「顔に抉りこむ爪の角度といい深度といい、完璧じゃ
『ちっとも嬉しくねぇよ、この変態!覗き魔!女の敵!!』
「ひどい言い様じゃないか、猫の癖に」
『猫いうな、この変態!覗き魔!女の敵!』

もう一度元一万円の爪攻撃を目の前の爺さんに食らわせてやろうと爪をシャキンとばかりに出してみるも、よっぽど先程の攻撃に懲りたのかはたまた相当食らったダメージが大きかったのか、爺さんは嫌そうな顔を思い切りしながら私の首ねっこ(非常にそんな言い方をしたくはないのだが首根っことしかいいようがない)を掴み持ち上げると精一杯自分の顔から遠ざかるように腕をピーンと張った。
人間の腕の長さは猫の腕の長さのはるかに倍以上。
どんなに必死こいて私が腕をキシャーと振っても爺さんの既に傷だらけの顔には届かない、非常に腹の立つ事に。
絶対に認めたくない。

「どこをどう見てもお前は猫じゃ、その性格とは真逆の真っ白い体毛をもつ正真正銘の猫じゃぁぁぁぁぁ!!!!」
認めたくナーーーイ!!!




自分がこの世で一番嫌いな動物、すなわち猫。
その生体に自分が変身してしまっているなんて、この世が終わろうとも、自分が死んでしまおうとも(いや、確か既に死んだような気がするが)ありえないはずだ。
いや、そもそも人間が猫に変身してしまうことがあっていいのか!
不思議コンパクト装備の加賀美あつこじゃあるまいし、カメレオンがあだ名のサイボーグじゃあるまいし?






それがよりにもよって、猫!
ネコ!
CAT!!






『ホームズのせいだ!絶対ホームズが原因だ、あの厄病猫め!アメリアちゃんを食べるだけじゃなくてこの私をにっくき猫の姿に変えやがって!!』
「そう、お前は猫じゃ!鼠を捕獲する為に飼われ始めた山猫を始祖とする食肉目の小動物、すなわちネコホギャアア!!
『もったいぶって説明しやがってコノヤロ!コノヤロ!このファッキン変態ジジイ!!』

憎たらしいその顔に爪が届かないのなら、今目の前のさらされている爺さんの腕に爪をおったてるのみ!

『うおおお!くらえ!くらいやがれ、変態撲滅!』
「誰が変態じゃあ!霄瑤せん、彩雲国の超立派で偉い大師様じゃあ!!このネコ、いてっ、いたた、地味に痛い、いや地味じゃなくてかなり痛いから爪を、爪を人様の腕に抉りこむぬわぁぁ!」




















『ふわぁ』
「ネコのあくびか、暢気なものじゃ」
『五月蝿い、だいたい私はネコじゃないっつの』

変態爺さんと私の身の毛もよだつ(しかし爺さんだけ)攻防戦はどちらかといえば私に軍配があがったんだと思う。
ただしその後、爺さんにぽいっとゴミを捨てるかのようにゲージにいれられなければ。
もっと腕に爪を抉りこませてやればよかった、とゲージの中から思い切り睨んでやったものの所詮私は籠の中、爺さんはフフンと小馬鹿にしたように笑っただけだった。
まあ爺さんが私の存在についてなにやら思うことがあるらしかったので今は仕方なく大人しくゲージの中にいれられてやっているが、これでちっとも話の内容に身がつまってなかったら改・元一万円の爪攻撃を顔だけじゃなく全身に重苦しそうな装束を剥いででも仕掛けてやると心の中で決める。

「何度も言わせるな、お前はどこをどう見てもネコじゃ。ただし見かけだけのな」
『いやだからね、ネコじゃないのよ・・・ってハ?見かけネコ?なによそれ』
「ふむ。どうやらお前の場合、内(なか)と外(からだ)が本来正しくあるべきものと違っているようだの。外にあるのは猫の体、そして内にある魂の形はどこをどう見ても人のものだ」

―――ずずずず。

爺さんがお茶を飲む音が部屋の中に響く。
いつのまにかゲージから少しはなれたところの椅子に腰掛けた爺さんは私のほうに視線を向けるのでもなく、目を瞑ってお茶を飲み「あーうまい生き返る」とかなんとかほざいてるだけだ。

『つまりなんだ、体は猫で頭脳どころか魂は人間ってか?ありえないんですけど』
「確かに、ありえない話だが実際私の目の前に籠に入ってこちらを睨みつけておるんだが?」
『あのね、私ついさっきまで人間だったの。そりゃあ確かにしがないに超をつけなきゃいけないほどしがないOLでしたけど?でも人間で、指は五本、両足でしっかり二足歩行、尻尾やら耳やらはオタクじゃあるまいしついてなかったの』
「おーえるとかおたくとかよくわからんが、今のお前さんはしっかりと猫じゃ。もう一度説明してやろうか?鼠を捕獲する為に飼われ始めた食肉目の」
『爺さん、それは私への挑戦状?いつでも受けて立つよ!?』

霄瑤せんと名乗った爺さんに向かって白い毛に覆われた腕をのばすも距離的にも物理的にも(ゲージに挟まれて)無理で。
仕方なくウオリャとばかりにゲージに両前足をひっかけて揺らしてみる。
ガタゴトガタゴトと揺れるゲージに爺さんはまたまた馬鹿にしたような笑みを浮かべ、やれるもんならやってみろと口の片側の端っこをあげた。

『この変態爺さんマジでむかつく!!』
「いい加減その呼び名はやめてもらえんか?これでもしっかり霄瑤せんって名前があってだな」
『変態覗き魔で充分だっつの、ケッ。猫にみとめたくないけどなっちゃったといえ、普通人の、あ、いや猫の股間をジロジロ見るか!?いやーへんたーい
「変態変態連呼するな!籠から一生だしてやらんぞ!!」
『え・・・監禁プレイ?監禁王子?ってか爺さんだか監禁ジジイ?やだ、18禁どころか20禁とかの危ないゲームを隠し持ってたりしちゃうわけ!?』
お前は一生そこで過ごしてろ











カーン!!
霄瑤せんVS、第二の戦いのゴングがどこからともなく鳴った瞬間だった。

ちなみにのち数年後、私は霄の部屋から家まで家捜しをしてやるのだが某話題になった監禁王子のように陵○ものの危ないゲームとかは一切見つからなかった。
つまらない。