、よく来たな」
「…真田、よく来たな、じゃないっつの!!!」

改札口を出ると迎えとして来ていた真田弦一郎が表情一つ変えずに立っていた。
あの顔で(しかも無表情ときた)改札口の前にバーンと陣取っているのだ。
他の人の迷惑というか、ぶっちゃけ他の人の心と視界の迷惑というか。
とにかくあらゆる意味で邪魔だ(そして私は恥ずかしい…)

「なんだ、迎えにきたのにその態度は」
「お前達こそなんだ!人のこと、名指しで呼びやがって!!」

そう、昨日スミレちゃんから貰ったプリントもとい資料をよくよく見てみると。
明らかにファックスでスミレちゃんに送った補助人員要請のプリントなのだが。
最後の最後に手書きでこう書いてあったのだ。




尚、要請する所員はでお願いします。
寧ろ他の所員はいりませんのであしからず。        幸村精市




「なんで私なわけ!?こっちにしたら寧ろ他の所員でお願いしますって感じなんですけど!?」
「それは困る。これで跡部とか千石とかにこられても仕事の邪魔になるだけだ」
「なら私だって皆の邪魔してやる!」

今日は土曜日だ。
勿論土曜だろうが日曜だろうがお構いなしに仕事は入ってたりするけど、でも今週の土日は何も言われなかったから本当なら休みになってた筈なのに!
なのに!!
なのに、なんで神奈川なんかにいるんだよ!!

「お前はいいんだ。幸村が喜ぶから」
「は?やだよ、幸村が喜んでもこっちには全然いいことないんだから!」

幸村と不二、どちらがより最凶かと聞かれたら非常に困る。
二人はそれぞれ違ったタイプで最凶だから。
不二の場合、精神的にギスギスと苛め抜いていくのが基本。
しかもその事をちゃんと自分でわかってやってる所が手におえない。
ニコニコと笑いながら何を考えているのかこちらにわからせない、まさに性悪根性曲がりである。
それに対して幸村の場合。
彼は精神的にも体力的にも疲れさせてくれる。
しかもコイツはその事を自覚していない天然ヤローである。
ニコニコと笑いながら何を考えているのかこちらにわからせないというより、幸村の場合何を考えているのかなんて理解したくない。
突拍子も無いことばかり言ったりやってのけたりする奴だ。
どっちがより最凶か、そんなもの答えなんてない。

「そんな事言わないでやってくれ。幸村も遊びたい盛りなんだ
幸村一体幾つだよ!?お馬鹿っ!!」

そして今私の隣を歩いているこの男、真田。
こいつも手に負えない、というのも幸村の事を溺愛してしまっているから。
溺愛というのは語弊があるのかもしれない、心底惚れこんでいるのである。
勿論幸村を見る目にフィルターがかかっているのは言わずもがなという奴である。
そして更にこの真田を溺愛しているのが一人。

「真田、ご苦労様」
「柳、出迎え有難う」

旅館の前に立っているこの人間、柳。
真田を一言で言えば?と問うと可愛いと称し、真田のどこが好き?と問うと全てと答える、ある意味不二や幸村よりも最凶なんじゃないかと思われる人間である。
ちなみに好きだからといって奴らがモーホーな訳ではない。
柳に言わせると『純文学』なんだそうだ(訳がわからない)

「さ、早く中に入ろう。赤也が待ってるぞ」
「あぁ、そうだな。早く試験を終らせてやらないとな」
「これで少しは旅館の方も楽になるといいんだけどな」

二人は私の存在を無視するが如く、さっさと中にはいっていく。
柳の事だから、わかってやっているに違いない(真田の場合は流されているんだと思うが)

「やっぱり帰りたい。帰ろうかな…」

ポツンと一人旅館の前に立って呟く。
今なら誰もいないし見てない。
帰ったところで別に被害はない、そうだ、帰ろう!と息こんで後ろを振り返ると。

「わぁ、!久しぶりだねぇ、元気にしてた?会いたかったよ」

ニコニコ笑いながら全ての元凶幸村精市がいつの間にか立っていた。

「ひっ!!!」
「あぁ、が来てくれるなんて嬉しいなぁ。やっぱり無理を承知で書いてみるもんだね」
「あ、あんたいつの間に私の後ろに立ってたの!?」
「ほらほら、皆も待ってるから中に入ってよ。ブン太もね、すごい楽しみにしてたよ?」
「いや、人の話聞こうよ」

ぐいぐいと私の背中を押しながら(それもものすごい力で)私は抵抗する事も出来ず(いや本当幸村ビクともしないんだもの)二人揃って(無理矢理)旅館の中に入っていった。

「幸村っ!!」

と、そこでものすごい形相をした真田が奥の部屋から飛び出てくる。

「何処に行ってたんだ!ここで待っていろとあれほど言っただろう!」
「真田、ごめんね。でも早くに会いたかったんだ」

そこで真田がギロっと私を睨んでくるのはなんでだろう。
いや、わかるけどわかりたくないっていうか?

「それならそうと他の連中に一言言ってから旅館を出ろ、心配するだろう!!」
「うん、ごめんね。ただ早くに会いたかっただけなんだ…」

さっきから幸村の返事は答えになってない気がするんだけど。
そして、なんで真田はまた私を睨みつけてくるんだ!!

「それならいい。今度からは気をつけてくれ」
「うん、気をつけるよ」

にっこりと、本当邪気のない笑顔で(幸村の場合は本当に邪気が無い)真田に微笑みかける。
真田もその返事(と笑顔)に満足したのか「うむ」と軽く頷く。
が。

「さ、さ、さ。、早く奥の部屋行こう!が好きだって言ってたもみじ饅頭用意したんだよ」

とサラリと真田を無視するような感じで幸村が私の腕を取って歩き始めると。
三度目。
後ろから痛いほど鋭い視線が私の背中をさす。
ヒィ!と心の中で叫びながらちらっと後ろを振り向くとそこには、鬼のような形相をした真田が私を睨んでおりました。
そしていつの間に現れたのか柳がその真田を慰めるように肩をポンポンと優しく叩いていて。

「昼ドラ満載かよ、この旅館」
「どうしたの?」
「んにゃ、なんでもないよ…」



本当に帰りたい。