!!うちの赤也がそっちに行ってな」

ブツッ…

電車から降りてタイミングよくかかてきた電話に出たのは良かったが今一番聞きたくない声だったため即効で電話を切る。
またかかってこられても困るので電源もついでに切る。

「あ〜アンタがこっちに来てるから真田のヤツご立腹だよ。面倒くさい!!」
「えー面倒くさいって言わないで下さいっす!俺だって面倒見てくれる人を選ぶ権利があると思うっす!」

それって単に真田が嫌なだけじゃないの?

「でもアンタの面倒みるのは真田なの。決まってるの。我慢しなよね」
「え〜!俺、本気で東京の人間になりたいっす」
「ダメなもんはダメー。おとなしく幸村たちの下で勉強しな」

とはいっても。
自分の後ろをチョコチョコと嬉しそうについてきているのを見てると「仕方ないなぁ」って言ってしまいそうになる。
赤也の方が私より身長も高いから可愛いっていうわけではないのだけど、やっぱり以前が以前なだけにこうやって慕われるのは嬉しい。
なにより、実は他の所員たちと違って研修生を受け持ったことがない。
不二や跡部と同じ事務所設立当初からいる所員の中では私だけだ。
それにも色々理由があるからなんだけれど、不二が壇くんと喋ってるところとかを見るとちょっと羨ましいなって思ってたのも事実。
だから、ちょっとくらいはいいよね。

「あとでちゃんと自分から謝るのよ?今日だけは目つぶってあげるから」

あとあと考えてみたらこの台詞、まるで幼稚園児に言う台詞だよね。
ま、でも赤也はそれが嬉しかったらしく小さくガッツポーズしている。
そういえば肝心な話をするのを忘れていた。

「あのさ、なんで私に敬語使うの?確かにこの業界じゃ私アンタより上だけど」
「―――へ?」
「へ、って。私、アンタと同じ学年なんだけど」

やっぱり年上だと思っていたようで、立ち止まってしまった赤也は小さく嘘だと呟いた。
嘘じゃないっつの、と思いながら立ち止まった赤也を放っておいて私は事務所へと向かう。
しばらく歩いていると後ろからバタバタと足音大きく走りよってくる音が聞こえてくる。

「ちょ、ちょっと待って!じゃあなに、アンタ俺と同じ歳なわけ?年上じゃないの?」
「違うって言ってんじゃん。だから普通に喋っていいんだよって」
「じゃあなに!年下なのに真田先輩とか幸村ぶちょとかに普通にあんなくだけた喋り方してたわけ!?」
「そうだよ。幸村は私にあんなんだし真田は私より事務所に入るの少しだけ遅かったしさ〜」
「カッチョイー!!俺、ますますアンタに惚れた!」

は!?
今の私、すんごい顔が歪んでるよ。

「師匠ってもう言わないけど、俺やっぱりアンタと一緒にいてぇ。色々タメになるし」
「いやだから今日だけだ」
「よろしくな!!!!」

こいつ、人の話聞きやしねぇ!!
それとも神奈川支部の人間はみんな人の話を聞けない奴ばっかりなの!?
頬をヒクヒクさせながら私はおとなしくブンブンと赤也に腕を振られている。

やっぱり神奈川は鬼門じゃ鬼門!!!







「ねぇ、そこ入り口だからどいてくんない?」

事務所に繋がる階段に座ってコンビニにお菓子を買いにいった赤也を待っていた私にそんな声がふってくる。
あぁごめんなさい、と答えて階段の前からどこうとして立ち上がった拍子に声の主の方に顔をあげる。

「えーと、君、誰?」

この階段をのぼろうとしてるってことは事務所の人間ってことなんだろうけど、今私の目の前に立っている帽子少年の顔に見覚えがまったくない。

「誰って、この上にある事務所の人間」
「私、君の顔はじめて見るんだけどなぁ」

そう言って帽子の鍔の影にはいってしまっている顔を覗き込む。
ちょっと猫っぽい少年は嫌そうに一瞬顔をしかめたが私の台詞が気になったのか

「はじめて見るってアンタも事務所の人間なわけ?」

と逆に尋ねてきた。
うーん、この喋り方というか生意気加減というか、最初にあった頃の赤也と同じだね。

「うん、私もここの人間。君が噂の新人くん?」
「噂になってるかどうかは知らないっすけど、まぁ新しく入ったのは俺っすね」
「そっかそっか!じゃあ君がキヨお気に入りの越前君なわけね」

目の前の越前少年は小さく「ウッス」と答えると「そういうアンタは?」と尋ねてくる。

「私はっつうの。よろしくね、少年!」

笑って目の前の少年に手をさしだした。