中公文庫
解説に別の人が「本書を読めば、推理小説を何冊も読んだほどの犯罪捜査についての知識がえられるだろう。」とあるが、まさにその通りの本。
ベテラン検死官の本と言うとつい専門的な分野に入り込み過ぎ、読んでいるほうは眠くなりがちだが、この書はテーマごとにそれなりに易しく面白くまとめられている。
また基本的な話も話の中に系統的に結構取り込まれているように思う。
最後の検死
R大学助教授が教え子と関係、教授別荘宅で殺害、裏山に埋めたが、後に伊豆で海に飛び込み、一家心中した話。掘り出された教え子の遺体の状況が克明に記述されている。
その病死、待った!
飲み屋「おふゆ」のばあさんは、居室入口付近で倒れていた。自殺として処理しかかったが、索溝らしい物が見えたこと、舌をかんでいる、眼瞼、眼球に溢血点などから司法検死を請求。金取り目当ての他殺であることが明らかになった。
ゴムホースは知っていた
主婦が死んでいたが、最初に119番に電話したため、苦労した。首に巻き付いていたゴム管、ガス栓についていたゴム管、くずかごから見つかったゴム管切れ端から他殺が明らかに。夫の恋人の犯行だった。
このたびの不始末、お許し下さい
ホテルで、小切手、手形等を持ち逃げした女性の死体が、遺書と共に見つかったが(1)まだ現金化してないはずの小切手等が見つからない。(2)一緒にいた女が消えている。(3)着衣が乱れている。(4)頸部の索溝が両耳の下で止まっている。(5)不自然な両手。などから他殺と断定。当該女性に犯罪をそそのかした男友達等が逮捕された。
ある令嬢の死
多摩川堤で発見された女性の黒こげ死体は、生きた人が火を受けたときに見られる発赤と水泡があり、自殺と見られた。しかし(1)両手の先が焼けていない(2)腹部と接した地面の草が焼けていない。などから他殺と断定された。
消えたスリッパ
スリッパで廊下側から外に出て、外に向いた窓から自分の部屋に入り、密室殺人を装って、睡眠薬自殺をした女性の話。 ・蛆の育ち方と気温 三月・・・十六日、五月・・・十日、七、八月・・・五日等
熱い死線期
死線期に体温は41度くらいまであがる。病院に運ばれた変死体の場合、カルテなり看護日誌を見て、死線期に高温になっていた場合はまず頭を殴られたような外傷はないか調べ、これがないとすれば睡眠薬中毒死を考える。
悪魔の忘れ物
菊畑の中に放置された死体と犯人の物と思われる足跡および歯牙痕、廃品業者雇い人の死に伴う歯牙痕、弟のゴム長靴の足跡、忍師が中をうかがった証拠の唇紋等について。
濡れ場を洗え
遷延性窒息死=気道を圧迫すると、頭部への血の循環が悪くなり、その状態が持続していると、脳幹部に無酸素症が起こる。これが致命的となって、まもなくショック症状を起こして死ぬことがある。
指紋は語る
血液・・・ルミノール反応、ベンチジン反応 指紋=渦状紋、蹄状紋、弓状紋、無指紋の人など。幼児の指紋は濃密。 指紋の採取・・・・通常、アルミニウム粉 ビニール製品で苦戦・・・・成功例=炭素鉛微粒子粉末のローリング法
迷える銃弾
拳銃が犯罪に使われる割合が少ないために、日本の警察官はなれていない。射入口と射出口の区別すらおぼつかないケースが多い。Pホテルでおきたガードマン殺しは、二十二口径ライフルで至近距離から撃たれた物だが、良い学習機会となった。
狂った花鋏
婦人不動産業者殺害事件は、チリ紙についた指紋が決め手となった。犯人は証拠を残さぬ工夫をしていたのに、なぜハンマーで殴った後、花鋏で刺し、しかもそれをチリ紙でぬぐって、灰の中に刺しておいたのか不明である。 ほかにシンナー遊びによる事故死、これは酸欠であった。
墓借自殺人
私の検死した事件の順位は挫裂傷、創傷、絞頚死、溺死、火傷死、睡眠薬中毒死、ガス中毒死、縊死、特殊事件、青酸中毒死の順である。特殊事件の中にはお墓の納骨室の中に入り睡眠薬中毒死したようなものまで含まれる。
恨みの駆けつけ三杯
旅館で酔ってストーブをつけはなしたまま寝たところ、集合の元栓を旅館側で閉めた後、開けたため、中毒死した例、発見者がガスストーブを消してしまったため死亡理由が分からなくなった例、子供を部屋に閉じ込めガスを放出して殺した例、アパートのガス自殺で爆発が起こり左右の部屋の住民が死んだ例などを解説
彼岸の伏兵
溺死事件における鼠、鯉、ざりがに等による死体の損傷例を解説する。
終わりなき入浴
工場主から、自宅で妻が縛られて風呂の中に首を突っ込んで死んでいる、との電話。人影を見た、犯人らしい足跡があった、夫のアリバイ不十分などで他諸説紛々だったが結局は自殺。
私は誰だ!
道に倒れていた男は記憶を喪失していた。しかし現場の状況から交通事故に遭ったと判断、新聞報道から目撃者が表れた。
偽装への採点簿
背広をナイフで切り、小指の血を擦り付けたものを油紙にくるんで砂利置き場に放置し、自殺したように見せかけようとした詐欺男の話。米軍軍属妻から「夫がびわの木から落ちて死んだらしい。」の通報で出かけたが、実は酒癖の悪い夫を妻と長男が扼殺、頭部打撲で夫を殺した後、事故死あるいは強盗殺人に見せようとした話。
明日は我が身?
よなげ屋さんが下水道の中で爆発物にあい、死んだ話。簡易旅館で酔って吐物吸引による窒息死で死んだ男の話。
孤独と仏心の歳月
娘の自殺を他殺と主張してやまぬ親、ジャンケン心中、預金があると聞いて死体引き取りを決めた父親、子宮外妊娠で輸卵管破裂により、部屋中血だらけにして死んだ女など。
私の七つ道具=カメラ、テープレコーダ、検死結果の図面を描く用具、巻尺、標識、指紋・血痕・足跡その他の採取用具、開口器、開眼器、温度計、体温計(肛門より)、バケツ、ゴムシート他。 個人用黒鞄には、メモ帳、拡大鏡、ピンセット、人体解剖図、自家製虎の巻(死亡時間推定の基準、血液型早見表、直腸内の体温の基準、歯から年齢を見分ける法等)、数珠