ねぇ、最初に会った日のこと。

君は覚えてる?

俺はすっごくよく覚えてるよ、まるで昨日のことみたいにね。










MEMORY      side.Kiyosumi










たしかあの日はすんごく雨の降ってる日で、俺ってば雨の日特有の頭痛でつい寝過ごしちゃったんだよね。
雨の日は苦手でさ、勿論今も苦手。
あ、話がそれちゃったね。
そうそう、寝過ごしちゃって時計見たら俺びっくりしちゃったよ。
10時にオフィス集合って聞いてたのにもう9時50分なんだもん。
俺んちからはどう頑張っても事務所まで30分かかるから完全に遅刻でさ。
最初の日だったから気をつけてたつもりだったんだけど、やっぱり「つもり」で終わっちゃったんだよね。
ん?なんの最初かって?
事務所が設立されてはじめてメンバーが揃う日だったんだ。
越前南次郎にはもう会ってたんだけど他の俺と同じ所員になる人たちとはまだ一回も会ったことなくてさ。
越前さんも面白がって誰とも会わせてくれなくてさ、結局事務所がスタートする日までのお楽しみになっちゃったんだよね。
そう、ようは俺ってば事務所がスタートする一番大事な日に限って遅刻しちゃったんだ。
急いで服を着替えて傘もって玄関飛び出して電車に乗り込んだんだけど雨のせいか電車のなかがムワ〜ンとして気分悪くなったのも覚えてるよ。
最初の日だってのに遅刻しちゃって絶対怒られるだろうな〜って歩道を走ってたら隣の車道を金持ち〜って感じの車が通っていってさ。
しかもちょうどその車、事務所のあるビルの前でとまるんだもん。
事務所関係者かなぁって遠目で見ながら走ってたら車の中から女の子がでてきてさ。
急いで事務所の階段のぼろうとしてすぐに車に戻っていくからどうしたのかなぁって思ったら車の中に肝心のカバンを忘れたみたいで。
おっちょこちょいな子だなぁって走ってたら階段のところでちょうど鉢合わせになって。

あの女の子がだったんだよね。

最初の言葉も覚えてるよ。

「あなたも遅刻?」

そうだよって傘をとじながら答えたらなんだかすっごく嬉しそうにニコーっと笑って

「私も!!」

って。
でも本当のとこ、遅刻っていいことじゃないから笑っちゃいけないよね。
でもぜんぜん気にした風じゃなくて彼女と一緒に階段をのぼって応接室の扉をあけたら、やっぱりちょっとキレ気味のスミレちゃんと越前さん、それから俺たちの新しい仲間が一斉にこっちを見てきてさ。
俺ってば小心者ってわけじゃないけどやっぱり緊張するでしょ、最初の日だし(遅刻したけど)今みんなに見られてるから。
でも。

「南次郎さん、ごめんなさい〜遅刻しちゃいました!」

隣の彼女はぜんぜん気にした風じゃなくて。
ニコニコ笑いながらみんなが座ってるソファのほうに歩いていっちゃったんだ。
越前さんと一言二言喋ったはいつまでもドアのところで突っ立ってる俺に「座らないの?」って聞いてきたよね。
度胸があるっていうか、無頓着すぎるよって思ったよ。
眼鏡の子の隣に座らせてもらって越前さんから簡単な説明があってスミレちゃんから一部小言つきの更に詳しい説明があってようやく俺たちの自己紹介ってときになると、ってば笑えるくらいソワソワしちゃってね。
それ見て笑いそうになるのを必死で俺はこらえてたんだけど、今思い出したら幸村くんは彼女見てこっそり笑ってたよね。

「じゃあ、お楽しみの自己紹介といこうかぁ!!」
「ワーイ!!!」

一番楽しみにしてたのは越前さんなんじゃないかなぁと思えるくらいあのときの越前さんは楽しそうだった。
一緒に騒いでるも本当楽しそうで。
スミレちゃんもいつのまにか一緒になって笑ってたんだよね。

「はい!私からね!!」
「おぅ!よっしゃ、一発どーんとかましてみろ!」

なんかの試合じゃないんだから自己紹介で一発も何もないと思うんだけどなぁって絶対あのときみんな思ってたはずだよ。
けどってば、越前さんの言葉どおり俺たちに一発どーんとかましてくれたんだよね、爆発。
霊力の爆発っていうのかな、手のひらのなかで霊力を凝縮させてそれを俺たちの目の前で爆発させてくれたんだ。
おかげで煙で視界ははっきりしないわ耳はキーンってするわ喉はガラガラするわで。
大変だったんだからね!!

「ゲホゲホ…」
「……な、なんだ?いまのは」
!!榊からやっちゃいけないって言われてる筈だろう!!」
「だって南次郎さんが一発かませって」
意味が違うじゃろう!!
「いんやー、面白かったぜぇ。よくやった、!!」
南次郎っ!!!

煙が晴れていく中で目に入った光景はスミレちゃんが越前さんとに拳骨をおとしてこんこんと説教している姿だった。
ソファに座ってた俺たち全員ぽかんとその光景を見てたよ、呆れるしかなかったんだよね。
五分くらいたってやっと説教も終わって今度こそ自己紹介始まるのかと思ったらからじゃなくて俺からだって言うじゃん!
なんでなんでってあたふたしてたら越前さんが早くやれ〜って野次飛ばしてきて、またゴチーンってスミレちゃんに殴られてた。
俺のかる〜い挨拶に手塚君の固い挨拶、不二くんのどことなく黒い挨拶(嫌味がまじってた)に跡部君の俺様挨拶、橘くんのドキドキするような挨拶、それに幸村くんのほわほわした挨拶。
一通り終わってみんなの視線がに向かって。

「はじめまして、、中学二年生です!」
「ばかもの!お前はまだ一年じゃろうが!!」
「あと3ヶ月もしたら二年生になるからいいの!」

どこがいいんだってみんなつっこんだと思うよ、俺もつっこんだ一人だし。
なんというか突拍子もない子なんだなって眺めてたら、彼女と目があってさ。

「今日からみんなの仲間になるの。どうぞよろしくね??」

ニッコリ笑ってくれたんだ。















あれから、もう五年近く。

あのときのメンバーは忙しくなってみんなが一斉に顔をあわせることはなくなった。
幸村くんが神奈川支部を任せられるようになってからなおさら。

あのとき七人しかいなかった事務所もいまじゃたくさんたくさん人がいて。
たくさんたくさん支部ができた。

あのとき一緒にいた越前さんはいつの間にか姿を消し。
いつの間にかスミレちゃんが一番偉い人になっていた。

あのとき「千石さん」って俺のことをよんでたは。
今じゃあ「キヨ」って俺のことを呼ぶ。

俺は相変わらず「」って呼んでるけどね。

変わったことはいっぱいありすぎてきっと覚えてない。
変わってないことは本当にちょびっとしかないけど忘れてない。






俺は、今もあの日あの時君に出会えた事を感謝してる。