「とりあえずうちの高校の案内はこんなもんだな!じゃあさっき言ってた空き教室に行くか?」

一通りの学校案内をしてくれたがっくん(と呼べと言われた)は私たちにあてがわれた空き教室に向かって足を進めた。
案内してもらってる最中にチャイムが鳴ったが、彼は気にすることなく私たちと一緒に行動している。
いいのかなと思いつつも彼がいなければ空き教室にまで辿り着けないので仕方ないと思うことにする。

「にしても、ジローたちがまさか今までの事件解決するために来た奴らだったなんてなぁ」
「ニッシッシ。俺らに任せとけって!な、っち?」
「あぁうん。最終目的は全員の奪還だから安心してね」

そう言って前を歩くがっくんに笑いかけると彼はアリガトなっといって大きく笑う。
けれどその直後とても悲しい表情を見せ足を止めてしまう。

「がっくん?どったの?」

心配そうに尋ねるジロちゃんにがっくんは小さな声であのさ、と呟く。

「空き教室行く前に寄りたいところがあるんだ。一緒に、来てくれるか?」

沈んだ表情のままたずねるがっくんに私たちは勿論と返事をし寄りたいところとやらに向かって歩き始める。
がっくんのよりたい場所というのは3階にある『生徒会準備室』と掲げられた教室で、彼はこの場所に来るまで一言も口をきかなかった。
生徒会準備室はどうやらとても小さい部屋のようで扉は一つしかない。
がっくんはその扉の前に立つと一つため息をこぼす。

「俺の友達、ここで消えたんだ」

ぎゅっと握り締められた手にさらに力が入る。

「この高校入って一番仲が良かった奴なんだ。生徒会任されてて、いつも俺ここにきてアイツと馬鹿やってたんだ」

ジロちゃんががっくんの傍に行きそっと握り締められたがっくんの手を掴む。

「でもあの日、俺ちょっとイライラしててアイツについ八つ当たりしちゃって。ここで大喧嘩しちゃったんだ。八つ当たりされたアイツが怒るのは当たり前なのに、俺っ、俺っ…」

「本当ついカッとしちゃってアイツに思わずひどい事言っちゃったんだ、お前なんか消えてしまえ!って」

目からでてくるものを必死にこらえようと顔をくしゃくしゃにしたがっくんの握り締められた手を開きジロちゃんはその手を握り締める。
大丈夫だよ、って小さく呟きながら。

「そしたらアイツこの部屋出て行こうとしたんだけど…っ、ドアくぐった途端急に目の前から消えちゃったんだ…っ」

がっくんはそこまで話すと自分の手を握ってくれているジロちゃんに顔を向けた。
こらえきれなかったのか涙ががっくんの目じりにはたまっていて一筋頬を流れていく。

「なぁ、ジロー!アイツ助けてくれよ!俺のせいなんだ、俺があんなこと言ったから!俺、まだ謝ってもいないんだ!助けてよ!!」

ジロちゃんの手にすがるように涙を流すがっくんにジロちゃんはがっくんの手をぎゅっと握り締め思い切りニコっと破顔した。

「がっくん、安心してよ!なんのために俺たちがここに来たと思ってんの!」
「そうそ、がっくん先輩、安心してくださいよ。俺や跡部って奴はどうでもいいけど、までいるんだからさ!」
「がっくん、大事な友達はちゃんとここに帰ってくるよ。私たちが帰らせてみせる、だからさっきまでみたいに元気よく笑って?ね?」








「そうか、あの向日って奴の友達も消えたクチか。生徒会関係っていうと、コイツか。滝って奴」
「あ、消えた8人分の資料貰ってきてくれたの?」

空き教室でがっくんとは一度別れ、彼はHRが終わったらもう一度ここに来ると言い残し自分の教室に帰っていた。
教室に入ると既に跡部がいて、彼は机の上に足を乗せなにやらプリントとにらめっこしていた。
どうやらそのプリントが今回消えた8人の生徒の資料らしい。

「にしてもさっきの向日の話、ちょっと気になることがあるな」
「えー?なにかありました?ドアがどう〜とかってやつっすか?」

ちげぇよバカ、と大人しく座っている赤也に跡部がぼやく。
それに対してバカって言った奴がバカなんすよー!と騒いでいる赤也を無視して私は跡部に先を促すように顔を向ける。

「ドアが空間と空間をつなぐバイパスとしてもだ、なぜいきなりそのバイパスが切り替わるのか」
「普通は空間の切り替えなんて滅多に起きないわよね」
「そう考えると、きっかけがあったとしか考えられねぇ」

きっかけ?と赤也もジロちゃんも首をかしげる。
跡部は足を机の上からおろし私たち三人の前の机に先ほどまで見ていたプリントを並べる。
八枚の紙にはそれぞれ生徒の顔写真と経歴等、まるで内申書のように書かれてある。

「さっきの向日の話から思いつく『きっかけ』が正しかったとしたら、この滝って奴以外にも当てはまる筈だ」
「―――つまり?」
「ハン、お前らの仕事だ。この八人、いや七人か。一人ずつ当たっていって話を聞いて来い」