『私ね、思うんだけどこの世界っておかしいよね。色で全て決めちゃうなんてぶっちゃけおかしいんじゃないの?あ、言いすぎ?』
「うぬぅ、おぬしの声はどうせ他の奴らには聞こえぬから目を瞑るというか聞かなかったことにしといてやるぞ」

ぱたぱたと尻尾を揺らせばこそばゆいからやめろと言って隼凱爺さんに軽くたしなめられる。
ぽかぽかと日差しはあたたかく、何よりくっついている爺さんの体温が心地よい。
通り過ぎてゆく人が皆頭を下げていくのを爺さんの頭の上にいながら見下ろしているので心地が良いといえば良い、もっと正確に言うなれば気持ちがいい。
思わず高笑いしたくなる。

『私の世界にも昔禁色ってあったよ、あったとも。お隣の国では黄河っていう海みたいな黄色い川が全ての源だとされてたから黄色は皇帝一族しか使えなかったって聞くし、私の国でも何色かあったみたい。でもさぁ、別にぶつくさ言うつもりはないけれど自分達しか使っちゃ駄目って傲慢この上ないよね』
「そう言うな、規制がなければ示しがつかんではないか。それがこの国では色だっただけじゃ」
『示しも何もさぁ、この国自体一部の色のついたお家の方々で動かされてるようなものじゃん?成り立ちからして傲慢だよ』
「・・・・お前、猫でよかったな。さすがに今のを鴛洵が聞いておったらぶちきれておったかもしれんぞ?だいたいのー、わしは賢くないからな難しいことはわからんが所詮国なんてのは選ばれた人間によって作り上げられて選ばれた人間によって運ばれていくもんじゃ。選ばれんかった人間には悪いがな、それこそ天命とやらじゃないのか?」

猫じゃないから私。
その言葉は胸の中にとどめておく。
ついでに、私猫でよかったのかもしれないとも。
この城の外を自分の足で歩いた事はない、歩いたこともなければ見たことすらなかった。
話を聞くだけだったのだがとてもじゃないけれど自分には生きていけそうな世界とは思えなかったのだ。
勝手にスイッチ一つで暗くても家の中は真昼のように明るくなる私に火打石だかなんだかの使い方なんてわからないし、スーパー一軒にさえ行ってしまえば食べたいものの食材をなんでも手に入れることができたのに今更色んな店を駆けずり回って食材集めに走ったり手に入れたいものが手に入らないなんてごめんこうむりたい。
冷蔵庫もなければ電子レンジもなくて洗濯機もない、私にしてみれば縄文時代の生活となんら変わらない気がしたのだ。
人間のまま放り出されていたら私は今頃とうの昔に三途の川を渡り終わっているだろうじいちゃんと以前のように口喧嘩していただろう。

『天命、天命・・・そうなのかなぁ。この国じゃ確かに努力だけじゃどうしようもないことがあるよねぇ・・・あいも変わらず男尊女卑っぽくてイヤんなっちゃう』
「努力つうのは良い言葉かもしれんが所詮報われるのはほんの一握りの人間だけじゃあ。かくいう自分もそうだと常々思っているがな」

ふん、と鼻息荒く隼凱爺さんは胸を張る。
宋隼凱、確かにこの爺さんの名前には色がない。本人の昔話によると叩き上げも叩き上げ、運がなければ朝廷三師なんてトンデモ役職には就くことはできなかったという。
茶鴛洵、あの爺さんには名前に色があるけれどどうも本家本筋の人間ではないらしい。
これまた色々云々あったらしく今は当主におさまっているらしいけれど、昔の日本のように能力主義ではなく家格主義のこの国では相当の軋轢があったに違いない。
ちなみにもう一人の変態爺さんはノーコメントだ、あれは最早人間でもないので避けたい方向なのだ。

『でもほら、今まで散々言っておいてなんだけど「運も実力のうち」って言うじゃない?隼凱爺さんがここまでのし上がってきたのも運だったかもしれないけれど実力でもあって、それでもって天命でもあるのよ。きっとしなくちゃいけないことでもあるんだよ』
「わしが、しなくてはならないことか?」
『そう、外の世界でもこの宮中でも魍魎が徘徊するようなどすぐらい時だからこそしなくちゃならないことってあるんじゃないの?よくわからないけどさァ、ヒーローによくあるパターンよ』
「ひぃろぉとやらが何かはわからんが、まあ確かにな。まだわしにでもできる事は多々あるわな!!他の二人にも負けてられん、王のためにも!!」

ぐっと拳を握り締めなにやら気合を入れる隼凱さんの肩の上で私は無責任にも「そうそう、その通り!」と煽った訳だが。
それがまさか後にこの国の新しい王様となる少年へのスパルタ教育に繋がるとは思いもよらず・・・










今は誰も知らぬ未来で私は猫の身でありながら土下座をする羽目になる。




















拝啓、『の飼い方』編集者&このとんでも国にとんでも設定で送り込みやがったコンチクショー様

人間でありながら猫になってしまって早一月、時の流れとは早いものですネ。
いまだ猫ではなくパンサーだと言い張っていますが、そろそろこの体はしなやかなパンサー体型に成長しないものでしょうか。
いやいや、一番は人間に戻りたいんですけど戻してくださるんでしたら是非このとんでも国じゃなくて元の世界に返してください。
返せないならやっぱりパンサーみたいな素敵スレンダーボディにしやがれってんだ。
あーごほん、一月このとんでも国で過ごしてみて私は悟りました。
人生苦もあれば苦もある、とにかくひたすら苦しかない。
水戸黄門様のように楽はありません、あるとしたら変態爺さんに爪を立てるときくらいですコノヤロー。

ところでどうしても一言言っておきたいことがあるのですが、このなんちゃって恋愛シュミレーションみたいなシステム、どうにかなりませんか。
恋愛どころか爺さんとの友情しか上昇しませんけど、これじゃあネオロマンスには程遠くて発狂しそうです。
そう、せめて友情システムだけじゃなくて恋愛システムも組み込んでください。
個人的に最後は白雪姫みたいな王子様のチッスで人間に戻れるっていうシステム希望です。
くれぐれも爺さん以外でお願いします。

それが叶えられないんだったら人間に戻しやがれってンだコンチクショー!!!

















、元社会人四年生、現在パンサー(仮)
爺さん二人と変態一匹に囲まれながらもなんとか生きております。


「あにうえ、霄大師の部屋の前で猫が頭を抱えてなやんでいたのだ」
「・・・・・・・・見間違いじゃないか?どうやって猫が頭を抱えるんだよ」
「こうやってぐるぐるまわってたのだ、フンギャーとさけんでたのだ」
「・・・・・・・・春だからな・・・」