なんともいえない重圧。
それを肌で感じた瞬間、私は足を思い切り踏み込みそのまま目の前に突っ立っている赤也に体当たりをかます。
私の体共々赤也の体も吹っ飛び、二人揃ってゴロゴロと部屋の中を転がる。
勢いをつけすぎたせいか赤也はそのまま部屋の壁におもいきり体をぶつけたらしく、ガンという音とともに「イテッ」という声が聞こえた。
「…ってーな!クソッ!何すんだよ!!」
どうやらぶつけたのは頭のようらしくしかめ面をしながら右手で自分の頭部を撫でている。
「うるっさいなー!ちょっと黙っててよ!」
「体当たりかましといて何言ってんだよ!こんにゃろ!」
「―――赤也、お前、さっきまで自分が立ってたところの後ろの壁を見てみろ」
ぎゃーぎゃーとまくし立てる赤也に静かにジャッカルが言をさす。
はぁ?と怪訝な顔をしながらジャッカルの指差す方を振り向く赤也。
その指の先にある壁には何か衝撃を受けたような穴がぽっかりと開いており、穴の淵はいまだ電気を帯びているのかバチバチとありえない音を立てていた。
穴の向こうは真っ黒な闇。
仁王によって作られたこのビル自体、仁王の霊力そのものである。
ビルの壁は非常に強固で、これを破られることはまずありえない。
ありえるとしたら、それは仁王の能力を上回る奴によるもの。
「な、なんだ、あれ…」
溶けるようにして開かれた穴を見つめながら赤也が呟く。
「面倒臭いことになってるのねー…。これ、ワカメ頭には厳しいんじゃないのー?」
ハァと溜息をついてジャッカルの方に振り返る。
するとジャッカルの隣にいた赤也が顔を真っ赤にし、私の方を睨んでくる。
「厳しくなんかねぇよ!ふざけんな、俺がやってや…
「あ〜やめときなって。あんたに仁王より実力があるってならまだしもさー」
ギャンギャン吼えてくる赤也にヒラヒラと手を振ってやる。
「さっきまで馬鹿にしてた女に庇われちゃってどうしちゃったの?新人サン?」
あ〜我ながらなんて嫌な女〜と思いつつ、でも自業自得よね〜こんにゃろーとも思い。
フフンと真っ赤になった赤也に向かって笑ってやる。
赤也の隣で「これ以上面倒ごと起こさないでくれよなぁ」とやや諦め気味にジャッカルがぼやいている。
「とにかくねー、今のあんたじゃ無理だから黙ってそこで見てなー」
そう言ってやると赤也は案の定ふざけんな、と言って私の方に来ようとする。
しかしジャッカルに後ろから頭をバコっと殴られ、そのまま引きずられて部屋の隅に追いやられていく。
「ってー!何するんすか!」
「いいから、黙ってろって」
「これ、俺の試験っすよ!」
「そうだな。でもお前にじゃ無理だ」
「やってもない前から決めつけんな!!」
「がいなかったらお前は死んでたぞ?いいか?お前の実力は確かにスゴイ。けど経験がない」
珍しくまともに話してるじゃん、とポケットから取り出したグローブを装着しながらジャッカルの話に耳をかたむける。
「今のお前は最悪だ。例えお前がこの階をクリアしたとしても俺はお前にOKサインを出してやらねぇ。馬鹿みたいに慢心でい続けるのはやめろ」
そうそう。
ジャッカルの言うとおり。
「「私に(に)任せてお前はそこで見とけ、ワカメ頭」」