「やつらだ、確認した!!攻撃!攻撃!」
―――攻撃!!
―――攻撃!!
ブラック・ラグーンに一斉に打ち込まれるミサイル。
艇には当たらず全てゲームかなにかのように艇のまわりの海に落ちていく。
そのたびにベガスのホテル前の噴水のように水しぶきが立ち上がる。
ぐらぐらと揺れる足場でしっかりと立っていることはできない、近くにあったロープに咄嗟にすがりついた。
「キヨ!!てめェは隠れてろ!!」
の大声に隠れるってどこにさ!と叫び返したかったがやまない砲撃に相変わらず口から出てくるのは情けない悲鳴だけ。
いや、別に情けないってわけじゃない、はずだ。
至って平和な日本では、こんなの、テレビの向こうの世界かゲームや漫画の世界の光景なんだから。
(まじで俺の人生、どこでどう間違っちゃったわけ!?絶対に死ぬ!これは絶対に死ぬ!)
『クソっ!!ユーシッ!!』
『わかってんで!機銃は自動照準にあわせてある!!』
ガヒュンガヒュンと音を立てて戦闘ヘリからミサイルが飛び出てくる。
高速で動き出したブラック・ラグーンはそれを全て避けながら艇の向きがぐんと変わったのが立ってられないほどの風でわかった。
腰を抜かすほどではない、けれどまともには立ってられない。
『ゲパードをだしてこい!やばいぞ、コイツは相当ヤバイ!!』
艇の上でくるくるとこちらを馬鹿にしてるかのように旋回する戦闘ヘリからの砲撃はやまない。
きっと耳は既にいかれている、日本では聞くことのなかったド派手な音しか聞こえてこない。
『!ッ!!!』
「聞こえねえ!なんだってんだ!?」
立ってられないほどのこの空間の中でちらっと目を動かせば、デッキの上で備え付け対戦車ライフルを既にしっかりと抱え込んで上空で旋回しているヘリに向かってはガンガンとぶっ放していた。
逞しいなと一瞬思ったが、すぐに考え直した。
これが、こいつらの世界なんだ。
「Shit!!!」
がライフルを抱え込んでいた場所にミサイルではないものの銃弾の嵐が襲い掛かる。
その銃弾はどうやら床をつきぬけたらしくの耳にキッペーのあげた声がはいってくる。
「なんとかしてよ!ジョン・ランボーは弓矢でおとしてたよ!!??」
「うるせェ!だったらてめぇがなんとかしてみせろ!!」
いつのまにか物陰にはいって銃撃から逃れていた俺にが鬼のような形相でふりむいた。
その手にさっきまで船にしっかりと溶接されていたはずのライフルが抱え込まれてあって、もう鬼というかなんというか、一言で言うなら「さまになってる」これにつきた。
「狙いがあわねぇ!船とめろよ、キッペー!」
『冗談言うな!あっという間にハチの巣になるだろうが!!』
とキッペーの会話の間にもの手元からはガンガンガンとライフルがぶっ放されていく。
もう、まじで生きた心地がしない。
ふと自分の床についた手にガサッとなにかが当たった。
何かと思ってこそこそとそれを手にして、それが何かを認識した途端俺はさっきまでの絶望感が少し、いや本当に少しだけ、1000分の1くらいなくなった。
「あっ!キヨ、テメー!!!何やってやがんだ!?」
ライフルに夢中になってればいいのに目ざとく俺を見つけたは一瞬にしてぎょっと目をむいた。
「もう付き合いきれません。俺はここで降ろさせていただきます。では、さようなら」
そう言って先ほど見つけた救命胴着の紐をぎゅっと縛りなおした。
気分はまさしく、ブラボー救命胴着ってとこだ。
が、そうは問屋が卸さず。
「ああ降りなよ、インポ野郎!!でも救命胴着が欲しいんなら金を払いな!!」
「ぐうぇぇっ!!やめろーっ!放せ、この銭亡者!!!」
のやつはぶっ放していたライフルを放り投げると救命胴着を装着済みの俺に馬乗りになってそれをはがしにかかってきた。
最初は本気で胴衣をはがすつもりだったらしいけれど、次第に抵抗する俺にイライラしてきたのか胴衣の紐にかかっていた左手はいつの間にか紐から離れ俺の顔の上で思い切り握りこぶしを作っている。
やばい、この女、この手を俺に振り下ろすつもりだ、と頭の中でサイレンが鳴り響く。
そもそもこの目の前にいるのは女かどうかも怪しいくらい、逞しかった。
タンクトップからのぞく二の腕も短パンからのぞくスラリと伸びた足も、どれもしっかりと筋肉がついていて日本ではお目にかかれないほど健康的な、そんじょそこらの男よりも逞しい体つきだった。
頭の中を一瞬にしていろんな映像がぐるぐると流れていっては消え、流れていっては消えていく。
走馬灯、これを見るのは今なのか、となにかがプチンと音をきれそうな状況の中ゆっくりと振り下ろされていく拳が目に入る。
あぁ、終わった。
さようなら、親父、お袋。
さようなら、その他の親戚。
さようなら、友達。
さようなら、全世界の人々!!!
覚悟が決まったような決まらないような、そんな状況の中で突如としてグオングオンという轟音が耳に入る。
その瞬間太陽がさんさんと降り注いでいたはずのこの場所が一瞬にして影に覆われる。
「ひ、わ、わわわわわわわわわわ!!!!!後ろ!!後ろぉっ!!!」
の体ごしに見えるのは、さっきまで雨よ嵐よとばかりに弾丸を降り注いでいた一隻のガンシップ。
備え付けられているライフルの照準はとてもいい俺の目によれば、明らかに俺達のほうにむけられていて。
――――――ズ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
再び防弾傘がこの世にあるというのならばいざ我が手に!!と完全に自分でもわかるくらいいかれたことを頭の中で考えるほどの銃弾の嵐が俺達を襲ってきた。
カンカンカンとまわりの鉄筋部分に当たって銃弾がはじかれる音が耳に入る。
ズンズンズンと木製の床に銃弾がめり込む音も耳に入る。
そうして、頭の中に巡るのは本日二度目の走馬灯。
懐かりし日々、楽しかった中学時代、それなりに馬鹿もやった大学時代。
たくさんの色んな人の顔。
「あぁ、俺、千石清純は今日この場で果てます…」
ぼそりと口にだせば、グオンと先ほどまで耳に入っていたプロペラの爆音が遠ざかっていくのがわかった。
あれ、と頭を抱え込んでいた両腕をゆっくりと外しソロリソロリと頭を上にそらせば先ほどまで俺達を狙い撃ちしていたガンシップは上空へと消えていき、大空の中一点の黒い粒となろうとしていた。
「おいおいおい!攻撃やんだぞ?何だ?」
訳がわからなかったのは俺だけではなくもだったらしく、唖然と口をがっつりとあけて空に視線を向けている。
『……おかしいで、キッペー。あいつら、俺達を穴あきチーズにすることができてんで?なんで引き上げたんや?』
『同感だ。何かがおかしい』
の耳にイヤホンごしにキッペーとユーシの会話がはいってくる。
行くぞとに腕をひっぱられてドタドタとブラック・ラグーンの中へと押し込められる。
「せや、何か。俺らは何かを見落としてるんや―――」
「高度あげてバラワンの入り口まで先行しろ」
戦闘ヘリの一番先、特殊ガラス張りの席についていた男の声がその後ろの一段高い操縦席に座っていた男達の耳に入る。
「お言葉ですが大尉。今なら奴らひき肉にできますが」
「マイヤー、わかってねェな。ひよっこかよ、手前」
ぐんぐんと高度をあげていけば先ほどまで視界にはいっていた魚雷艇は小さく小さくなっていく。
「連中は頭から尻の先まで罠にはまった」
まともに機能しない耳に特殊ヘルメットごしに大尉と皆が呼ぶ男の低重音の笑い声が響いてくる。
「焼き方はレアでもローストでもご自由にってな。連中が泣いて喚いて小便チビつところ、大笑いしながら眺めてえだろ?」
ピコンピコンと男の目の前に広がる緑色の電光板に船の形を模した点がバラワン島の方へと駆けていく。
それを見つめながら男の傷だらけの顔は至極愉快なものを見つけたとばかりに、残虐に歪んでいく。
ピコンピコンと音を立てる点は戦闘ヘリの少し先を、王者から逃れる草食動物のごとく罠へと向かって進んでいく。