「紹介しよう、今回神奈川支部最終試験を受ける切原赤也だ」
奥の部屋で真田に紹介された少年は、観月サンよりも髪がクルクルと悶えている目つきの悪い子でした。
髪が悶えるという表現は可笑しいのかもしれないけど、一番ピッタリシックリきたのでよしとして下さい。
「で、こっちがお前と一緒に監督として同行する…」
「下僕はどうでもいいよ」
同じように真田が某スキンヘッドを紹介しようとしたけれど、それを却下させてもらう。
今更スキンヘッドの紹介なんていらない。
本当今更だし。
「赤也、こいつが今回お前の試験の監督をするだ」
真田が切原に私の名前を告げる。
「少々癖のある奴だが(一応)東京本部から(幸村が勝手に呼んで)来てくれた奴だ」
「その含みのある部分が気に入らないのですが」
「最後までしっかり面倒見てもらえ」
無視かよ。
恐らく、いや、十中八九さっきの廊下での事を根に持っているに違いない。
更には。
今のこの状況にも。
「ねぇ、幸村」
「なに?どうかした?もみじ饅頭食べないの?せっかく取り寄せたのに」
「後で食べるよ。それよりさ…」
「なになに?」
「ちょっと暑苦しいから腕から離れてくれないかなーなんて…」
そう、幸村が私の腕に張り付いて離れてくれないのだ!
おかげで真田の視線が痛い痛い…
紫式部の源氏物語で源氏に恋焦がれ他の女に嫉妬するあまり怨霊になった女がいたけれど…きっと真田はそいつに今負けてないんじゃないだろうか。
でも、勘弁して欲しい。
真田の怨霊なんて幸村にしか(ある意味)祓えないんだから。
「ども、センパイ。よろしくっす」
そう言って差し出された手を幸村がしがみついている方の手で握る。
差し出された手が左手なのが気に食わないけど(右手は友好の証、左手は喧嘩売るぞゴラァっていう意味を持つからね)
切原の顔は至って笑顔だったので、左利きだったのかなと軽く流しておく。
でもきっと不二がここにいたら、嘘をつくなとか言われそうだけど。
そう、左利きだったんだよと軽く流したのだが。
「女のアンタにこの仕事つとまるわけぇ!?つか監督が女って最悪なんだけどー」
最終試験会場であるビルに入った途端、奴はおそらく被っていたのだろう猫の皮を捨てたのだ。
一階の入り口が幸村の力によって消えた瞬間の出来事だった。
「はぁ?」
「げっ!!」
突然後ろを振り向いて、思い切りバカにしたように言い放った切原に対しジャッカルはものすごく慌てだす。
慌てだすところを見る限り、奴は切原の性格もとい本性を知っていたに違いない。
「バカ!赤也、お前は黙ってさっさと試験を始めろ!!」
「だって、女じゃん!?この業界魔物とか妖怪ととかと戦ったりしなくちゃいけねーじゃん?!」
ジャッカルに背中を押されながらも私に聞こえる声で文句を言っている。
コイツ、さっきまでネコ被ってたな…と煮えたぎる衝動を抑えながら奴の後姿をみ、後を追う。
今回の神奈川の最終試験はある意味至ってシンプルだがある意味最悪の試験だ。
異空間に建てられた100階建てのビル、それが今私達がいるこの建物である。
仁王の能力によって作られたこのビルは、各階ごとに魔物が一匹ずつ配置されている。
今いるここ一階から順番に各階の魔物を倒していき100階までのぼりつめるというのが基本的ルールだ。
このビルは仁王が作っただけあって非常に特殊。
例えばさっきも言ったように今私達がいるのはまだ一階。
しかし辺りを見渡しても歩き回っても二階に通じる階段が見当たらない。
ついでに出口も見当たらない。
が、ここで。
「ザコは引っ込んでろ!」
とわかめ頭の少年が各階に配置されている魔物を倒しちゃうと。
「あ、なんかいきなり階段が現れた!」
「とまぁ、こういう風に上の階へと続く階段が現れるって寸法です」
「、お前誰に喋ってるんだ?」
さて、次に。
「オイ、無視するなよ!!」
上のフロアに三人揃って上がります。
すると、アラ不思議!
「うわ!さっきの階段が消えた!?」
「先程魔物を倒して現れた階段は後片も無く消えてしまいます」
「だから、!誰に向かって喋ってるんだよ!!」
「えぇい!五月蝿いわ、ハゲ!黙ってそこのワカメ坊やの監督でもしてな!」
「お前も監督だっつの!!」
まぁとにかく、そんな感じで100階まであがらなきゃいけないというこの最終試験。
シンプルだけど最悪でしょ?
何が最悪って監督なんか任されちゃったから一緒に一階から100階まで動き回って上り詰めて歩かなきゃいけない私だっつの!!
幸村のお馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!!