「さて、今回の依頼についてだが、現場は都立水谷第一高校になる」

そう言ってスミレちゃんは依頼書のコピーを私に手渡してきた。
それを受け取って軽く目を通す。
都立水谷第一高校はちょっとした進学校として有名だ。
女の子の制服も結構可愛くて、それなりに倍率も高かったような記憶がある(別に私が過去受験しようと思ったわけではないんだけど)

「何なの、この被害報告…」
「そのまんまじゃ。生徒が学校から突然消えるらしい」

被害報告:生徒の失踪(家出や無断欠席とは違い学校内で突然失踪してしまう)
被害人数:8名(男子5名女子3名)

「8名も突然失踪してよく今まで問題にならなかったですねぇ」
「マスコミに上からストップをかけてもらっている。ここに依頼してくるだけに特殊なケースだからな」
「あぁ、まぁそりゃあ突然の失踪に目撃者が何人もいたらねぇ」

留意事項:8名の被害者それぞれに目撃者が多数存在。尚8名の共通事項として教室のドアがあげられる。

「まぁ当然のことながら失踪なさってる生徒はまだ誰も帰ってきてないのよね?」
「そうじゃ。今回の依頼の最終的な目標は失踪した生徒を連れ戻すこと、原因究明はそのかたわらでやっておくれ」
「了解!あー…でもさぁ、まさかこれ私一人でやんなきゃいけないの?」

一人でやるとなると相当キツイと思うんだよね。
この調査報告書だけじゃ不安だから学校に言って生徒に話も聞かなきゃいけないと思うし。
面倒くさいじゃないの!!

「あぁ、それなら大丈夫だよ。ちゃんと組む相手も用意している」
「あ、そうなの?良かっ」

「泣いて喜べ?俺様が手伝ってやるんだからな、まぁせいぜい俺様の足を引っ張るなよ。アーン?」

ごめん、スミレちゃん。相方、まじいらねぇ

赤也じゃないけど、相方選ぶ権利は私にあると思うの。
無駄にバックに薔薇をしょって所長室に入ってくる奴はお断りしたいと思うのよ。
無駄にポーズとられてももう慣れっこさんだから逆に気持ち悪いのね。

「テメッ、それが俺様にむかっていう言葉か?アーン?」
「うん、跡部はいらない」
「年上を敬うって言葉しらねぇのかお前は!まぁそのすっからかんの頭の中にはないんだろうけどよ」
「その通り!私の頭ん中にはそんな言葉ないの!だから跡部いらない。一人でいい、赤也もいるし」

犬を追い払うみたいにシッシッと手を振ってやる。
スミレちゃんは既に自分のデスクで他の資料を読んだりと我関せずモードに入っている。
勿論跡部の(まぁ確かに言われてみれば)綺麗な顔がヒクヒクと引きつっている。


跡部景吾。
私より一つ年上で、事務所設立当初からいる所謂私と同期。
無駄にタカビーで派手でナルシーで趣味が悪くて自己陶酔してるけど実力はまぁ確かだ。
コイツは自身の身体の中に魔界の生き物を何匹も飼っている。
彼らは非常に跡部に忠実で見ようによっては可愛い、ただ魔界の生き物ではあるので最初見た時は必ず皆ひく。
まるでユニコーンのように美しい生き物のようにみえて目が一つしかないとか、とても毛並みのいい大きな丸い生き物には口しか見当たらないとか。
いや、可愛いんだよ!
名前がジョゼフィーヌだとかハインリヒだとかじゃなければね。



「赤也が誰だかしらねぇが、俺様がいなかったら後で必ず後悔するぜ?」
「あーしないしない」
「フッ…そこまでいうか」

どうやら諦めてくれるのかしらーと思ってチラっと視線をよこすと向こうは向こうでやけに自信満々なまま鼻で笑いやがった。


「なら、仕方ない。ジローの奴をつけてやろう
同行を許可します

その後私と跡部は仲良くスミレちゃんに所長室を蹴り出された。
正確に言うと蹴られたのは私だけなんだけど。





「あっれー?っちも一緒なの〜?」

首をコテンと横に倒して尋ねてくる彼はジローちゃん。
跡部との取引の結果、今回の仕事で一緒についてくる事になった所員だ。
本当の名前は芥川慈郎といって可愛い外見とは裏腹に私よりも一つ年上である。
所長室を追い出されてから私と跡部は執務室でいつものごとく寝ていたジロちゃんを(跡部が叩き)起こし、現場の水谷第一高校へと向かうべく電車に乗っている。
まだ帰宅ラッシュタイムではないからか電車の中は思ったよりもすいている。

「うん、よろしくね。一緒に頑張ろうね!」
「うん、頑張るー!」

こんなモコモコでフサフサの生き物がどうして私より年上だっつうのかしら!!
可愛くて可愛くてたまんなーい!!

「でも今度の仕事、四人でやんなきゃいけないなんて大変なお仕事なんだねぇ」

入り口ちかくの手すりにつかまってノホホンと笑うジロちゃんに私と跡部が「は?」と声をあげる。

「なに言ってんだ、ジロー」
「今回の仕事は三人でやるのよ。四人じゃないわよ」
「え〜。じゃあさっきから一緒についてきてる後ろの子は?」

そう言ってジローちゃんが指差した先には

「ども〜」

ちゃっかり席についている赤也の姿があった。