「さて、鬼の子くん」
「…なんじゃい。ついでに言うとわしはお前より年上だぞ!」
「聞きたいことがいくつかあるんだ」
「無視かい!!」
「彼に逆らわない方がいいよ、まだ死にたくなかったら」

小さなテーブルの上にちょこんと座っている鬼の子に、処世術を教えてやる。
私ってなんて親切!

は少しの間黙っててね」
「Yes , Sir!!!」

そんなニッコリ微笑まないで欲しいな。
ただでさえ眠くて眠くて仕方なくて何かしてないと夢の世界に旅立ってしまいそうなのに。

「なんじゃい、わしに聞きたいことって」
「自分が操られていた、っていう記憶とか心当たりはあるかな?」
「あぁ…まぁなんとなくな」

そういって鬼の子はしょんぼりとうなだれてしまう。
なんて、可愛いの!!

「その前にお前らの名前を教えてくれ。わしは天黄山の黄牙ちゅうんじゃ」
「コウガね?私は、こっちの笑顔魔王は不二周助っての」

そう言って手を差し出すと黄牙は私の指を一本ぎゅっと握ってくれる。
勿論その仕草に再びノックアウトされたのは言うまでも無い!!

「実はな、わしはそのーちょっとな、昔ちょっとした事が原因でー…その…封印みたいなことされてた、んだよな」
「はぁ?」
「ここに今、わしがおるっちゅうことは誰かがわしの封印を解いてくれたっちゅうことなんじゃが…」
「心当たりは?」

不二がそう問いかける。
が、黄牙は再びしょんぼりと項垂れてしまう。

「どうも封印解除の時から何かしらの術にかかってしまっていたんだと思う。あの暗い場所から出てきた時、わしの頭の中はとある事だけで一杯だった」
「とある事?」
「わしの器を取った奴らから取り返すことじゃ!」

えっへん!とばかりに胸をはる黄牙。
話を聞いてるとどうもさっき言っていたちょっとしたした事という所までさかのぼるらしい。

鬼達は各自自分の『器』というのを持っている。
それは食器であったり水飲みであったり、鬼によって用途は様々だが各自一つは持っているらしい。
鬼達にとってその器は自分達の一番の宝物である。
死ぬまで決して器をその身から放すことは無い。
例え器がボロボロであろうとも、使えなくなっても。
そして、黄牙の器はというと。

「人間達に奪われたんじゃ、まさか陰陽師がおるなんて思わんでな」

黄牙の器は人間でいうところの『ピカピカと黄金に光る』器だったらしく、陰陽師やら武士やらなんやらに囲まれて封印されてそれはそれはあっという間の出来事であったらしい。
気付けば自分は出る事の出来ない真っ暗闇の中、宝物の器は人間の手の中へ。

「そりゃまぁ命の次に大切な器を取られたんじゃ、恨み言はたくさんあったぞ」

まさかそれを逆手に取られるとは思わなんだがな。
そう言って黄牙はハァと息を吐き出す。
暗闇から出てみれば、もう頭の中は器の事、そしてそれを奪っていった人間達のことでいっぱいだったらしい。
そう、他の事は考えられないくらい。
負の感情だけでいっぱいになっていた。

「笛の音が聞こえると腹の底からなにやら力が湧き上がってくるようでな、そして頭の中に声が響くんじゃ」


お前の器はあそこにあるぞ。


お前の器を奪った人間はあそこにおるぞ。


さぁ、奪え。奪え。


壊せ。壊せ。



その言葉に身を、心を任せてしまうと楽になるのだそうだ。
そして。
今に至る、らしい。

「ふーん、コウガちゃんも騙されたのね〜」
「そうなんじゃ!じゃなきゃ人前にホイホイ姿なんか見せんわい!!」
「でも、その器を取った私達人間のことは憎いでしょ?」

そう言うと、まぁそりゃあな、と小さく呟くのが聞こえる。
返せ返せというのは彼の命の次に大事な器のことだったんだ。
不二はともかく、私にはコウガちゃんが嘘をついているようには思えない。
一応これでも人を見る目はあるつもりだ、この場合は妖怪かな?
見る目はあっても流されて流されて付き合ってしまうという場合も多々あるんだけど(私の目の前に座ってる人のようにね!)

「でもなんで皇居にいたの?」
「知らんわい!笛の音にわしは従ってただけなんじゃから!!」
「で、器は見つかりそうなの?手がかりとか」
「そんなもん、ない!!」

さっきと同じようにこれまたえっへん!と胸をはって言う。
でも内容からして威張れる事じゃないよね、寧ろ悲しめよって話だよね。

「じゃあ器、どうするの?鬼は皆持ってるんでしょ?命の次に大事なんでしょ?」
「…んなことわかっとるわい!わしの…わしの器ぁぁぁ!!!!」

ドバっと涙を流しながらそう言う所、やっぱりかなりショックなのだろう。
器を探すのを手伝ってあげたいけど手がかりもないんじゃどうしようもないし。

「あ、じゃあさ!私が器買ってあげる!」
「へ?」

器っつっても茶碗とか湯のみとかでいいんでしょ?
だったら私でも買えるもの!

「い、いいのか?新しい器くれるのか?」
「勿論!でもコウガちゃんの方こそ新しい器なんかでいいの?命の次に大事なものなんでしょ?」

私がそう言うと、やっぱり思うところはあるのか少ししょんぼりとうなだれる。
しかも妖怪が誰かから物を貰うということは、それ即ち物を贈ったモノに仕えるということにもなる。
私の場合、こんな可愛いコウガちゃんが一緒にいてくれるならそれでいいけれど。
一応彼は私よりも遥か昔から生きてる鬼だから、それなりにプライドみたいなものがあるんだと思う。
が。

「まぁかまわん!お前らにわしも助けられた身じゃ。封印も長かったし、これを機会に心機一転っちゅうことで!」

なんともマイペースな鬼だった。
鬼が全てこうだとは思いたくないけど。
どうもどことなくずれた鬼のような気がする。



とにかく、なんだか成り行き上鬼の子の黄牙は私の使い魔もといお友達になった。