パチリ
音にするならばまさにこの音がぴったりだ、瞼が自然ともちあがり光が目の中に入ってくる。
光といっても薄暗い、遮光カーテンでしめきった部屋の中にいるような薄暗さだ。
くあとあくびをもらし軽く伸びをしようと思い両腕を頭の上に持ち上げる。
いつものように手と手を組んでぐんと伸びをしようとして、自分の手と手が頭の上で届かない事にハタと気付いた。
右腕を伸ばしても、左腕を伸ばしてもお互いの手と手がぶつからない。
勿論ぶつかるわけがないから手を組む事もできない。
なんでと思うよりも先に、手を組むために必要な指の感覚がおかしいことに気付いてもそもそっと自分の指を動かしてみる。
むにゅむにゅ
わきわきと動くはずの指は何故かむにゅむにゅと動く。
いや、動いたのは指じゃない。
おかしいくらいに短くなった腕を自分の顔の、目の前に持ってきたときに全ての理由がわかった。
「ふんぎゃーーーーー!!」
私のスラリと長かった指(かなり自己逃避が混じってはいるけれど)とピチピチの肌をかろうじて保っていた(自分で言っていて情けなくなった)麗しの手は、真っ白な毛に覆われた肉球の目立つ・・・
そう肉球のあるどこをどう見ても獣の手になっていたのだ。
動いていたのは肉と肉の間に埋もれている爪で、とてもじゃないけど指とはいえない。
いやそもそも指なんてものがあるのか、この手。
「なにこれなにこれなにこれ!?つい先週ネイルサロンにいって手入れしてもらったばかりの手はどこへいったわけ!?気合いれて支払った万札はどこにいったわけ!?」
動かせど動かせど。
動くのはスラリとした指ではなくむにゅむにゅと出ては消え出ては消える爪ばかり。
「悪夢だ・・・・悪夢としか思えない、もう一度寝る。寝るしかない」
自分でもサーっ血の気が引いていくのがわかる。
クラッとする頭をなんとか支え、どうやら腕だけではなく全身白い毛で覆われちゃってるなんてことに気付いてはいても気付かないフリをして私は早々に目を無理矢理瞑り、これまた無理矢理夢の世界へと旅立つ事にした。
したのだが―――
あまりにもとっぴょうしもないことで逆にアドレナリンが放出されているのか、目がギンギンだ。
とてもじゃないけれどゴートゥードリーミングは無理なはなしだ。
「なんだろ、したくもないのに動転してるというか興奮してるというか、いやいや興奮はありえない、ありえなさすぎる」
パニックを起こしているのは確実だ、うまく思考がまとまらない。
落ち着かなきゃと思えば思うほど落ち着かなくなる。
「現状把握よ、現状把握するの!獣みたいなのは腕だけかもしれないじゃない!!」
自分を慰めるつもりで言ってみて、腕だけ獣の手な人間をすぐに思い浮かべ落ち込んだ。
果てしなく気持ち悪い、ケンタウロスなんて目じゃないくらい気持ち悪い。
まだミノタウロスのほうがマトモに思える。
「せめて、足だけでも・・・っ!!」
どんなに必死こいて祈っても視線をずらして目に入ってくるのはこれまた真っ白な毛に覆われた二本の足と真っ白な腹、それから。
「しっぽ・・・・」
ゆらゆらと揺れるAボーイが好きそうなアイテムその1、真っ白で細長い尻尾だった。
「ほげえええええええええ!!!!!」
いける、今度は夢の世界へ旅立てる、寧ろ気絶バッチコイ!
そう思えたのに腹の底からだした叫び声を無残にも遮って尚且つ私の夢への心地よい旅路を邪魔するものが現れた。
「なんじゃ、さっきから五月蝿い五月蝿いと思えば発情期の猫か」
グンと首のところを誰かに掴まれたと思った瞬間横たわっていたはずの私の体は空中に浮き上がり(空中で体がぶらんぶらん揺れる体験は初めてだった)ガラリとかわった視界の先に髭をはやした老人の顔がはいってきた。
なんだこの爺さん変な格好しやがって云々云々。
つか爺さんあんた巨人かい云々云々。
もっとレディは丁寧にあつかわんかい云々云々。
色々言ってやろうとしたのだがそれよりも先に爺さんの視線が私の顔からススススっと下に下りていき、
「なんじゃ、雌か。ほんに、五月蝿い発情猫じゃ」
私の大事な(!)大事な部分をジロジロ見やがった瞬間、思わず爺さんの顔めがけて口よりも先に手が出た。
勿論、力をこめて爪はしっかりと構えて。
「こんの、女の敵めぇぇぇぇぇ!!!死にさらせぇぇぇぇ!!」
「ぎゃーーーーーーーっっっ!!!!」
チャララン、は必殺技を覚えた → 元一万円の爪攻撃