目の前で星が三つ浮かび上がって消えた。
チャラランなんてどこぞのゲームで使われるレベルアップ音とともに。

『・・・・・・なに?にゃあ(今の)』
「・・・・ん?」
『にゃにゃにゃごー(ちょっと霄の爺さん)・・なんかあたしの・・にゃごにゃにゃーん(目の前に星が)・・でてきたんだけど』
「ひ、霄?」

首から上をくるりんと霄の爺さんに向けてあたししか気付かなかったらしい不思議な緑色の星について聞いてみる。
あたしの真っ白な体を両手で抱き上げている隼凱という爺さんが眉をひそめたことなんて気にしない。
むしろ、気付かない、気付けない。
そこまで目線が高くないのだ、やはりネコの体ってのは不便だ。

「ひ、霄?おい、わしの耳がおかしくなったのか?」
『にゃおん!(ちょっと!)・・・変態爺さんニャゴニャゴー!?(聞いてるの!?)』
「霄!!幻聴が聞こえるぞッ!まだボケるような歳じゃないんだぞ、わしは!」

声にならなない悲鳴というのをはじめて聞いた、いや見たのかもしれない。
あたしの体を宙ぶらりんのところで支えてくれていた両手が突然パッと離され、危うく地面に激突というところで体が自然としなりトンと新体操なら100点をもらえそうな着地を見事に決める。
人間なら、人の体だったならばきっと無様に激突だったはずだ。
条件反射なんて誰でもできるけれど、体が動くかどうかは人によっておおいに違う。
標準よりもどちらかというとノロマな部類に入るあたしにしてみれば華麗な着地に思わず心の中で「うおおおお!」と拍手喝さいを自分に送ってやれるほどなのだ。
いうなれば、跳び箱飛べたぜ!な小学生の気持ちを味わっていたのだ。

「ねねねねね猫が喋ってなかったか!?」
「落ち着け、隼凱。どもりすぎると舌を噛んで口の中が血まみれになるぞ」
「ここここれが落ち着いていりゃれりゅギャ!痛っー!!
「ほぉれ、みろ。私の言うことを素直に聞かんから」

あたしの気のせいでなければ霄の爺さんの背後から「ぶわぁかぶわぁか」ってな音ならぬ声のようなものが聞こえてくる。
どうやらそれはもう一人の爺さんの耳も同様だったらしく、思い切り舌を噛んだらしい口元を手で押さえながらギロリと霄の爺さんを睨みつけている。
ただ変態の予言もどきはぴたりと当たってしまったらしく口元を押さえている手の隙間からタラリと赤いものが滴っているのが目にはいってしまった。
恐らく口の中はまじで血まみれに違いない。

『ていうかー ニャゴニャゴニャー!(爺さん二人でなごんでないでさっきの) 星の説明しろってんだー!』
「ほほほほほほれみろ!猫が喋った!聞いただろ!?今度こそお前も聞いただろ!?」
『ギャー!』

猫が喋ったどうのと言って隼凱という爺さんはさっきよりもはるかに乱暴にあたしの体を掴み挙げるとずいっとばかりに霄の爺さんの顔のまん前に突き出した。
あと数センチで変態爺さんとお口にチューってな最悪の状況で目の前の爺さんは嫌なものを視界にいれてしまったとばかりに、右手であたしの体をぽいっと放り投げた。

コノヤロー! にゃごおおおおおおおおおおおお!!(人をなんだと思ってんだ変態!)』
「ほら、コノヤロウって今猫が喋った!」
『ニャン!(着地!) さんってば100点満点!』
「百点満点とか猫は言うものなのか!?猫はニャーニャー鳴くだけじゃないのか!?」
「ああもう二匹揃って五月蝿いわい!見た目猫も隼凱も少し落ち着かんか!!」

放り投げたその手で隼凱という爺さんの頭をガツンと殴った霄の爺さんはそう大きな声を張り上げると幾分かすっきりしたように額の汗をぬぐうような動作をする。
投げられた先で見事に華麗な着地を決めたあたしはこの先いかにして変態爺さんに復讐するかを頭の中で考えながら、大人しく、あたしにしては比較的大人しく床に後ろ足を投げ出して座ってやる。

「猫が足を投げ出して座った!猫はあんな疲れた人間のような座り方をするか!?今までわしは見たことがないぞっ!!」
「お前の耳はどうやら見かけ猫よりも遠いようじゃな、隼凱」
「ふごごごごっ!」

あたしの食べかけの肉まんを掴み挙げると霄の爺さんはそれを思い切りいまだ落ち着きのない爺さんの口の中に突っ込む。
それはもう奥へ奥へと突っ込まれ、ふごっとまるで死ぬ寸前のような音を喉奥から垂れ流しようやく隼凱という爺さんは黙ることとなった。

「隼凱、その猫の説明はあとできっかりしてやる。ついでに面倒だからお前にやってもよい。とりあえずとにかくわしに話をさせろ、お前の話はそれからだ。いいな?」
「ふごふご!」

その突っ込まれた肉まんから漏れて聞こえる音は『了解』なのか『これを取ってくれ』なのか、それは本人にしかわからないが彼の目を見る限り後者だと思われる。
微妙に涙目だ。

「さて、猫もどき」
『猫言うな、変態!』
「ふごごごご!(やっぱり猫が!)」
「だまっとれと言わんかったかのぅ・・・・」

途端肉まんから音が聞こえなくなる、ある意味賢明な判断だ。
これ以上まだ変態爺さんが手に持っている肉まんをさらにつっこまれれば隼凱という爺さんの気管といい食道といい、肉まんで詰まってしまうかもしれない。
死亡原因:肉まんっていうのはあたしの死亡原因:憎きホームズなんかよりもはるかに恥ずかしい。

「何度も言うがお前の体はどこをどう見ても猫で、尚且つ内蔵系列他もろもろも猫じゃ!話す言葉も猫の言葉で人間様の言葉ではない。当たり前だがそんなお前が人と会話することなど到底できぬ話じゃ」
『ぐぬぅぅ!!』
「しかーし!おぬしの魂をここへと導いてきたモノには慈悲の心があったらしい」
『慈悲の心があるなら猫なんかに変身させねぇよコンチクショウ』
「よいか、猫もどき!星じゃ、全ては星じゃ!人と触れ合うことで友情というものをチマチマ築いていくのじゃ!友情を築きあげていけば先程のように星が現れ、友情を壊していけば星がお前の前で落ちていくのだ。相手にとって信頼できる言動や行動を行えば星は増え、相手にとって不快な言動・行動を行えば星は減っていく。星が多ければ多いほどその相手との友情、そして信頼関係がうまくいっとるというわけだ」

なんだかとっても恋愛シュミレーションみたいなんですけど。
そもそもなんだそのうさんくさい友情度システムみたいなのは、と声を大にして言ってやりたいのだが実際あたしの目の前に突然緑色の星はあらわれ変な音とともに昇っていったのだ。
いまさらあの不気味な光景を忘れろといわれても無理な話だ、となるとこの変態爺さんの話を信じるしかなくなるわけだ。

「星は最大で10個まで増える、それ以上は増えやせんが減ることはあるぞ。えー、ちなみに星をあげていくともれなくお前の言葉が星をあげた相手限定で少しずつ伝わっていくぞ。えーと、なになに、他にも特典があるらしいが・・・・」
『おい、爺さん。さっきから何を見て・・・』
「もう面倒じゃ、お前、自分で勝手にこれ読んどけ。さっき廊下で拾った」

そういうとなにやら手に持っていた白い冊子のようなものをポイとあたしに向かって放り投げる。
肉球はあっても指なんてないあたしの手じゃ「ナイスキャッチ!」な行動をとれるはずもなく、けれどつい今までの習慣から飛んでくる冊子に向かって手を伸ばしてしまい

『イタッ!』

その冊子はあたしの頭に見事落ちてきた。
バサッとあたしの頭上で広がったそれはあたしの視界を覆い隠すかのようにかぶさり、真っ暗になってしまった視界を振り払うかのように頭をぶんぶんと振れば静かにその冊子は床に落ちてくれる。
つうか廊下で拾った本がなんで友情度システムもどきとやらに関係があるのだとばかりにひっくりかえっている冊子をなかなか使いにくい猫の手を使ってひっくりかえしてみれば――




の飼い方





表紙らしい一番はじめのページには墨で黒々と、そしてデカデカと、そんな腹立つことこの上なくそしてある意味正しい文字が書かれてあった。