全員の聞き込みを終えて空き教室に再び集まった私とがっくんからの話を聞き跡部は、やっぱりな、と呟いた。
いつのまにかジロちゃんも起きていて(頭を抑えていたので恐らく跡部に蹴り起こされたのだとは思うのだけど)跡部に顔を向けている。

「やっぱりなってどういうことだ?原因わかったのか?」
「あぁ、原因はこれとしか考えられねぇ」
「確かに。これが原因じゃなかったらおかしな偶然になっちゃうしね」
「えー!っちもわかったの!?」

頭に?マークを浮かべてジロちゃんとがっくんが騒ぎ立てる。
集まってもらった生徒にはみなそれぞれの教室に戻ってもらったので教室にはこの二人の声だけが響き渡っている。

「おい、向日。この事件が起きる少し前とかに何かこの学校で起きたこととかなかったか?」

急に跡部に話をふられがっくんは、え、と洩らすとすぐに小さな声で「あった」と答えた。
ただあまりいい話ではないのか言いたくなさそうに俯いてしまう。

「何があった、言え」
「――関係あるのかわかんねぇけど、ここの生徒が一人、死んでる」
「死んだ?」
「西棟の屋上から自殺してる」

その話もう少し詳しく話せ、と言う跡部にがっくんは嫌々ながらも口を開いていく。
自殺の原因はいじめと家庭への反発であったらしい。
がっくん自身その亡くなってしまった子のことはまったく知らなかったらしく、後々に周りの子から話を聞いたのだそうだ。
屋上のフェンスを越えて立つ少年を見つけた先生たちは慌てて屋上へかけつけ、そしてグラウンドからも説得を試みようとしたらしい。

「けど、そいつ、先生たちに変な言葉言うだけ言って――」
「変な言葉?」
「えーと、なんだっけ。あぁ、そうだそうだ、






ぼくはお前たちを許さない。





みんなきえ





言うな!口に出すな!!

がっくんがその言葉を言おうとした瞬間跡部の怒鳴り声で遮られる。
かくいう私も思わず手を出してがっくんの口をふさいでしまっていて、モガモガとがっくんが言っている。
あぁ、間違えて鼻まで塞いでたのね。

「きっかけはそれだ。ソイツの呪いの言葉と」
「媒介はその生徒の血。狂気に当てられたなにかがこの学校へやってきて」
「空間と空間を繋ぐバイパスを勝手に変えていきやがった、ってとこか」

がっくんの口から手を離してやると彼はプハァとそれはそれは可愛らしく溜め込んでいた息を吐き出した。
やっぱり年上には見えない。

「さっきから跡部とだけで話すすめやがって!ぜんぜん話わかんねぇよ!ちゃんと説明しろー!」
「あーん?まだわかんねぇのか」
「わかるわけないだろー!俺、お前らと違って一般人なんだからな!ジローだってわかんねぇだろ?」

そう言ってがっくんはジロちゃんに話をふったが、仮にもジロちゃんだって事務所員。
さすがにわかっている筈なんだけど

「うん、ぜーんぜん、わっかんない」

やっぱりなぁ。
跡部もやっぱり脱力してる。

「ジロちゃん、そんな威張って言えることじゃないからさ」
「えーっちたちわかってるんでしょ?俺もがっくんもわかんないから説明してー」

えーい!このカワイコちゃんめ!!
脱力していた跡部は再び身体を起こし、何故か前髪を右手ではらう。
どこにそんな必要性があるのか、ただ単なる仕草なのか深くはつっこまない。

「この事件は簡単な言霊現象なんだよ」
「ことだまげんしょう?」
「言霊信仰、いや言霊っていうのは聞いたことあるだろ?」

がっくんに跡部が問いかける。
それに、なんとなくでしかわかんねぇけど、とがっくんが頷く。

――言霊。
古来日本人は全ての言葉には力が宿っていると考えた。
その力は霊力をもっていて、言葉どおりのことがその霊力によって働きもたらせられるといわれている。
一番簡単な言霊は名前。
たとえば私の名前
これは私だけの名前であり、私に働きかけている言霊の一種だ。
名前のどこが言霊なのかと疑問に思うかもしれないけれど、私はこの『』という言霊に私自身、これから先の未来、そして過去さえも縛り付けられていく。
一番身近でそれでいて一番強力な言霊なのだ。