空気が変わった。

ジャッカルも訝しく思っているようで、この階に着いた途端部屋中を眉をひそめて眺めている。
試験が始まってから「雑魚ばっかりだ」とほざいていたあのワカメ頭も一応何かおかしいとは感じているようではいる。
この階にたどり着くまでのようにブツブツと愚痴を零す事はなかった。
部屋のど真ん中に体を持っていき、いつでもどんな風にでも対処できるよう、それなりに構えている。

ワカメ頭こと切原赤也は結局、一階からここ九十九階にたどり着くまで、あの小五月蝿い愚痴を止めることはなかった。
五十階の辺りで私と一応口論らしきものは行ったけれど、その後私が何も言わなくなったのをきっかけに益々彼の愚痴がヒートアップしていたことは隠すまでもない。
この試験が終ったらとりあえず憂さ晴らしに真田を苛めようと心に決めつつも、我慢してこの階まで登ってきたのである。

確かにこのビルに用意されている魔物は非常にレベルの低いものではある。
けれど的確にそれを消していく赤也の実力は確かな物だとも言える。
けれどどうしても私はこのワカメ頭の態度が気に入らなかった。
全ての魔物や妖怪、幽霊イコール敵としてしか認識してないんじゃないだろうか。
現れた途端に問答無用で消していく。
力は認められても、それは本当に正しいこの事務所の態度なのだろうか?

結局私自身も何も言わずラスト一階というところまでたどり着いた。
何も言わない、とジャッカルに言ったもののやはり赤也本人に認識させるべきじゃないかと思う。

「やーっと出現、ですか?」

赤也のその声にふっと遠くなっていた意識を戻らせる。
部屋の隅に魔物が出現し、それに対し赤也はニヤっと笑いかけていた。

「結局全部雑魚ばっかじゃん!」

そのまま勢いよく赤也は飛び出し反応の遅れた魔物に対し「バイバイ」と笑いながら言って彼の者を消した。
断末魔をあげるまでもなく、魔物だったものは灰の様にその姿を消していく。

「あーあ、つまんなかった…もっとマシなのないんすかー?」
「赤也、おまえなぁ…つまんないとかマシなのとか、不謹慎だろ!ゲームじゃないんだからよ!」

ジャッカルが両手を腰に当てて、振り返った赤也に先輩らしい事を初めて言った。
しかし赤也はというと、は?とどこか小馬鹿にしたような顔をし

「え?ゲームと同じようなもんでしょ?」

と漏らした。
私がその言葉にカッとなったのは当たり前で。
きっとこの台詞、キヨちゃんや跡部、手塚さんあたりが聞いたらすごく怒ると思う。
三人だけじゃない、私の周りにいるあのメンバー達はきっと全員怒る。

私達はゲームをしてる訳じゃない。





駄目だ、っ!!ソイツはお前が…っ!!





ぐっと奥歯をかみしめ両手を握り締める。
ぎりっと奥歯からは音が漏れ、手のひらに爪が食い込む。

そして。
突然だった。

何か大きなモノが圧し掛かってくるような重圧を感じたのは。