風が俺の顔をなぎいていく。

近づいてくるプロペラ音、ここから先は俺とキッペイたちと、そして元俺の上司達と気狂い野郎たちとのゲームだ。
俺は、アイツらに笑われるわけにはいかない。







ここから先は俺が手玉に取ってみせる。






「キヨ!!やるこたァわかってるな?」
「ロケットが飛んできたらあさっての方向に向けて撃つ!!」

位置についたが声を張り上げる。
同じように声を張り上げて返すとはニヤリと笑ってゲパードの装備を最終確認し始める。
一応物陰に隠れるようにしてはいるけれど俺がいるのは明らかに船のデッキ、外から、いや空からは丸見えの場所だ。
そんな危ない場所だけれど俺はここにいなくちゃいけない。
手の中にある冷たい黒光りするものがズッシリと重さをさらに増やした気がする。
ソードカトラス、が普段から常備している二挺拳銃のうちの一つだ。
拳銃を見るのなんて初めてだし、触るのも初めて、なのにいきなりしょっぱなから俺はこれを使わなきゃいけない。






GAMEをチキンレースに変えてやる。






「正解だ!アホが見えたぞ、ぶっ殺せ!!」

がクイと口の端をあげる。
これじゃどっちが悪役なのかわからない、いやそれ以前に悪役の笑みが似合う少女ってのもどうなんだろうか。
後ろの方から黒い点がものすごい勢いでこちらに近づいてくる。
段々と大きくなっていくその点にゴクリと喉がなる。

!チキンレースだ、乗せてやれ!!』
「わかってんよ!」

キッペイの声に大声を張り上げて応えたはガシャンと音をたててゲパードを構えると、近づいてくる黒い点に向けてガンガンガンと連続で撃ち続ける。
硝煙の臭いが鼻につく、耳は少し前と同様どこかホワンホワンとしている。
ゲパードから放たれた銃弾は全て完璧にあのガンシップに当たっているも、どうやら戦闘ヘリのほうは装甲がなかなかいいらしく穴一つあかない。

「撃ってきます!」
当たり前だ、面白え!!受けるぜ、アホ共!!!

男がそういうやいなやガンシップからミサイルが発射される。
キィンとあの独特の音が耳に入ってくる。
発射されたロケットミサイルは二発、熱感知でもあるのかキッペイによって弧を描くように航行している船のあとを追いかけてくる。

「キヨ!来たぞ!!」

のその声が合図に俺は体を少し乗り出して銃を構えて、ミサイルとは違った方へと向かって二発発砲する。
初めてのその衝撃に最初はビクビクしていたのだけれど意外と必死だったせいかあまり感じない。
ただそれでも手に残る振動だけは感触として残っている。
俺の拳銃から(正確にはのだけど)放たれた二発の弾はまったく関係ない方向へと飛び出していき、そしてその弾にむかってミサイルは突っ込んでいく。
船のすぐ傍でドン!ドン!と花火が打ちあがったときと同じくらい、いやそれ以上の音が響き渡り、これは花火以上の迫力の爆発が起こる。
吹き付ける爆風の間をぬぐうように更に弧を描いてラブック・ラグーンは最高速度でバラワンへと向かっていく。

『"アルペン"コースに入ったで!!』

船の制御担当ユーシの声がイヤホンから聞こえてくる。
ユーシの目の前の電光海図にはしっかりとこの先のやらなくちゃいけない( ・・・・・・・・・・) 航路が描かれているはずだ。

『残り150フィート!二人とも、キャビンに戻りや!!』

のゲパードの嵐にうまい具合に"乗せられた"ガンシップは俺達の船の先で待ち構えている。
これで、全て整った。
はゲパードを放り出して、俺はとりあえず預かった銃を腰に差し込んでここまで素早く動いた事はないってくらいの俊敏さで船の中にもぐりこむ。
梯子を飛び降りる勢いで降りキッペイの構えている操縦席へと体を滑り込ませる。

『60!!』

キッペイの前に広がるカメラにちょうどスロープ台となるべき転覆した貨物船のボディがうつる。
そしてちょうどその上辺りに(きっとこれで俺達が終わりだと思っている)一隻の戦闘ヘリ。

体を固定しろ!ユーシ、アンカーだ!!
『了解!!』

キッペイの声にユーシがアンカー(錨)の発射ボタンに手をかける。
ドンと勢いよく撃ち出されたアンカーはうまい具合に目の前の貨物船のボディに突き刺さった。

『40!!』

体を固定しろと言われて周りを見渡してみるが固定できるようなモノも見あたらないわ場所も見当たらない。
も同様らしくとりあえず近くのパイプに両手でしがみついてはいるみたいで、俺もそれを真似るがのごとく近くのパイプにつかまった。
その瞬間だった。

"ファックしてやるぜ、ベイヴィィィ!!"

聞こえるはずのないあの気狂い男の声が聞こえてきた気がして。
それと同時に









――――浮遊感と衝撃









ブラック・ラグーンは空を飛んだ。
転覆した貨物船のスロープをえがいた側面部分を滑るかのように最高速度で走っていたブラック・ラグーンは乗り上げ、まるでスキージャンプのように宙に浮いたのだ。
船のアンカーが既に貨物船に撃ちこまれているので決して飛びすぎる事もなく綺麗に弧を描くかのようにして着水する。
そして、貨物船のちょうど上空に待機していたあのガンシップは見事空を飛んできた船によって真っ二つにされ。
右手中指を突きたてた俺が気狂い男のかわりに









してやったぜ( ・・・・・・)








と叫んだ瞬間大爆発を起こした。
降り注ぐガラスの破片、金属破片、転がる俺の体、ぶつかってくる船の中の備品、ゴミ、ゴミ、ゴミ(ほとんどゴミだったかもしれない)
俺はなんだかそう叫んで、とてもスッキリした気分のまま意識がブラック・アウトした。





























「…………」

船室の中はまるで喧嘩した後かのようにすさまじい有様だけれど、とても静かだった。

「信じられん、首がもげてない」

着水する衝撃で椅子にベルトで体を固定していたにも関わらず目の前のモニターに頭からつっこんだキッペイは額からダラダラと血を流してはいたものの、ムクと首をあげると一番にずれたサングラスを直しはじめた。

「サングラスも無事だ。アーメン・ハレルヤ・ピーナツバターだ」
「ファッキン・クライスト様々だぜ。だがもう二度とやらねえぞ」

何かでぶつけたのか、それとも何かがぶつかったのか。
左目の周りにまるで殴られたかのように青あざを作っているがひっくりかえったままの状態で声を漏らす。
引っくり返った際腰を思い切り壁にぶつけたのか、おーイテと言いながら手でさすっている。

「ユーシ、大丈夫か?いや、無事か?」
『機材がメチャクチャやん!新調してくれへんかったらスト起こしたる!!』

思いきり元気なようだ、まぁ彼の相棒たちをのぞいて、だが。

そうだ、キヨ!!キヨはどうした?」
「そこでノビてるぞ」

勢いよく体をおこしたにキッペイが指でさしてやる。
振り向けばその先でうつ伏せの状態のまま体中にモニターのガラスやら何やらを被ったままダランと気絶している千石の姿があった。
血も流れていないようだし、息もしている。
どうやら全員無事に"生き残った"ようだ。

「ぶつかる時大声で喚いていたな。「ワイルドパンチ」のウィリアム・ホールデンみたいな口ぶりだった」
「それにしても……気持ちよくノビてやがるぜ」
「ああ。まったく……」

ノビてしまっている千石の姿を見つめていると自然と笑みがこぼれてくるのが二人は気づいていた。
散々平和な世界で生きてきた"ホワイトカラー"らしい言動をとっていたのにもかかわらず、最後はまるで人が変わったかのようだった。
面白い、面白いとは思っていたがここまでとは誰も思わなかったのだ。

「とんでもないのを拾ってしまったな……」

だがそれが愉快で仕方ない。
キッペイは口角が上にあがるのを抑えるべく煙草の箱を取り出すと一本口にくわえた。















海に太陽が沈もうとしている。