暗い
暗い
暗い
ここは
どこ
ふわふわと身体が浮いてる
そんな感じ
けど
足の先から
指の先
頭の中まで
なにか冷たくて凍えるような
それでいて押しつぶされそうな
そんな感じ
もう少し眠らせて
居心地は悪いけど
目をつぶっているととても楽なの
「……度胸………オセ!」
「……大公爵………あろうもの………」
誰かの声が聞こえる
誰?
どこかで聞いたことのある
「……お前達………死にたい……」
「なんの………わかり………わたくしは………」
大好きなあの人の
声?
あぁ、もうだめ
「!!」
「お待ちなさい、アシュタロト!!」
あぁそうだ
アシュタロト様の声
眠い―――
「っ!!」
「ご安心下さい、御主。眠っておられるだけです、少し深い眠りですが」
「そうか――」
を抱えたラウムは御主と呼んだアシュタロトにその姿を見せた。
それを見て安堵のため息を一つこぼしたアシュタロトはその先でこちらを冷ややかな目で見つめているオセのほうに顔を向ける。
ギリギリと握り締める右手からは爪が皮膚を突き破り血がしたって落ちている。
「どういうつもりです、アシュタロト!!人間ごときに何故貴方がでてくるのです!?あなた、人間が大嫌いなのではなかったかしら!!」
「そっくりそのまま返してやろう、オセ。どういうつもりでコイツを連れ去ろうとした?人間一人連れ去るのにお前のような公爵がわざわざ出向くとはおかしいではないか?」
「それこそお返ししますわ。わざわざ大公爵自ら人間を助けにくるだなんて、どういう了見ですの?」
お互いに一歩も引かない。
いや、引けないのだ。
それぞれにおもう所がありすぎて。
サッとマントを翻しアシュタロトは右手を横に払う。
それにラウムをちょこんと頭を下げスッと音もなく消える、勿論を抱えたまま。
「お前達がどういうつもりでアイツを攫おうとしたのか、聞かないでいてやろう」
「フン、アシュタロト!!いつから貴方にわたくしはそんな口をきかれるようになったのかしら!!」
「黙れ、オセ」
アシュタロトの黒い、冷たい瞳が細められる。
静かな低い声が、オセの目を、頭を、身体を、とりまくように縛り付ける。
オセもアシュタロトも同じ階級は公爵クラスであるが、アシュタロトの方がその血筋も能力も上である。
魔界において大公爵という地位にだけ落ち着き、オセのように他の仕事に就いていないアシュタロトではあるがいざ本人達の能力をレベル付けするとなると確実にアシュタロトは魔界の四本の指に入りオセはその下なのである。
「一つ、忠告をしておこう」
「――忠告、ですって?」
ギリっとかみ締める奥歯が音を立てる。
彼の言葉の魔力はいまだオセをギリギリと締め上げ、動くことができない。
かろうじて動かせるのは口だけである。
「あの娘に手を出した時、バールが戻ってくるぞ」
「な、んですって!?」
「ベルゼブブに伝えておけ。私とバールを敵にしたいのなら、いくらでも相手になってやろうとな」
フンと冷ややかな一瞥をオセにやるとアシュタロトは黒いマントを翻しラウム同様スッと音もなく消える。
異質な空間に残ったのはアシュタロトの魔力からやっと開放されたオセと。
「バールが、あの、バールが戻ってくるですって……冗談じゃありませんわ…」
一つの謎だけ。