いつかフグ毒についてエッセイを書きたいと思っていました。書く前に山蟻様から教えていただきましたのでそのまま掲載。
フグ毒について、私の知っている範囲でお話ししたいと思います。テトロドトキシンの抽出と構造決定は全て日本人(確か名古屋大学のグルー
プだったと思います)で行われました。この膨大な論文に目を通したことがあるのですが、すでに殆ど忘却の彼方にいってしまいました。
どんなフグに毒があるのかとお問い合わせですが、自分で試したわけではないので、確実なことは言えません。しかし、通説となっている程度のことでしたらお話しできると思います。
投げ釣りなどでよく釣れる「クサフグ」(体長15cmくらい)は、毒は持っていると言われていますが、個体差があるようで、毒殺には不向きかも知れません。人によっては毒などないと言うくらいですから。
また、堤防の上から覗くと、ユーモラスに泳いでいる「箱フグ」が眼に入ることがあります。これは食べて美味しいそうですから(毒は持たないと言われている)、これも毒殺には不向きでしょう。しかし、この魚を水槽の中で飼ったら、他の魚が死んでしまったという話を聞いたことがあります。(?)
「きたまくら」というフグがいます。堤防釣りの餌とり、外道として釣り人に知られています。(阿笠さんがあまり釣りをなさらないということを前提に書いております。)外見はひらたく、カワハギに似ていますが、角はありません。口が尖っていて、ユーモラスな顔をしており、他のフグのように空気を吸って膨れたりしません。体調は10cm程度です。これは文字通り、食べたら北に枕を向けて寝なければならないと言われています。これが正しければ、この魚が毒殺に最も適しているかもしれません。以上が、簡単に釣り上げることの出来るフグ達です。
その他、船釣りなどで、外道として釣れる体長の大きなフグだったら、すべて、毒は十分に持っていると考えていいかもしれません。
フグ毒は一種のしがてら毒と言われています。従って、年を経て大きくなったフグは毒の含有量は多いと推察できるからです。(98'8.17)
「続・法医学教室の午後」(西丸興一著)からの抜粋
ふぐは、種類、季節、個体、臓器などによって、その毒性に著しい消長があるど言われる。
ふぐの種類によって毒性が違うが、また同種類のふぐでも、その一匹一匹によって毒性に差異があるというのである。季節で言えば、十二月から翌年四月ごろまでが強い毒性を有する。つまり産卵期にはその毒性が増大し、産卵後、萎縮したものでは急に毒力は減少すると考えられている。したがって、統計的にも、ふぐ中毒は十一月ごろから翌年の二月にかけてが多く、稀少の例外は別として、六、七、八月ごろには、まずないという見方ができるのてある。
ふぐの種類のうち、もっとも毒性が強いのは、くさふぐ、こもんふぐなどで、さばふぐやかわふぐなどは毒性がないとされている。そして、高級料亭などで、もっとも多く賞味さているのは、とらふぐと言われ、まふぐ、ひがんふぐ、しょうさいふぐなどが、これについでいるという。ところが、こんなことを書くと、どこかで叱られるかもしれないが、実際には大衆ふぐ料理店て出すふぐは、ほとんどがしょうさいふぐなのである。たしかに値段の点からみてもそれは否定できないであろう。
そのしょうさいふぐの卵巣で、わずか二グラム程度で、致死的な猛毒を有するものがあるという報告もあるから、話は面倒である。臓器については、肝臓による中毒がもっとも多く、卵巣がこれについでいる。ともに同じように毒性があるが、食べる人の好みが反映して順位がつくのであろう。卵巣のことを一名〃まこ〃と言い、〃きも〃と一言われる肝臓とともに、もっとも毒性があることは述べたが、幸丸は〃しらこ〃と言い、これは毒性を有することもあるが大低は無害である。卵巣(まこ)と、肝臓(きも)とはもっとも毒性が強いという点から、ふぐ中毒の中心となるものであるが、十グラム内外でも中毒死することがあるが、多くの場合は、二十グラムから五十グラムぐらい食べないと死亡しないようである。
食晶中毒のうちで、ふぐ中毒がもっとも死亡率が高く、八○パーセントにも達すると報告されている。多くは手料理による不慮の中毒死であるが、中にはふぐの内臓を食べさせて、自分の夫を毒殺したという例もあるから恐ろしい。
ともあれふぐの毒は神経毒で、テトラドトキシンと言われるものである。これは猛毒であり、また一時間くらいの煮沸では少しも毒力は減退しない。また酸に対する抵抗は強いが、アルカリにたいしては抵抗が弱く、炭酸ソーダや重曹を加えて煮沸すると分解して無毒化するのである。この毒素の致死量は、ニミリグラムと推定され、食後三十分から四、五時中毒の症状が現れ、最後は呼吸麻痺で死亡することが多く、早いものは、食後一時間半くらいで、遅いものでも八、九時間、大多数は五、六時間以内で死亡するようである。
中毒症状は、悪心、嘔吐、全身の違和感にはじまり、直ちに知覚鈍麻、運動の失調、麻痺を起こすのである。知覚障碍は口唇とその周囲、舌の先などの知覚鈍麻で、次第に手の指から、上肢、下肢、躯幹に横紋筋麻痺がおこり、ついには声帯麻痺のため、発声が不能、言語も不明瞭となったりする。やがて呼吸困難と胸内苦悶を訴え、チアノーゼを来す。意識は最後まで侵されないことが多いが、呼吸障碍が進んて血圧が下降してくると意識も不明瞭になってきて、死の転機をとるのである。
ふぐ中毒に対する治療法は、いわゆる対症療法的なものしかないとされている。しかし、最近では、薬理学者の間で、ふぐは自分自身でなぜ中毒を起こさないかという疑間から研究が進み、ふぐはアミノ酸の一種であるシステインを大量に持っており、このシステインのテトロドトキシンに対する解毒力は、非常に強力であることがわかってきたという。この事実を逆に応用すれば、ふぐ中毒にかかった人を治せるわけである。動物実験も多々なされているようであり、やがて、一つの朗報がもたらされることであろうと思う。
また、ふぐの毒性については、従来、学界で、ふぐ毒は自分の体内で製造されるという内因説と、エサによって蓄積されるという外因説があり、そのいずれが正しいかは定説がないとされていたが、ある研究グルーブの報告によれば、養殖したふぐについては、毒が検出されていないと言うことであり、また別の研究グループでは、オスについては毒性がないとされ、メスについては、天然のものよりかなり毒性が低いという報告もあるという。となれば、ふぐ毒は、エサによって蓄積されるのではないかとする外因説が有力となってくることになろう。しかし、いずれにせよ、まだ研究段階で実験例数の間題もあるということで、ふぐのシーズンに、これで一杯という方々は、まだまだ心を許せないということである。
現在、多くの都市では条例によって、ふぐの料理販売を規制しているから、中毒の発生は著しく減少した。しかし、それが絶無ではないところに、私は、人間の貪欲さを見るのである。(77−80p)
次のホームページも参考になる。
フグはフグ毒を作らない
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