことにし、自分と義理の父という関係はどうだろう。義理の父は金持ちで私はそこに住み、義理の父の会社でこき使われていることにする。
・風呂場の事故は七十以上の老人であるケースが圧倒的に多い。
・煮なくとも、溺れさせても良い。問題は睡眠薬対策。
・妻が妊娠しているにも関わらず夫が捨てようとしている、という話をいれる。(ダール・おとなしい凶器)

7 あるガス爆発心中事件


会社員杉原孝夫の妻、里子と同氏の経営するアパートに住む大学院学生三神真一のガス心中事件ほど破廉恥な事件はなかった。何しろ自宅のベッドで情事にふけっていた最中に、一大音響と共にガスが大爆発、里子は死亡、三神は全身大やけどの重傷をおった。原因は疑う余地はない、寝室に新しくつけたガス栓を開けっ放しにしておいたのだから・・・。
もちろん、その時、杉原氏は横浜の学会に出席していたからアリバイは十分だ。これは当日の出席者名簿で確認されている。ただ、不思議なことにガス栓の近くから、割り箸が発見された事だけが妙と言えば妙だった。
しかし、どうしても警察を納得させえなかったのは、タイミングの良すぎる杉原氏の保険金のかけ方だった。事故の約一ヶ月ほど前、妻に一億円の生命保険、さらに火災保険も大幅に増額していた。
二ヶ月後・・・・・、取調室にて。
「最初から順序を追ってお話ししましょう。
あなたは、奥さんがいつ頃からか、自分の家で浮気をしていることを知って、許せないと思った。それで、心中に見せ掛けて二人を抹殺しようと考えた。ついでに保険金までいただこうと考えた。あの日、横浜の学会に出席した人は替え玉でしょう。あんなところであなたかどうかを確認する人なんていませんからね。
それにしても面白いトリックを考えましたね。あなたは多分、自分がいないと言えば妻は男を引き込むには違いない。しかし時間が分からない。それで、仕掛けをして待ち伏せをしたんでしょう。
仕掛けというのはガスの栓に割り箸を結わえ付ける。遠隔操作するにはガス栓だけじゃ、てこの力が弱いからでしょう。結わえた糸の両端をまず外に出す。次に割り箸の両端に糸をつける。糸をつけるための、針穴みたいな小さな穴が開いていましたよ。一方をあのキャビネットの足を一回通して窓の外に出す。他方はそのまま外に出す。三神が遣ってきた時、あるいは二人が寝室に入った事を確認して糸を引く。ガス栓が開く。後は一方だけ糸を引いて回収すればいい。これを密室脱出に使う例はいくらもあるけれども、ガス栓をあけるために使うとはねえ。ガス工事を担当した男に聞いたところ「それにしても妙なところにガス栓をつける物だ、思った。」と言ってましたよ。
情事が終わる、男が電気をつける、あるいはライターをつける、いいタイミングじゃないですか。・・・・・ドカン。」
杉原が苦虫をかみつぶしたような顔をしていった。
「外にどんな方法があったって言うんですかね。」


8 新・毒入りチョコレート殺人事件

事件:埼玉県のある中学校での話。ここもおさだまりの校内暴力やら、いじめやらが蔓延していた。バレンタインデーに、ウイスキーボンボンを食べた二年D組の男の子三人が、突如として苦しみだした。保健室に運ばれ、医者が到着し、必死の治療が続けられたがだ、鈴木君と吉川君が死んでしまった。途中ではいた市川君はだいぶ苦しんだが、一命は取り留めた。死因を調べてみると青酸カリ中毒だった。チョコレートを何処で手に入れたか聞いたところ、市川君は、最初学校に来る途中知らない女の人からもらった、等と言っていたが、最後に河原君の机の上から盗んだと白状した。
証言1 一ヶ月前に、私はくどいくらい申し上げたんですよ。「息子の芳夫が、教室のお友達の何人かにいつもいじめられるて、くらい顔をしている。彼らは暴力を振るう、小使いを巻き上げる、葬式ごっこのまねをして嫌がらせをする、先生、なんとかしてください。」だけど、聞いてもらえませんでした。
証言2 河原先生のお話は確かに承りました。しかし、先生が名指した鈴木君や市川君はそんなことはしてないと言うのです。もちろん、他の子にも聞きましたが、積極的に芳夫君を指示する意見は出ませんでした。
(注:河原先生は医者なので先生と呼んだ。)
証言3 昨日お父さんが「明日はバレンタインデーだね。」って言いました。僕は「うん。だけど、チョコレートなんかくれる子いないよ。つまんない。」と言いました。そしたらお父さんは今朝「このチョコレートを持ってゆきなさい。でも、このチョコレートは君の好きな女の子からもらったような顔をして、家に持ってかえるんですよ。」と言われました。だから、僕は机の上に置いといて、眺める事にしました。ところが三時間目にトイレに行って戻ると、なくなっていたんです。
証言4 あのチョコレートですか。つい二日前に郵便で届いたんですけど、送り主の名前が書いてないんですよ。でもまさか、毒が入っているとは思いませんでしたから、息子に持たせてやったんですよ。これからですか。息子が可哀相ですから転校の準備を進めていたんですよ。来週、息子はあの学校とお別れです。
証言5 ええ、河原さんのお宅にチョコレートの包みを届けたのを覚えています。送り主ですか。そういえば書いてなかったかなあ。
湖南の見解 うまい復讐をしましたね。いえ、毒を入れたのはお父さんに決まってますよ。おそらく、何処からか、お父さん自身がお父さん宛てにチョコレートを贈ったんでしょう。だから郵便配達はああいう風に証言したんですよ。でもね、死んだ子供たちは文句は言えませんやね。なにしろ、盗んだんですからね。


9 中国秘伝の精力剤


林屋勤労部長と木下幸二は西都大学を同じ年に出て、そして七井銀行に入った。独身の頃、林屋と木下は二年下の倉沢光子を争った。結局光子は林屋を選んだ。これが二人の運命の分かれ目になった。倉沢光子の父の引きがあって、林屋はエリートコースの道を歩んだ。一方、木下は何時の頃か、出世コースから落ちこぼれていた。
出世競争に差がつくにつれて、林屋は木下を自分の子分のように扱うようになった。確かに外向きには「木下君のおかげで・・・。」「木下君に教えてもらって・・・・。」と絶えず言うが、同時にそう言うことによって自分が友情に厚い人間だ、と思わせる事を怠らなかった。そして二人で会う時には林屋は木下にひどく尊大な態度をとった。そんな林家が木下はいやで、いやでたまらない。いつか復讐をしてやろうと夢見ていた。
木下は勤労部に転勤を命じられ、林屋をいつも意識しながら仕事をするようになった。従来からの林屋の木下に対する傾向はますます露骨になった。しかし木下は密かに林屋の秘密をかぎ当てた。最近秘書課の服部紀子に手をだしたらしい!詳しく知るために木下は林屋の行動を私立探偵を使って密かに調査した。
そんな時、木下は林屋に散々恩に着せられて、中国に出張することとなった。どこかの調査団について北京、上海に行くだけもので、全くのご苦労さん出張のようなものであった。そしてその木下が帰ってきた。木下はカバンの中からきれいな包みをとりだし、精一杯の笑顔を見せて、林屋にささやいた。
「いろいろお世話になりました。おかげで楽しませていただきましたよ。これは、ささやかながらおみやげです。何でもあれをする以前に使うと効果抜群なのだそうです。女の人も一緒に飲むといい、と現地の人間が言っていましたよ。さ、女性なんかに見られると困るから、はやくしまった方がいいですよ。」
三日後、都内の某同伴ホテルで林屋と服部の死体が見つかった。
死因はアルカロイド系毒物で、くずかごに入っていた包装紙から中国産と判明した。しかも包装紙には中国語で次のように書かれてあった。
「強力殺鼠剤   食用を禁ず。」
二人とも死んでしまったため、その薬がどのような経路で、手に入れられたかは分からず仕舞であった。もちろん、木下も事情聴取を受けたが「知りません。」と押し通した。
警察では無理心中として処理し、会社と遺族は、できるだけめだたぬように努力した。しかし、報道機関にはワープロうちの匿名情報が次々と寄せられた。木下は、林屋の生前の一番親しかった男として熱心に葬式の世話をした。その姿をかっての倉沢光子が感謝のまなざしでながめていた。


10 とかく関わり合いには


妻を亡くした私の密かな趣味は覗きである。それも大げさにやるのではない。私の家の前には私が経営するアパートが建っている。二DKで広くないから、独身の男女、若夫婦などの利用が多い。きわめて小市民的にその夜の生活を、屋上に作った書斎から、灯りを消して、じっくり眺めるのである。陽気が良くなると、皆、ちょっと外を見るけれども、こちらの灯りが消えていると開け放しにする事が多く、チャンスである。
しかも私は小説家を志している。今夜はきっといい題材がしこめるに違いない。
二〇三号室をじっと眺めていると、男女が二人入ってきた。
男性の方は見覚えがない。四十くらいかな、遊び人風だ。
女性の方は、何処かで見たことがある、そうだ、思い出した。あれは駅前のスナックのかわいいウエイトレスじゃないか。二週間ほど前、話し掛けたら「康子です。」って言っていた。人って言うのはわからないものだ。
ダイニングキチンに入った。あ、熱い抱擁・・・・おや、ずいぶんあっさり離れたな。
何かしきりに言い争いはじめた。
あ、大変だ。男の手が女の首に掛かった。康子がばたばたあばれている。
あ、ぐったりなっちゃった。男は呆然と側に立っている。ひどいやつだ。あわてて、窓を閉めやがった。
殺した、きっと殺したに違いない。どうしよう。警察に届けた方がいいだろうか。いや、あれから息を吹き返すかも知れない。そしたら、おれは「何もないですよ。それにしてもあなたは何をしていたんですか。」なんて恥をかかされるのかな。
考えて見れば、おかしな事になれば、どうせ二〇三号室の学生が見つけるに決まっている。私は今現在この部屋にいなかった、何も見なかったとした方がいいに決まっている。
今度学生にあったら、それとなく様子を眺めよう。そのくらいでいい。
・・・・・・・・
十日ほど過ぎた。たまには庭の草をかろう、と用意をし、物置に向かう。おや、何だ、この臭いは・・・・・。胸騒ぎと共に私は、金属製のドアを開けた。腐りかかった康子の死体が、倒れかかるようにして、どどっと私に覆い被さった。私は声にならぬ声をあげ、その場に尻餅をついた。さすがに彼女を近くの森に埋めに行くだけの度胸は私にはなかった。
証言1 今お話しした通りです。私は女が殺されるのを見ていたのです。
警察 なぜ、その時知らせなかったのですか。今となってはその話はでっち上げでないかと疑わざるを得ませんな。
証言2(二○三号室の学生)僕はその時期ゼミの合宿でいなかったんですよ。被害者の女性ですか。いいえ、知りません。

11 多すぎる海外出張

定年間近の小田祐二は朝七時半に出社するが、国際部では一番早い。始業は八時半。彼は「早い方が電車が混まなくて良い。」などと、言っているが、単に歳のせいか、早く目が覚めて仕方がないだけのはなしである。会社に来ると、彼は「本来女性がやる仕事なのだが・・・。」などと、ぶつぶつ言いながらコーヒーマシーンのカセット部に専用の濾紙とコーヒーの粉をセットする。上部から蒸留水をそそぐ。注がれた水は電気湯沸かし器の原理で一瞬にして百度に近いお湯になり、コーヒー粉の上に注がれ、濾紙を通り、下部の貯蔵部に香りの良いコーヒーが蓄えられる。そして誰もいないオフィスでコーヒーを味わう。
町田和子が、通常会社に来るのは八時十分前。いつも二番目である。彼女が来る時にはいつももうコーヒーはセットされ、最初の一杯を小田が楽しんだ後である。
「おはようございます。」と部屋に飛び込んだ彼女は悲鳴を上げた。小田が彼女の席の近くで、口から血を吐いて床に倒れていた。紙コップが投げ出され、コーヒーが散っていた。
彼女はすぐ守衛に連絡した。守衛が上がってきた。警察がやってきた。
コーヒーの中から青酸カリが検出された。小田は青酸カリ中毒であった。
コーヒーに青酸カリが入ったルートがいろいろ検討された。最初に考えられたのは小田祐二が自殺ないしは自殺目的でコーヒーに青酸カリを仕込んだのではないかという説だった。しかしそのような兆候は、発見されなかった。次に考えられたのは、プロバビリテイ型犯罪である。このコーヒーマシンは、前日は女性が中を全部出し切って帰る。コーヒーは、匂いが飛ばないように封印された袋入りの粉を一度づつ入れ替える。水は贅沢にも蒸留水を開けて使う。するとコーヒーか、蒸留水のペットボトルに青酸カリをしこみ、国際部の人間を闇雲に殺そうとしたのではないか、と考えられた。しかし、屑籠に捨てられてあった、ペットボトル、あるいはコーヒーを入れてあったと思われる袋に、特別の細工をしたような兆候は認められなかった。
小田は、部員の話では大神部長の信任が厚く、よく英文のレポートを持参したり、あるいはもらってきたりしていた。その中に鉛筆で妙な印のつけられたレポートがあった。光田刑事がそれを不審に思い、解いたところそこから第二の文章が浮かび上がった。
「先日、写真の代金三百万円、確かに送った。早急にネガを返して欲しい。場所は・・・・。小田君へ     大神部長。」
大神部長が、呼ばれて事情を聞かれてすべてが明らかになった。
「私は実はジャカルタに女がおります。そこで私はたびたび公用と称し出張し、情事を楽しんでいたのですが、小田はどこからかそれを嗅ぎつけ、私を強請ってきたのです。私は小田がいつも一番に出社し、コーヒーを入れ、楽しむことを知っていました。そこで前日部員が帰った後、フィルターに青酸カリを入れ、わずかに湯を注ぎ、青酸カリの濃い溶液を、コーヒー貯蔵タンクにためておいたのです。」

12 リストラ


「支店の三十パーセント廃止、従業員の四十パーセント廃止」
不良債権問題が表面化し、外資を始め、あらゆる企業の業界参入が許されるようになり、しかも「何も保険に入る事はない。」という風潮が蔓延しはじめ、生命保険業界も今は青息、吐息。新規に契約する金額よりも、解約される金額の方が多いと言うのが現状。
そこで都心に本社を置くこの青葉生命も冒頭のような措置に踏み切らざるを得なくなった。財務課の十一人も聞くところによれば、七人にされるという。しかもはじき出された四人にお残された道は、退職するか、子会社に出向させられ、二年ばかり現在の半分以下の給料で働かせられた後退職という情けない道しか残っていない。
青山課長、馬場相談役、 茶川副課長、土井係長、遠藤係長、藤田係長、後藤主任、羽沢君、伊島君、そして羽沢君と婚約中のジェーン譲、青山課長と何かある、とうわさされるくらい若くてきれいな川村譲・・・・。このうち四人が放り出される。
馬場相談役が夜道を帰宅途中、自動車事故で跳ねられて死んだ。相談役は、定年後この課で勤務し四年目、しかし有能な人で、若い人からしばしば助言を求められており、リストラしても残るだろうと考えられていた人である。しかし「これで十人になった。このうち三人がリストラ対象・・・・。」とささやかれたのも事実である。現場を走り去った「赤い中型の車」はトヨタカローラと同定されたが、それ以上の事は分からなかった。
羽沢君がデート中に殺された。真っ赤になってジェーンが告白した。「彼は私を花川神社に誘ったんです。神社の境内って夜は真っ暗なんです。彼は結婚が待ちきれなかったのかも知れません。それで石の上に腰掛けて、その・・・・。ところが突然彼がげっと声を上げたんです。そしてぐったり倒れてしまったんです。私はなんだかわからなかった。」死因は至近距離からいたれたボーガンの矢についていた青酸カリであった。警察の捜査が始まった。皆は「リストラされるのが四人と分かっているから、誰かが課の四人を消そうとしている・・・・」との噂が広がり、疑心暗鬼である。
土井係長が出社して来なくなった。彼はまだ、独身で、アパートに住んでいたが、土曜日に出たきり、行方不明になってしまった。彼もまた消された?
会社にいつも一番早く来るのはもちろん川村嬢である。彼女は新聞、ファックス等を青山課長の机に置き、コーヒーをいれ、課長が来たらいつでも飲める体制にしておく。それだけ終わると、彼女自身がコーヒーをいっぱい・・・。
「そのコーヒー、飲んじゃいけません。」スピーカーから突如大きな声が流れた。驚いて彼女はコーヒーを落としてしまった。ドアが空き、刑事が二人と間に挟まれた中年の女性が入ってきた。「奥さん・・・・。」そう、彼女は青山課長夫人だった。
告白によれば「目的は夫の愛人、川村嬢殺害。後の人には申し訳ない事をしました。捜査の撹乱をねらったのです。」

13 新シルバー対策

臼木一夫、五十二歳。会社が倒産し、放り出されてしまった。
「あなたは本当に楽な仕事で、良い給与を得たいのですか。」
「その通りです。この歳になって、たいして能力もない私を、そんな条件で雇ってくださるなら、たとえ、地の中、水の中・・・・。」
「そうですか。じゃあ、この会社の試験を受けたらどうですか。」
職業安定所で薦められて、指定された翼暴コーポレーションのオフィスに向かう。なるほど会場は好条件につられた中高年でいっぱいで六十三人とのことだった。
初日、会社の仕事はスポンサーの警護、利益保護などである事を説明されたあと、同社の海外で働く様子がビデオで紹介された。そして最後に
「この会社の採用条件の第一は口が堅いという事です。」と前置きして、同社がどうにもならぬほど債務超過に陥っている、給与は本当は広告の三分の一も払えない、ただ、有能な人材を集めたいために広告にはあのように書いた、などと言った。
次回の出席者は五人になった。
「翌日、職業安定所の人がこちらの様子を皆さんに伺ったでしょう。あれで、当社の経理内容をしゃべった人は全部失格です。もちろん、失望して来なかった人もそれでお引き取りを願う。お話した事はみんな嘘で、経理内容はいいのです」
今度は会食の後、
「この会社の第二はどんなことでもできる実行力です。」と前置きして、某国政府委託による戦場からの死体回収などのフィルムを見せられた。
次回の出席者は松前五郎一人になった。
「よくこの難関を通られましたね。それでは桜工業からの依頼の仕事をまずやってください。この会社は今ある弁護士を筆頭とするグループの株主訴訟に悩まされています。やっていただきたい のはこの弁護士を消していただく事です。条件はあなたの責任でやっていただき、会社の名が出ぬようにする事、万一失敗し、あなたに疑いが掛かった場合には海外に私たちが秘密でもっている基地に逃げていただく事です。どうしても国内にとどまりたい場合は私たちが経営している病院に入っていただきます。警察は病人は逮捕できませんからね。成功した場合、報酬が支払われますがそれは・・・・」
報酬は素晴らしい、しかも人のお役に立てる、うまくゆけば巨万の富、まずく行ってももうそんなに長くない人生、素晴らしいビジネスじゃないか。
・・・・でも、結局彼は会社の内容を口外しない事を条件にこの職を辞退した。後の発言もやはり嘘かも知れない・・・・病院に行かされ、経費節減と殺されるかも知れない・・・・。
個人も会社も信用できぬものに近づく訳には行かない。

14 目には目を


フィリピンの発電所建設問題が起こったとき、あいつは言った物だ。
「とにかくおれ達の使命は受注することだ。あの程度の国には公害対策なんか必要ない。少々海が汚れようが、空が汚れようが、未開の地じゃないか。」
「副首相が難癖をつけている?それなら、接待漬にすればいいじゃないか。何、金の方は何とかするさ。」
私の、書生っぽい金のかかるプランや道義心から来る反対は一笑のもとに葬り去られた。
ところがそれが国際的な指弾を受けることになり、通産省からは企業責任を追及された。その時になってあいつは言った物だ。
「上島君に任せていましたのでまことに申し訳ありません。」
とにかくおれは、それが原因で自発的に!会社を去ることになってしまった。
私はその後タイと日本の間を行き来し、工芸品輸入などの事業を展開したがなかなかうまく行かないものだ。そんな時、私は、旧友からあいつがタイに出張する事を知った。
そいつに頼んで、私はあいつの帰国便をひそかに調べ、それより一時間ほど早く成田につく便で帰った。しかし私はゲートを出ようとせず、まず、事務所に匿名のある電話をかけた。そしてじっとあいつの戻ってくるのを待った。
あいつが到着し、あいつはバゲジ・クレイムに向かった。
「おや、めずらしい。」
私は肩をたたき、親しげに、あいつに近づいた。
「おや・・・・。同じ便で帰ったのかな。」
あいつは怪訝そうな顔をし、一瞬とまどいを見せた。
「そうですよ。お荷物、大分ありそうですね。お手伝いしましょう。」
「いや、私が・・・・。」
「そんなことおっしゃらないで、私とあなたの仲じゃないですか。」
かいがいしくあいつの荷物を、カートに積み込みながら、私は持参した箱を、そっとその荷物に紛れ込ませた。
「それじゃ、私、電話をかけに行った友人を待っていますので・・・・。」
と私は足早にあいつの、元を去ると、別のゲートからさっと出て行った。
あいつはがらがらとカートを押してゲートに向かう。なぜか格好の良い犬が向こうから近づいて来た。麻薬検査犬だな。あいつに向かって吠えた。警察官らしい男がよってきたようだ。いよいよしっぺ返しの時が来た。
「荷物を検査します。」
警察官の大きな声を背に私は空港を後にした。

15 部長命令、アリバイ工作


石堂健二は、安藤部長のもとで可もなく不可もなくの成績だったが、ある時2階級特進の上、ロンドン支店長に抜擢され、天にものぼる心地。先任の橋本支店長はどういう訳か退職させられた。「必ずご期待に添うように頑張ります。」と挨拶に行くと「頑張ってくれ。ここでうまくやるかどうかが君の将来を左右する。」と励まされ、彼は張り切って出かけて行った。何しろ小さな会社だから、ロンドン支店と言っても係員一人と後は現地採用の女の子が二人、もっぱら情報収集が仕事だった。
そして半年が経った。安藤部長から電話がかかってきた。
「今度ね、僕の知っている女性がそちらに行くんだ。よろしく面倒を見てやってくれないか。」
「かしこまりました。それでその女性は・・・。」
「川村時子と言うんだがね。」
勢い込んで引き受けた物の、その名前を聞いて石堂は嫌な感じがした。下町でスナックを経営している部長の愛人だからだ。
それでも仕事と、石堂はホテルの手配から観光の手配まで忙しく働いた。そして到着から三日目、時子が約束の時間にやってこないので、石堂はホテルに出かけた。電話をかけたが、応答がないので、ボーイにホテルの部屋を空けてもらった。時子がベッドの上に血を吐いていた。側に睡眠薬の瓶・・・。ボーイが警察に連絡を取ろうとフロントに戻った隙に、とにかく石堂は安藤に連絡した。
「川村さんが、毒を飲まれた様です。死んでおられる様です。」
「それは大変だ。誰が発見したんだ?」
「私です。今朝お迎えに上がりまして・・・・。」
「そうか、きっと自殺なんだろう。仕事がうまく行かぬと、日本を出るときから悩んでいた。」
良く言う、と石堂は思う。
「僕は仕事の都合でちょっとゆけないからよろしく頼む。ああ、彼女がよく寝られないと言うので行きしに睡眠薬を持たせてやった。疑われるといけないから、回収しておいてくれないか。」
安藤部長はあの睡眠薬のうち一錠だけを毒入りにしておいたに違いない、石堂は直感で分かった。安藤部長を守るには・・・・・。石堂はふるえる手で睡眠薬をそっとポケットに治め、自分の常用している精神安定剤の箱と変えた。
しかし石堂はしばらくしてスコットランドヤードによばれた。
「枕元の精神安定剤の箱に毒の入った薬が仕込んであったらしいのです。その箱からあなたの指紋が検出されたのですがね・・・・。」


16 隠し場所

新東京鉄鋼国際部高野圭子の趣味は油絵である。里は箱根の畑宿だった。父親は寄せ木細工の職人で、彼女のために寄せ木の額を送ってくれた。それに自分の作品をいれて一人眺めるとき、彼女は無上の満足感を感じた。
国際部長の矢山祐二が、その高野圭子と特殊な関係になったいきさつはいろいろあるがここでは省略する。最初は「素晴らしい関係」だったが、今では彼女は、矢山の脅威となっている。矢山の妻は、副社長の令嬢。少し前、とうとう彼女が、圭子の存在を嗅ぎつけ、親父をたきつけた。上司から矢山は圭子との関係を精算しろ、ときつく迫られている。もし、できなければ・・・・社内での破滅は目に見えている。一方、圭子は、会社では彼の個人秘書のような役割を担っていた。そして彼の課が行うOECD不正融資がらみの、書類を握っていた。圭子は、それをちらつかせ、自分の座を守ろうとした。
「書類は、会社におくようなまねはしませんからね。」と、彼女は釘をさした。「すると彼女は自宅マンションにそれを隠しているに違いない。」と矢山は確信した。
金曜日の夜、矢山は高野を誘い、飲み歩いた後、彼女のマンションに送っていった。そして
彼女を介抱すると称し、部屋に上がり込み、いろいろ説得したが、彼女を怒らせるばかり、ついに絞め殺してしまった。頭に血が上ったが、時と共に落ち着き、彼は善後策を考えた。
この部屋に入る時は誰にも見られなかった。彼女を放置してこのまま帰ろう。しかし、その前にあの書類がどこかにあるはずだ。作業の音を隠すために、レコードをかけた。彼は机の上を、ベッドの廻りを、化粧台を探しまくった。しかし、どこに隠したのか出てこない。
突然、ドアがたたかれた。振り向くとドア入口に爺さんの顔
「もう夜遅いんです。少し、静かにして下さい。」「はあ。」
矢山はそう答えてあわててドアを閉めた。
矢山はとにかく明け方までに探そうと、仕方なくレコードの音を小さくし、作業は音を立てぬようにして、頑張った。三十分位したろうか。再びドアが開かれた。警察官だった。
「あなた、ここで何してるんですか。」
隣の爺さんは注意をした後考えた。おかしい。隣は若い娘のはずだ。あれはきっと泥棒に違いない。彼は警察に呼ばれ、そして圭子の死体が、発見されてしまった。
矢山の自供に基づき、警察は証拠となるOECD関係の書類なるものを探したが、ついに見つからなかった。事件は終わり、圭子の持ち物は、彼女の実家に引き取られた。父親は彼女の書いた富士山の油絵をじっと見つめた。彼女の作品だった。そしてその額は彼が娘のために製作してやった物だった。
角を軽く押した。寄せ木の一枚がはずれ、空洞部分が現れた。何か、彼には理解の行かない数字の並んだ印刷物が現れた。ちらっとみた彼はそれをくずかごにぽんと投げ入れた。

17 ある偽装心中


桜田敏夫はパリメゾンなる十戸ばかりのアパートを経営していた。名前はよくともプレファブの安い作りで、全戸二DKである。このようなアパートにふさわしく、客は若夫婦、OLなどが主体であった。夜、十時頃、床についていると突然玄関のベルがなった。出ると二○三号室の柿崎夫人が立っていた。
「夜分、遅くすみません。実は鍵を家の中に忘れてしまいまして、入れないんです。」
こんな遅く、と煮えくり返る思いを押さえて、桜田は夫人とともに二○三号室に行き、ドアを開けてやった。
「本当にすみません。」
「いや。」
無愛想に答えて戻りかけると、突然部屋に入った柿崎夫人の叫び声。そして桜田は後ろからすがりつかれた。
「て、ていしゅが死んでいるんです!」
仕方なく中に入ると和室に柿崎氏が、血を吐いて倒れていた。完全に冷たくなっている。桜田の連絡で警察が到着、死体が運び出されるなど、とんだ一夜になった。
翌朝、ジョギングをしていた中年の男が、近くの八幡神社の参道から少し入ったところに人が倒れているのを見つけた。彼の連絡で、神官が中に入って確かめてみると、女性の刺殺死体だった。凶器は、ナイフで、側に転がっていた。警察の調べで、この女性は、川島志津子二十八歳と分かった。
ところがその後の調べで、川島志津子は、山東工業で死んだ柿崎氏と共に働いていた事がわかった。彼女は柿崎氏の子を宿していた。
柿崎氏の、死因は青酸性毒物の嚥下であった。警察は、一度は柿崎氏が川島嬢と不倫の恋を精算しようとして川島譲を神社で殺した、そして自宅に戻り、自殺したものと解釈した。
しかし、捜査会議のおり、若い刑事が疑問を提起した。「心中の動機がどう調査しても出てこない。」「なぜ遺書がないのか。」「桜田がドアをあけに行った時、なぜ、電気が消えていたのか。」「柿崎夫人のアリバイがはっきりしない。」等である。
そして柿崎夫人が逮捕された。
「私は、夫が、川島さんと浮気し、子供まで作ったらしいと知って、無性に悔しくなりました。あの日、話をつけようと、彼女を近くのレストランに呼び出し、いったんは認めるような顔をして、駅への近道だからと神社に招き、殺害しました。そのまま、我が家に戻り、貞淑な妻として夫を待ち、かねて用意しておいた青酸性毒物入りの酒を飲まして殺しました。そして家の中を暗くし、外に出て鍵をかけ、大家さんを訪問、鍵が紛失してしまった顔をして、部屋を開けてもらったのです。」

18 ある復讐・・・・他人を使っての殺人


・私は正田光男、娘が中学生の男の子にいたずらされて殺された。私の妻はそれを苦にして、ノイローゼになり、自殺した。少年Z(一四)が捕まったが、少年院送りとなっただけだった。少年の両親は世間の非難をさけるために、引っ越した。
・私は復讐を誓った。それは、必ずしも少年に向けられなくても良かった。謝ることすらしなかった両親に向けられたって構わなかった。私は私立探偵を使って相手の移転先、家族とその歴史、問題点などを探り出すことにした。
・報告によれば、彼ら夫婦は、X市のアパートに身を潜めているという。沢崎輝男(四八)=山口県出身、彰子(三六)=群馬県出身、輝男はXX証券業務課係長、彰子はPP病院に勤める看護婦。彼らは十年前に再婚、彰子は後妻で、Zは連れ子であった。輝男はここ二、三年、Zとおれあいが悪くなり、そのため家庭はギスギスし、特に今回の事件で責任をなすりつけあい、家族は崩壊の一歩手前。
・彰子はふとした事で神崎敏夫と知り合いになり、やがて恋に落ち、自宅に呼んでのたびたびのセックス・・・・。しかし、恋が深くなるに連れて、神崎に会うとおかしな幻聴に悩まされる。「輝男を殺してしまえ、殺してしまえ。」
・彰子は、夫が自分の浮気を感づいたのではないかと恐れる。無口な夫が不機嫌になり、たまに何か言うと当てこすりに聞こえる一言。
・彰子は、夫が、自分にいつのまにか、高額の保険金をかけた事を知る。ガス栓があいていた、亜砒酸についてのファックス・・・・・、彰子は夫が自分を殺そうとしているのではないかと疑い始める。神崎に相談すると、彼は態度をあいまいにするが、幻聴がささやく。「やる前にやってしまえ。」
・彰子は夫殺しを決意する。ついにある夜、酒と睡眠薬を飲ませ、椅子に縛り付けた。長い太い注射針を取り出した。ゆっくりと空気を百CC近く注射する。看護婦の経過が生かされる。ぴくんと体が跳ね返るようだったが、それっきり動かなくなった。
・夫の葬儀が行われる。神崎が捕まらなくなった。一通の手紙が届き、中にはテープが1本。それには死の直前、夫と交わした会話、彼女の勝ち誇ったような独白がセットで録音されていた。誰がテープを送ったのだろうか。どうやって録音したのだろうか。彼女の部屋から盗聴器が発見された。仕掛けるとしたら・・・・。家の中を知っている神崎の可能性が高い。「私は乗せられたのだろうか。」彼女は私立探偵を使って神崎の過去を調べる。神崎の住むアパートの管理人に提出された書類から追ったが偽名であった。
・神崎こと正田光男が、一人密かにほほえむ。「夫を殺してしまうとはね。せいぜい、夫婦仲をこじらせる位で、そこまでは期待しなかったんだがな。でもおれは何もしていないよ。昔覚えた腹話術で、彼女に殺人をお薦めした以外はね。とにかく、これで娘の敵はとった。あの女の方はこれからゆっくりといたぶってやることにしよう。」

19 あれは盗作


守洲晴彦の将来はバラ色であった。
彼は昨年東都大学ミステリー研出身。学生時代から先輩作家の森田省吾について勉強した。そし今回、彼の作品「凍える明日」が、草原推理小説新人賞に選ばれたのだ。しかも草原社は「これだけ、書ければ十分一流作家としてやってゆけますよ。これからもどんどん我が社のために良い作品を書いて下さい。」と励まされた。
もうひとつおめでたい事があった。奈良原和子との結婚が決まったのだ。彼女の父親は奈良原工業会長で、資金的にも彼は全く問題が無くなった。
森田省吾から一通の手紙が届いた。
「その後、いかがお過ごしですか。妻が亡くなって以来、お越しいただけないので心配しております。草原推理小説新人賞に選ばれたこと、奈良原和子さんと結婚されること、本当におめでとうございます。
さて、あなたの作品を草原社の好意で、早めに読ませていただけましたが、素晴らしい作品ですね。しかし、ただ一つ気になったことがあるので指摘しておきます。
あなたは作品の中で青酸カリについて
「青酸カリは、正式にはシアン化カリウムのことで、融点四三五度の固体。よく似ているシアン化ナトリウムも融点五六四度の固体。空気中に放置すると炭酸ガスを吸収して重曹になってしまう。一方シアン化水素は融点マイナス三度、沸点二七度で通常では液体である。」
と書かれましたね。
シアン化カリウムの融点は六三五度です。またシアン化水素の融点はマイナス十三度です。公表される前に訂正されておかれると良いでしょう。
それにしても不思議な事があるものですね。私も現在執筆中の作品の中に、青酸化合物の解説を入れようと百科事典で調べたのです。そして自分のノートに、特性を記述しておいたのですが、最近シアン化カリウムの融点を435度、シアン化水素の融点をマイナス三度と写し違えていたことに、気がつきました。私は、あのノートだけは私のノウハウですから、目立たぬところに隠し、一切外に持ち出すことはしなかったのですがね。
いまさら過去のことをとやかく言っても仕方がありません。私の口座番号は以下の通りです。ご結婚の日までに三千万円お振り込みいただきますよう・・・・・。奈良原工業の力を持ってすればはした金でしょう・・・・。」
半年前に森田省吾の妻、冴子は、自宅マンションで何者かに刺し殺された。警察の必死の捜査にも関わらず、犯人は未だ逮捕されていない。森田からの手紙は、和子との結婚のために、冴子との関係を精算せざるを得なかった暗い過去を、鮮明に思い起こさせた。


20 二人のE-MAIL


津川さん、お元気でしょうか。
突然、メールを差し上げることをお許し下さい。
私は今殺されかかっています。どうやら毒を飲まされているらしく、体調も日に日に悪くなって行くようです。外に出たいのですが、夫は出かけるとき鍵をかけて行ってしまいます。電話は通じるのですが、あなたはいつも昼はいらっしゃいません。それでメールを差し上げることにしました。是非助けて下さい。
私の夫はインターネットでe-mailをやっております。加入料金が高いという理由で私宛のメールも夫のものと兼用しております。私はパソコンは分かりませんので、夫は私宛のものが来るとそれをコピーしてくれるのです。
ところが2ヶ月ほど前、夫が会社に行っている間に、姪がやってきて、私にメールの受け方、送り方をそっと教えてくれたのです。そして姪はいたずらっぽく言ったのです。
「でもね、だんなさんに言わない方が良いわよ。黙っていて、だんなさんあてのメールを見るのも楽しいものでしょう。」
それから時々、夫が留守の時に、内緒でメールを覗くようにしました。
するとそのうちにマリアというコード名のE-MAILが時々入っていることに気がつきました。それだけなら、どうという事は無いのですが、英語で書かれた文面が意味をなしていないのです。たとえば次のようなものです。
JTRTQH FZ CZHAT JHHSD JHSZ LNT RTJNRHCZ.
というぐあいです。私は最初無視していました。しかし暇なものですから、一日これを眺めて何のことだろうと考えました。そのうちに何かの暗号だろうと考え、いろいろいじくりまわしていると英字を一字だけずらして書いた簡単なものだと気がつきました。
上の文章は
KUSURI GA DAIBU KIITE KITA MOU SUKOSIDA
となるわけです。それであわててフォルダーに保管されているマリアから来た他のMAIL及び夫が送ったMAILを調べて見ますと、なんとそれは私の殺害計画ではありませんか。その女の名前は暗号を解読して判断すると、MURATA KIYOKOというらしく、会社の子らしいのですか詳しくは分かりません。私に対し生命保険もいつの間にかかけられているようです。以下に二人のやりとりのコピーをつけておきます。
・・・・・・
夫とMURATA KIYOKOが警察の事情聴取を受けたのはその二日後であった。私はいつも夫から与えられる薬を一日だけ飲まないでおいて、警察に渡した。