あたり一面に広がった煙が徐々に晴れていく。
少しずつクリアになっていく視界の中で、確実に無事であろう不二と警戒の為あのお騒がせな鬼の姿を探す。
が。

「ゲホゲホ…っ」
「すごい煙と光だったね」
「相変わらず暢気だね、不二」
「そんなことないよ?」

笑顔で首をかしげる不二の姿に、まぁそりゃあ普通の女の子ならキャーー!とか可愛い〜〜!とかいや〜〜ん!とか言っちゃうのかもしれないけど(本当に言うのかな)
私は『こわ〜い!!』としか叫べない。
ついでに『何たくらんでるの〜?』とも叫んでしまいたくなる。
勿論そんなこと叫べば私の明るい未来はここで潰えてしまうのだけど!
思うに私じゃなくて野郎共がそんなことを言えば首がチョンなのは考えるまでもない。

「そんな事あるんですよー…ってあれ?」
「どうかした?」
「あのでっかい鬼が…いなぁぁいっ!!!!」

すっきりした私の視界には不二とセーレと呼ばれた男しか入っていない。
さっきまで私の前にいたでかい図体をした鬼がいなくなっているのだ。

「うげ!何処に行ったのさ、あの鬼!」

このまま鬼が消えてしまった場合、とりあえずは依頼は達成されたという事でクリアになる。
なるけれど。

「それじゃあ私の気がおさまらなーーーい!」

あそこまで追い詰めておいて消えるなんてとんでもない!
なにより、今回の依頼、不二の話を聞いてる限りおかしな点が多すぎる。
まず、誰かに覗かれていたという点。
笛の音、日に日に増していく鬼の力、誰かの視線。
導き出された答えは、この事件は誰かに仕組まれた物、だという事。
不二がアシュタロトと契約を結んでいる限り、アシュタロト配下の仕業とはまず考えられない。
魔族は勿論下克上思考が非常に高いけれど、自分の力はわきまえているのがほとんどである。
過去ベルゼブブがルシフェルよりも格下であった時、彼はルシフェルに無謀にも望みそして負けた。
魔界においても封印されている空間へと飛ばされた彼がこうして魔界へと戻り、今魔界の実権をほとんど握っているという実態はそもそもベルゼブブが九つの命を持っていたからである。
アシュタロトは生まれながらの魔界の大公爵。
その力は父君の上をいき、ベルゼブブに筆答する。
その彼と契約しているのが不二と知っての事件なのだろうか。

「もうわかんなくなってきた…」
「あ、
「なに!?私、今無い頭使って一生懸命考えてるんだけど」

ただでさえ訳のわからない状況で、追い詰めた鬼までいなくなっているのだ。

「鬼ならここにいるよ」

イライラして当たり前…
当たり前…あたり…ま…

「どこーーーーーー!?!?!?」

ぎょっとして不二の方に顔を向けると笑顔で不二が何かを手で握り締めている。
それは小さい人間のようで、というか人形のようで。

「な、なに握り締めてるの?」
「どうもさっきの鬼みたいだよ?」

ほら、といって握り締めている手を私のほうに差し出してくれる。
あーん?と思いその握り締められている人形をよく見てみると。

「いや、これさっきの鬼!?ちょっと可愛過ぎるんだけど!?」

ちょうど手のひらサイズ。
髪の毛は赤色で猫っ毛なのかはたまた唯単にボサボサなのか、その髪の間からは小さな角のようなものが一本見受けられる。
気を失っているのか顔はよく見えないが、なんだか胸にキュンとくる感じではある(私だって女なんだからキュンとくらいはくるさ!)

「でも帯びてる気はさっきの鬼と同じだし、鬼がいた所に落ちてたんだ」
「あ、落ちてたのね…へぇ…」

不二の手の中でくてんとなっている鬼の子を見つめながら、試しにつんつんと突いてみる。
すると、んにゃー、という小さな声が返ってくる。

「これ、絶対さっきの鬼じゃないって!んにゃーとか言ってるし!表用菊ちゃんかよ!」
「でもさっきの鬼なんだよ、セーレもそう思うでしょ?」
「あぁ、100%間違いなくさっきの鬼だ。力は急に激減しているが、操られていた事等考えれば納得はいく」

銀色の髪をはためかせセーレは不二に答える。

「にしても一体今回の事はどういう事だ…」
「…少し考えないといけない事がある。とりあえずまずはこの鬼だよ。もう操られてはいない筈だからいきなり襲ってくるような事はないと思うんだけど」
「俺がいるから襲ってはこないだろう、いくら鬼の子でも力の見分け方くらいは出来るはずだ」
「それもそうだね、でもいつ起きるかな、この子」

不二とセーレが並ぶとそれはそれは美しい(外見は)
いくら不二の中身を知ってる私でもこう美少年と呼ばれる人間が二人並んで立っていたら少しは『ほぅ』とか思う。
思うんだけど!!

「あのぉ〜…」
「なに?

思うんだけどね…

「ここから離れません?さっきから暗闇で光る目がいくつも私達を狙ってる気がするんだけどー…」

ここ、アフリカなんだよ。
夜行性の肉食動物、いっぱいいるのよ。
一応私達動物だからね、『肉』なわけよ。
いつのまにか周りハイエナだらけだっつの!!!!

「本当だ」
「本当だ(クス)じゃないのよ!まだ死にたくない、というか私達シマウマじゃない!」
ってば僕の物真似似てないね」
「いいからさっさと日本へ移動しろーーーーーーーーーー!!!!!」

多少涙が目に浮かんでたかもしれない(だって周り光ってる目がいっぱいあるんだもん)
不二にそう叫んだ瞬間、仕方ないなぁという不二のあきれ返ったような声とともに再びあの空間がぐんにゃりというか自分がぐんにゃりという感覚がする。

そして目を開けると、そこは。

「事務所の…地下?」
「とりあえずね、この鬼の子の事だけ片付けておきたいからね」

そう言って不二は近くにあった椅子に腰をおろす。
私も同じようにあくびをかみしめながら近くの椅子に腰を下ろす。

「さて、そろそろ起きてもらおうか」
「私思い切りぶっ放したからまだ起きないと思うんだけどー」

不二に一応そう言ってみる。
図体がでかかったのでそれなりに力込めてぶっ放さないと駄目かな〜とか思っちゃったりして思い切り派手にぶちかましてしまった記憶がある。
そんな私に不二はにっこりと笑い、そのまま鬼の子を握り締めている手を自分の口元に近づける。




起きないとこのまま握りつぶしちゃうよ?




その瞬間不二の手の中で意識を失っていた鬼の子が飛び起きたのは言うまでも無い。




本当、不二も魔界へ行けばいいのに。