この回は非常にバイオレンス色が強いです、血・暴力etc苦手な方は先へ進まない事をお奨めします
























「山吹重工の対応がちょっと引っかかってな」

壁に並ぶ本棚にギッシリと分厚い本ばかりが詰まっている。
本だけではない、ファイルやレポートのようなもの色々だ。
その本棚の前に荘厳な机が一つ。
革張りの椅子に座って受話器を耳に当てつつ葉巻の煙をふっと口から吐き出したのは、色素の薄い髪に綺麗な碧眼、泣きボクロが麗しい一人の男。
どこぞの云拾万もするようなスーツを着こなしている、彼の顔を一度見たものは決して忘れる事はできない。
その整った顔つきに、ではない。
額から顎の辺りまで右目を覆うようにして伸びているケロイドに、だ。
それでも、彼のことを綺麗といってしまうのはモトがとんでもなくキレイだから、ということなのだろうか。

「まぁそれで探りをいれたんだが、中国鼠( ・・・ ) が食いついてきてな。今話を聞いてる最中だ」

部屋の中は煙草の煙の匂い、それから鉄の匂い。
机の前のスペースには体格のいい男達がバットやら金属棒を持って立ちずさんでいる。
ただのバットではない、有刺鉄線の巻きつけられた『拷問道具』だ。
そんな男たちが囲む中、一人の( ) が転がっている。
赤く染まりつつある床を現在進行形で汚している張本人だ。

『誰が動いているんだ?』
「ちょっと待て」

左肩で受話器を支えるように挟むと男はチラっと横たわっている鼠に向かって視線を投げかける。

「飼い主の名前、大きな声で」

男のその言葉とともの鼠の投げ出されたような前足に足を乗せていた男の一人がグッと足に力をこめる。
メキと骨がきしむ音が聞こえてきたがとがめるものなんて誰もいない。
更に言うと、指の一つの上に鉄製シャベルの先が押し付けられている。
柄の部分にはしっかりと他の男の足と手が置かれていて、力さえこめれば――

しっしっ、新義安だ、新義安の張大兄だァはッ!!大兄はあんた方を潰すつもりで情報を――」

鼠の顔は既に青黒く腫れあがっていて、恐らく右目は既に機能していない。
口の中の歯もほとんどないに等しく、まるで老人のようだ。

「日本人はそれを元に…殺し屋をタイへ向かわせたんだよォ!」

心なしかシャベルに足を置いている男に力が入る。
――喋ったろ、やめっやめてッ!
鼠の悲鳴が響き渡る。
――カンベンして頼むおっおっアッ!!!
シャベルの先はかわらない。
男の手と足に男の体重がかけられる。
ゴリッというなにかが削られる音、鼠の断末魔。

「聞こえたか?」
『あぁ、やばいなそれは』

鼠の姿を見ることなく葉巻の煙を吸い込み吐き出した男は顔色一つ変えず、寧ろ笑みを浮かべ音も立てずに椅子から立ち上がる。
そうして、ケイゴは床に転がる鼠を見下ろし再び口を開く。

「兵隊の規模、所属を大きな声で。忙しいんだ、さっさとしろ」
えっ、エクストラ・オーダーって傭兵派遣企業の連中だぁっ。人数までは俺も知んねえんだよ!

鼠が声を振り絞って、叫び声のごとく聞きたい事を喋り終わるとケイゴはクルっと立ち上がったまま後ろに振り返る。
電話相手のキッペイにも鼠の声がはっきりと届いたのだろう。
小さく舌打ちする音がケイゴの左耳に入ってくる。

『ツイてないな、くそっ』
「そうだな、同感だ」

受話器を耳に当てたまま、ケイゴは後ろに控える男たちに顔も見ずに口を開く。

「Убйть.Бопьшеза Вопрос」(もういい、質問は終わりだ)
「Да Капитан」(はい、大尉)

彼の口から流れるように出てきた言葉に了解の言葉を男たちが返す。
その後のことはもうケイゴには関係がない。
ただこれから起こるべきことにそなえて、葉巻を灰皿の上に置き受話器を当てていない方の右耳を指を栓するようにして塞ぐ。

「どうあっても俺たちにタンゴを踊らすつもりらしいな、あの阿呆共。E・O社は手練の戦争屋が集まってるぞ」


ドンドンドンドンドン


部屋の中に硝煙と火薬の匂いがひろがる。
今度は鼠の叫び声もきこえてこない。
それもその筈。

「――キッペイ、くれぐれも用心しろよ」
『あぁ、そうするさ』








―――鼠は猫に。








―――とびきり上等なロシアンブルーに。
























カチン。
音を立ててジッポの蓋が開けられる。
点灯した火に銜えていたシガーを近づける。

「配置、終わったか?」

ジッポの蓋には"I KNOW I'M GOING TO HEAVEN"と彫られてある。
本体の方には"1981〜1992"の文字とアフリカの地図。
ところどころに×印が、恐らく手書きで彫られてある。
印のついている場所は、リベリア、ナイジェリアにチャド、スーダン……年代とあわせて示すところは一つしかない。

「始めようや」

バチンとジッポの蓋が閉じられる。
その瞬間、イエローフラッグの入り口の扉がバァンと大きな音をたてて開かれ、迷彩柄の服を着た男たちが何人も中へ流れ込んでくる。
どの人間の手にも銃、それも小型銃ではない。
大型銃もとい、ライフルと呼ばれる種類だ。

「イェア!!楽しく飲んでるか、クソ共?俺からの素敵なプレゼントだ」

サングラスをかけ、一番に入ってきた男たちの中心に立つ男が両手に持つ丸い物体を掲げて下卑た笑いをこぼす。
キィンと音を立て丸い物体の先っちょの部分がポロっと落とされる。
突然乱入してきた男たちに訳もわからず立ち上がるなりなんなりして入り口に顔を、体を向けている。

「受け取れ」

そう言ってコロンと男の手を離れて中へ放り込まれた丸い物体は



―――ドガンドガンッッッ!!!



派手な音と煙、火薬の匂いをあたりいったいに充満させ入り口付近のテーブルにたむろっていた人間たちを吹っ飛ばした。