あの後、牛のようなモンジャラ(fromポ○モン)のような私に喧嘩うってきたヤツはピクリと動かないままさらさらと砂に変化して崩れ落ちていった。
「砂?」
「一体なんだったんだ。幸村の悪戯とも思えないし」
「――あ〜、私考えるの嫌い。ジャッカル、パス!」
「俺かよ!俺も考えるのなんか嫌いだって!!」
そりゃそうだ。
私もジャッカルもどっちかっていうと肉体、いやいや体力派だ。
帰ったら乾にでも見せてみようと思い、ポケットから取り出したハンカチに一掴み砂を包む。
「―――先輩…」
とってつけたように先輩付けされたがとりあえず私の名前を呼んだ赤也のほうに顔を向ける。
私とあまり身長がかわらないのに(多少向こうのほうが高いけれど)うつむいてしまっているからいまいち表情が読み取れない。
「俺でも、倒せたかもしんなかった……」
悔しそうな声がもれる。
まぁ悔しいのはしょうがないかもしれない。
なんたって自信満々で自分の最終試験に臨んだのに最後の最後で私に獲物を横取りされちゃったんだから。
でも。
「逆にアンタが倒されてたかもしんないでしょ」
結局わかってないのね、あんた。
そう言ってやろうと思ったんだけど。
「でも、多分俺じゃ悔しいけどダメだった…と思う」
意外とこの少年、素直なのかもしれない。
まぁ本当に悔しそうで最期の方は声が小さくて聞き取りにくかった。
「アンタ見て、俺じゃまだ経験が足りないってのはわかった。アンタの方がまだまだ俺より強いってのも、すっげぇ嫌だけど認める」
だから
「助けてくれて、アリガトな?」
きっと赤也にはこのたった一言を伝えるのも難しかったに違いない、顔は見えないからわからないが耳が真っ赤である。
そう考えると、どことなく嬉しくなって自分の顔に笑みが戻ってくる。
なんだかこういう反応が新鮮で(東京にかえっても腹立つ連中ばっかだからね!)思わずうつむいているままの赤也の頭にポスンと手をのせグリグリとなでまわしてしまう。
「んなっ!!」
「がんばんなよ、少年!これから先大変だぞ〜」
「おめでとう、赤也。これで晴れてお前も越前幽限事務所の所員だ」
階段をのぼって仁王の作り上げたビルから出ると神奈川支部の連中が重箱をひろげて宴会を開いていた。
なんだテメーら、人にあんな重労働押し付けといて!と文句を言ってやろうとしたのだが、タイミングよく私に気づいた幸村が嬉しそうに飛びついてきて結局私の口からその文句がでることはなかった。
似たような展開だが幸村に腕を引っ張られて連れて行かれた先で座らされハイと笑顔でお箸と小皿を渡される。
幸村の笑顔を見ていると、どうでもいい気分になり差し出されるままにお重をつついていく。
その少しはなれたところで真田がさっきの台詞を赤也に言ったわけだけれど。
「え?だって―――」
と赤也少年は不満なのか驚いたのかはわからないけれど何か言いたそうである。
まぁ他人の気持ちに鈍い真田である、相変わらずのしかめっ面で「所員になりたくないのか?」と赤也に尋ねる。
まさか!といって赤也は首を横にブンブンと振っている。
「ジャッカルものヤツもお前を認めたのだからな!これからはしっかりと働いてもらうぞ!!」
真田がそういうと本気で驚いたように赤也がこちらにグルンと顔を向けてくる。
そんな赤也に私は気づいていないフリをして、相変わらず私の腕にしがみついている幸村とその隣に座ったブン太とで笑いながらお箸をすすめる。
頑張れよ、赤也!!
「!この出汁巻き卵おいしいんだよ!でね、この昆布の鮭巻きもおいしいんだ。食べて食べて?」
「ちょ、ちょっと!幸村さっきから私の小皿に盛りすぎだから!」
「幸村相変わらずのこと好きだなぁ…まるで世話焼き女房だな!」
「いやいや!勘弁してよね、ブン太」
「仁王、聞きたいことがあるんだけど」
や真田たちから少し離れたところでジャッカルが仁王に声をかける。
なんね?と先を促すとジャッカルはポケットから丸められたティッシュを仁王に差し出した。
「さっきの試験、最終階で赤也レベル以上の魔物がでた」
「――は?」
「のヤツが赤也をかばって倒してくれたが、アレはお前が用意したヤツじゃないよな?」
ティッシュを受け取った仁王はそっとそれを開き中を確かめる。
「砂か?」
「倒れたあと、そいつはその砂にかわった」
「――俺が用意した魔物は全部仮想レベルで俺が作ったもんじゃけぇ、倒したあとに砂になるなんてことはありえん」
そっと一つまみその砂を掴んでみる。
黒っぽい砂はさらさらと仁王の指の隙間から零れ落ちていく。
「ということは、やっぱりアレは侵入者ってことになるのか…」
「俺に気づかせんとか?ふざけたヤツがおるもんじゃのぅ、どこのどいつだか知らんが」
「幸村と竜崎先生に報告しとく。こんなこと今までなかったのに」