まるで妹みたいな存在なんだ、お前は。

始めてあった時はなんてお転婆娘だと驚いたものだが。

俺はちゃんとお前の兄貴役をやれているか?










MEMORY      side.Kippei











事務所がスタートした頃は、俺たちみんなまだまだガキで。
みんながみんな、あの時はなにかを抱えててギクシャクしてたのを覚えてる。
かくいう俺もあの頃はそれこそ色々あって誰かとつるんだりするのが億劫で人と距離をとるのが癖になってたんだよな。
確か千石もそうじゃなかったか、アイツもヘラヘラ笑ってるようで目がぜんぜん笑えてなかったしな。
全く見知らぬ人間を同僚と呼び、一緒に仕事をする。
ガキばかりのあそこではまとまりなんてものはなかったに等しかった。
そんな中でお前だけは心の底から笑いながら仕事を頑張ってたよな。
一人一人に話しかけて、鬱陶しいと追い払われてもめげずに話しかけて。
気付いたら俺たちはを中心に動き出していて、いつのまにかまとまってた。
執務室の中で六人が顔をそろえて談笑なんて今でこそ当たり前の光景があの頃はできなかったんだ。
お互い頑固だし意地っ張りばっかりだったからな。
いつだったか俺たちが珍しく執務室のソファに座って休憩を取ってるとき、はこういったよな。

「みんな、仲良しだね」

嬉しそうに言うお前は周りの奴らの反応を覚えてるか?
ポカンと口をあけてお前のこと、凝視してたんだぞ。
お前が頑張ったから俺たちはこうして顔をつき合わせて世間話なんてできるようになったんだ、って誰も言わなかったけど。
みんなお前には感謝してるんだ。










「橘さんはお兄ちゃんみたいだよね」
「そうか?にしても突然だな」
、俺は?俺は?」
「千石さんはね、弟!!年上のはずなんだけど年上っぽくないんだもん」
「えぇ!!そんなぁ」
「ふふん、俺様は当然」
「跡部さんは遠い遠い親戚の人でいいよ
「でいいよ、とはなんだ!でいいよ、って!!」

カシャンと音をたててコーヒーカップをソーサーに置いた跡部を見て不二と幸村がクスクス笑ってて、手塚がため息をついて。
ギャーギャー言い合っている跡部とのほうが兄妹みたいだよ、とは口が裂けてもいえなくて。
とりあえず落ち着けと言っての頭に手を置いてやると、お前、すっごく驚いた顔をして俺のこと見てきたよな。

「ん?なんだ?」
「やっぱり、橘さん、お兄ちゃんみたい!」
「そうか?俺じゃなくて手塚でもいいんじゃないか?」
「手塚さんはね、お父さんだからダメー!!」

ブッって噴き出す音が聞こえてきてそっちのほうに振り返ると口を押さえて後ろむきになって必死に笑いをこらえてる不二が目に入る。
手塚は手塚でお父さんと言われたのが(かなり)ショックだったのかどことなく落ち込んでいて。

「あーあ、私も橘さんみたいなお兄ちゃんがほしいなぁ」
「だから俺様がなってやるって言ってんだろ、
「跡部さんはノーサンキュー!まだ千石さんのほうがマシー!」
「マ、マシ…俺ってそんな扱い?」
「俺様が千石に劣るっていうのか!?あーん?」

またギャーギャーといい始める跡部とにブツブツと落ち込んでる千石。
いまだ笑いをこらえてる不二に放心状態から戻ってこない手塚。
まるで最初の頃からは考えられない光景だな、と思うと笑みが自然とこぼれてくる。
隣に座っていた幸村も同じようなことを考えていたのか(こいつの場合いつも笑っているが)とても楽しそうだ。

「みんな、変わったね」
「そうだな、みんな最初の頃よりいい顔してるよな」
「ふふ。君もだよ、橘」
「―――そうか?俺も、変わっただろうか?」

自分のことなんて一番わかるもののようで一番わからない。
確かに笑えるようにはなったと思う。
いつかのように心の奥底から笑えるように、なってきたのかもしれない。

「変わったよ。みんな、みんな、のおかげだね」
、か?」
「あのこがいたから少なくとも俺はこうやって笑っていられるし楽しいと思える。それはでもきっと俺だけじゃない、君も、でしょ?」
「――そうだな、確かに俺は」

の存在に救われた。

あの遠い地に残してきた妹のような存在。

「おれたちはに感謝しなくちゃいけないのかもしれないね」
「いつか、いつか全員で言ってやればいい。きっと喜ぶぞ」

俺は二度と過ちを犯さないと誓った。
俺は守りたいものはこの手で守ると誓った。

「橘さん橘さん!!私のお兄ちゃんになって〜!!」
「だからなんで橘に頼むんだ、テメーは!!」
「イヤー!跡部さんだけはイヤー!!」
「こんにゃろ、お前もうご飯おごってやらねぇぞ!!」
「景吾お兄様、愛してるぅ〜」
「「、軽すぎだから!!」」










どうかいつまでも笑っていてくれよ。

どうかいつまでも傍にいてくれよ。

どうか、どこにも行かないでくれ。

がいなくなったら俺だけじゃない、あのときの六人はきっとまた笑えなくなってしまう。

どうかいつまでも妹でいてくれ、