「さて、ここからは選手交代よ。どこのどいつだか知んないけど侵入者であることは間違いないみたいだし」
装着したグローブを馴染ませるように両手をひらいたり握ったりを繰り返す。
グローブに異常はないようでいつもの感じが伝わってくる。
「今日の私は最高潮に機嫌悪いの。覚悟しときなさいよ」
そう見えない相手に向かって言ってやってすぐに嫌な感じが頭をよぎる。
頭の上がチリチリとする感じ、それを感じ取った瞬間私はその場から瞬時に離れる。
その判断というか直感は正しかったようで、今度は私がさっき立っていた場所の床にバチバチと音と電撃をたてて真っ暗な穴をあけていた。
穴をあけたモノはまるで動物の角のような、先のとがったグルグルとなにかが渦巻いてできたもので。
それは天井から植物が生えているように突き出ている。
ズズズッと音を立てその角のようなものが天井にあがっていき消えていく。
「な、なんだあれ――」
「仁王のオチャメとはどうも違うみたいだし…っ!!」
そして今度は天井ではなく床からその角が突き上げてくる。
それも瞬時に立っている場所から飛びのくことで回避し、ついでに回避する瞬間に突き上げてきたその角に対し蹴りを一発加えておく。
けれど反応としてはあまりいいものではなく、その角はまるで鉄かコンクリートのような硬さで蹴り上げた私の足にジンとした痛みが広がる。
「いったぁ……!」
「っ!大丈夫か!?」
「大丈夫じゃなーい!なんなの、あの硬さは!!」
ジンジンと痛む足を無視して立ち上がろうとすると今度は右の方からあの嫌な感じが感じられる。
案の定私に向かって壁から角のようなものが突き出てきて、それを再び飛びのくことで回避するも今度はすぐさま左から嫌な感じが。
私に向かって突き出てくるやっかいな角のようなもののスピードが段々と速くなってきている。
私が回避するスピードと突き出てくるスピードが段々と近くなってきている。
今はこの角みたいなやつが一本だからなんとかなっているけれど、これがもし二本、三本となってきたら。
―――微妙、かな。
「っ!!左上だっ!!」
隣に立つジャッカル先輩がって女に向かって叫んだ。
叫ばれたあいつはちょうど床から突き出てきた角みたいなヤツを避けたばかりでしかもバランスを崩して右足を床についていた。
それでもジャッカル先輩が叫んだとおり左上に一瞬あいつは視線を向ける。
ついさっきまではあの角みたいなやつは一本だけだったのに。
左上のなにもないところから同じような先のとがったやつがあらわれた。
まだ床からはさっきあの女が回避したばっかりのやつが残っているのに。
(二本目かよ!?)
左上からあらわれた角みたいなヤツは狙いを唯一つにしぼってってヤツにむかってその尖った先を突き出した。
あの女はまだバランスを崩したままなのに!
けれど、あの女は。
(なんてやつだ!!)
バランスを崩していたにもかかわらず左足のバネを思い切り使ってギリギリのところで避けやがった。
左上から突き出た角みたいなやつはそのまま床にバチバチと音をたてたまま突き刺さっている。
「か、かすったーー!!血が出たー!」
とてもじゃないけど、人間とは思えない。
自分の視線の先で頬から血を流しながらその頬をゴシゴシとあの女が自分の手でぬぐっている。
その間にも床から突き出ていた角も天井から突き出ていた角も引っ込み、またあらゆる場所からあの女を狙い始める。
一本から二本になってもあの女はギリギリのところで、全てかわしていく。
手や足、腕から肘、身体全体を使って全てかわしていく。
「赤也、よく見とけよ。お前はアイツが気に入らないかもしれないけど」
ジャッカル先輩があの女を見つめたまま口を開く。
「アイツは確かに生物学上は女だがお前が思ってるほど弱くねぇ。寧ろ強い」
「……」
「アイツを良く見とけ。それで色んなことをアイツから吸収しろ。神奈川にも確かに真田や幸村っていう実力者はいるけどな、アイツもあれで幸村達と同じくらい実力者なんだぜ。お前が幸村や真田をバケモノっていうならアイツもバケモノなんだ」
いつのまにかあのやっかいな角は二本から三本に増えていた。
それでもあの女は身体に傷一つつけることなくかわしていく。
顔にはほんのり笑みが浮かんでいて、それはまるで余裕の表情にもみれる。
「お前はどちらかというとタイプの人間だ、性格もスタイルも。だからこそ今回幸村はわざわざ試験監督にを呼んだんだ、お前のこれからの為にな」
あの女は自分に向かって突き出してくる三本の角をシャクシャクと交わしながら何かをポケットから取り出し、右手のグローブに取り付けた。
すると淡い光がアイツの右手に集まりだし、それは右手全体に広がっていく。
「よく見とけ。アイツが女でありながら設立当時からバケモノたちと肩を並べてきてアイツもバケモノと呼ばれる訳をな!」