「だからねーやっぱここはサルガタナスの力を借りようと思うんだ」

聞きなれない名前に自分の耳を疑う。
何をどうして中に入るって?
つか何の力??

「サルガタナス」
「猿がナス?何よ、それ」
「猿なのは君の頭だよ」
「ま!失礼しちゃう!」
「サルガタナス。アシュタロトの部下の一人だよ」
「まぁ!!アシュタロト様の!!!!」

アシュタロトと聞いて私の目がキラキラと輝く。
いきなりネタばれだけど、この魔王不二の能力は召還型と呼ばれる。
本人と魔族との間に契約を成り立たせ、魔方陣および召還魔法を媒介に魔族を人間世界に呼ぶことができる人間。
それがこの魔王不二。
勘違いしないでほしいのは不二が決して魔王なわけじゃあないってこと。
魔王ってのは事務所内における不二のあだ名のようなものだからね!
ちなみに、不二の契約主であるアシュタロト様はかっこいいというか美しいというか…。
腰まである綺麗な長い黒髪に真っ黒な服で身を固め、いつも右手に毒蛇を巻きつけている魔界西方を治めている大公爵様である。








話せばとても長くなるのだが。
そもそも『魔界』と呼ばれる世界と『地獄』と呼ばれる世界は紙一重である。
魔界は地獄であり、地獄ではないのである。
地獄本来は大天使ルシフェルによって確立された世界である。
傲慢という罪を犯したがために天使界を落とされたルシフェルが神に対抗するために地獄と呼ばれる世界に万魔殿と呼ばれる宮殿を設立したところから魔界及び地獄の歴史は始まる。
今はルシフェルに取って代わり魔界の王はベルゼブブである。
ベルゼブブという名前は皆も聞いたことがあるのではないだろうか。
蠅の王様、のことである。
ベルゼブブ、姿かたちはまるっきり蠅であるところから別名「蠅の王」とも呼ばれる。
そして、アシュタロト様はその地獄における五大臣の一人であり大主計という役目を負っている。
宮殿には七人の王族および大高官が住んでいると言われているが。
地獄および魔界はほとんどルシフェル、ベルゼブブ、アシュタロトの三人によって治められているといっても過言ではない。

らしい(全部不二の受け売りだもん)

そして。
不二によるとサルガタナスはこの三人に仕える六大上級魔人の一人でアシュタロト様直属の部下らしい。
魔界の世界も人間界並にごちゃごちゃしてるよね。

「サルガタナスの能力は人を透明にしたり、移動さしたり、後記憶や本心も消すことなんだ」
「ふーん…」
「――気に食わないことでもあった?」
「いえいえ!とにかく、彼はアシュタロト様の直属の部下なのね!?」
「そうだよ」

ふふふふ……
突然下を向いて笑い出した私に不二がいつもの笑みをたえて、どうかしたの?と尋ねてくる。

「不二!!今から一度事務所に行くのよね?」
「うん、そうだよ」
「出発するまでまだ時間あるよね?」
「うん、まぁ一応あるよ」

不二の答えを聞いた途端、思わず万歳をしてしまった。

「なら、手紙を書くわ!!ていうかラブレターね!」
「へぇ、誰に?」
「勿論アシュタロト様によ!!!んで、その猿がナスとかいうのに渡してもらうの〜。そうとなれば、さっさと事務所に向かいましょー!!」

人間は所詮気楽な生き物なのである。
特にという人間。






自分のことだからこそ自分でよくわかってる。








ただ、このときの私は。
アシュタロト様に久しぶりに手紙が書ける嬉しさでいっぱいになってうかれきっており。







一瞬見せた不二の悲しそうな表情に気付くことがなかったのだ。