、好きなものはペットのアメリアちゃんだった、ちなみにゴールデンハムスター。
社会人になって独り立ちして初めて貰った給料で一番最初に買った家族だった。




、嫌いなものは猫全般、特に隣のおうちの三毛猫のホームズ(赤川○郎を狙ったのかは知らない)
アマリアちゃんを買い始めて三週間目にアマリアちゃんをあろうことか餌にしやがったこんちきしょうだ。




、社会人四年目。
颯爽と髪をなびかせてバリバリと働くキャリアウーマン、なんかじゃなくてとにかくひたすらコピーと書類整理やらを任されるしがないOL。
特技はパソコン入力、ブラインドタッチは勿論片手だけでも結構キーボードを扱える自分的にはなかなかイケテルOLだ。













そんな享年2○年。
そう早い話が死んでしいました、らしいよ?
らしいよ、ってまるでヒトゴトのように言えるのはあたしの足元になんだか微妙に足が変な方向に曲がって頭から血を垂れ流してる自分らしいモノが転がっているからだ。
多分人形じゃない、と思われる。はっきり言って自信がないけれど。
ていうかもしこの下に転がってるのがあたしだとしたら、オイオイ、そこのあたしを轢きくさったお兄さんヨ、逃げるんじゃないよコラ!
真っ青な顔をして道路に横たわるあたしの姿を見るや否や慌てて車に乗り込もうとするお兄さんに勿論大声をはりあげてストップをかけるが、どうやら聞こえないらしい。
それどころか急発進したお兄さんの車はあたしの体をすりぬけてどこぞへ走り去ってしまう。

「おいおいおい、車がすり抜けませんでしたか今。え?あたしってば透明人間・・・じゃなくってユーレー?」

走り去っていく車のバックナンバーを頭の中に叩き込むも、ユーレーとかいうものになったとしたら叩き込んだ車番もたいして役にたちゃしない。
なんだろうか、どんどんと青白くなっていくあたしの体を見下ろしながらあたしは素直に今の状況と感情を享受していた。
パニックを起こすわけでもなければ泣き叫ぶわけでもない、死んじゃったァと悲観するわけでもなく勿論死んじゃってるじゃーんと喜ぶはずもない。
というのも、多分横たわっているあたしの腕の中にとある物体が見えるからだ。

「あたしにも衝動ってもんがあるわけだ・・・くそぅ」

白い毛とところどころにのぞく色んな濃さの茶色の毛、すなわち隣の家の三毛猫ホームズ。
ピクリとも動かないところをみるともしかするとホームズもあたし同様お亡くなりあそばしているのかもしれない、触りたくても触れない、生きてるのか確かめる事もできない。
きっと普段のあたしなら猫の毛がちょろりと肌に触れた瞬間に雄たけびをあげて尻尾を巻いて逃げるはずなのに、だんだんと完全なる死体に近づいていく(今も充分死体だろうけど)あたしの体は猫を抱え込んじゃって、まぁ。
本当に衝撃の姿だ、ありえない。
小さい頃に猫に思い切りふとももをひっかかれて以来ネコというネコは触れたくもない、大嫌いな存在になった。
引っかかれた跡は今も太ももに残っている、最悪だ、乙女の玉のような肌に傷跡!
ネコ目というネコ目は全て性悪にしか見えないほどで、ペットショップなんぞはもってのほかだった、近寄りたくない場所ナンバーワン。
さらに最愛のアメリアちゃんをホームズに食べられてからはますますネコ嫌いに拍車がかかり、ネコという単語を聞くだけでもおぞましいと言ってしまうほどだった。
それがどうして目の前のピクリともしないホームズを抱え込んでまで道路に横たわっているかというと、それはもう本当に『咄嗟の出来事』としか言いようがなかった。
たまたま帰宅中に通りがかった道路をたまたまホームズが横切りたまたまそこに暴走かと思われるほどのスピードでお兄さんの運転していた車がやってきたってだけで。
ホームズの存在に気付いていないと思われる車はホームズに向かってスピードを緩めることなく向かっていき。
暴走する車の先にはたとえ最愛のアメリアちゃんを食しやがったといえども知りあいのネコ、ものすごい大嫌いで触りたくもないネコ。
気付けばあたしは道路に飛び出して腕の中にホームズを抱え込んで―――

「そこでドーンぐしゃ、ですか。あーあー、なんだかあたしの人生はネコが絡むとろくなことがないなマジで」

腕の中で恐らく冷たくなっていっているのだろうホームズに触れることのできない指先をそっと近づけてみる。
血だまりの中立ち尽くしているというのにユーレーという存在は液体にすら触れることができないらしい、まるで体の中を液体が通り過ぎていくような不思議な感覚が足元から伝わってくる。
あぁでも感覚らしきものは感じえないのだけれども。

「お前もついてないな、せっかくネコ嫌いのあたしが助けてやったっていうのに助からなかったのか」

独り言を呟くかのごとく口を開くも、すぐについてないのはホームズではなく明らかにあたしじゃないかと頭を上げる。
そうだ明らかにあたしがついてないのだ、助けようと思ったネコは死ぬわ関係ないあたしは衝動でつい死んでしまうわ、つか本来ならあたしって死ぬ必要ないんじゃないの?

「・・・・・・・おかあさん、ホームズのせいだっつって盛大にお隣さんから慰謝料ふんだくれ!じゃなきゃ死んでも死にきれん!!

きっと今のこのスケスケじゃない生身の体があったのならば、憎さ百倍とばかりに目の前のホームズの毛を毟り取っていたかもしれない。

アメリアちゃんの敵!
自分の敵!
憎しや憎し、お隣さんちのホームズくん(山口さんちのツトムくんのノリだ)










―――ニャゴーにゃあにゃにゃにゃあ(隣の家のちょっとヌケてるお姉さん、そこまで言うならネコの神様にお願いして助けてやるよ)









「は?」

どこからともなくネコの鳴き声が聞こえてきたと思えば自分のただでさえスケスケの体がさらにスケスケ度をましていこうとしているのに気付く。
抱え込んでいた膝はもう見えるか見えないかの度合いで手のひらはかろうじて色が判別できるかってくらいだ。
なんだ、この現象は。
普通幽霊になったら地縛霊だとか浮遊霊だとかになって人についイタズラなんかしちゃったりするもんじゃないの?
折角ここぞとばかりのお隣さんの阿呆夫婦(ご近所さんでも有名なジコチュー夫婦なのだ)のところに毎夜毎夜さ迷いでてやろうと思っていたところなのに。
どうして消えていかなくちゃいけないのか、なぜだ。
しかもさっき聞こえてきたネコの鳴き声はホームズではなかったか、あの泣き声は絶対にあたしがオフの日に限って我が家のベランダでくつろいでいるときにだす傍迷惑な泣き声にそっくりだ。

ぐぞう!ホームズめぇぇぇ死んでからもなおあたしを苦しめるというのか!えぇい隣の夫婦ごと恨んでやりところだけど後々『怨霊の正体はだった!』とか言われるのも困るし、まだお母さんも慰謝料をもらわなきゃいけないだろうし、あたしにどうしろっつうんだぁぁぁぁぁ」

そうして足が消え、腹が消え、腕が消え、多分あたしの頭も消えた。



のだろう、消えたあたしにわかるわけがないだろうが。









―――にゃごー!!にゃにゃにゃあ(あ、ワリ!ついネコ語で喋っちまった)








意識ごと消える瞬間に聞こえてきたのはまたしてもにっくきホームズの泣き声。
にゃごにゃご五月蝿ぇよ、このアメリア殺しの犯人め!