「いいですか、×××?」
「なに?」

誰かが私の目の前にかがみこんで話しかけてくる。
周りの景色はなんだかもやがかかってるのか桐が出ているのかハッキリしない。

「これを肌身離さず持っていなさい、そう、その美しい指にはめていなさい」

そういって目の前のヒトは私の手をそっと持ち上げて握り締める。
大きな大きな手にすっぽりとはまってしまった私の手に、コロンと何かが転がり落ちてくる。

「別に美しくもなんともないよ、こんな手」
「そう言わずに。きっとあなたを守ってくれる、だからどうか大事にしてください」
「わかったわ、×××!!ありがとう!!」

手の中で転がっている×××を見て、私は微笑んだ。
あぁでも。

おかしいのよ、すごくおかしい。






あなたの声がところどころはっきり聞こえないの、こんなにも間近にいるのに。






とてもとても大事な、大事な






――――×××……


















あぁ、聞こえない






















ジリリリリリリリリリリ!!!!!!

「ぁー…うがー…」

ジリリリリリリリリリリ!!!!!!

一向に鳴り止まない五月蝿い音。ひたすらになり続けている。
耳にはいってくるその音に辟易してはいるのだけれど、いかんせん私は朝に弱い。
ものすごく弱い。
腕一本横に動かすのすら億劫なのだ。
そうときまれば、もそもそと体だけ動かして布団の中に更にもぐりこんでいきコロンと息もまともにできないような中で丸まった。
苦しい、でもそれも安眠のためだ、と既にもう9時間は眠っている筈の私は自身の脳みそに言い聞かせてじっと縮こまっている。

、さっきから時計が鳴りっぱなしだ。いい加減に起きてきなさい」

部屋の中にいつのまにか誰かの気配が増え、ぐっと布団を上に持ち上げられそうになる。
慌てて布団の端っこを両手でしっかり持って布団をはがされないようにする。

!いい加減にしなさい、竜崎先生から電話かかってきてるぞ」

結局努力もむなしく布団は私の腕ごと上に持ち上げられてしまい、まるでゴミのようにペイッと床に私の体は転がり落ちた。
そんな私を見てハァとため息をついた私の師匠兼パパ(パパ先生って呼んでるけど)はぐいっと私のわきの下に両手をいれて持ち上げてくれる。
とん、と足が床につくとパパ先生は「おはよう」と言って、寝癖のつきまくってるだろう頭を軽く撫でてくれる。
まだしっかりと開いてない目をゴシゴシとこすって、おはよう、と部屋から出て行こうとするパパ先生の背中に向かって声をかけた。
冷たい水で顔を洗いリビングにむかうと、既にテーブルの上には朝食が用意されていてすごくいい匂いが漂っている。
現在時刻朝の九時。
日曜日の今日、きっとパパ先生はもっと早くに起きていたに違いないけれどきっと私を待っていてくれたんだと思う。
私が席につくのと同時に、いれたての紅茶がだされパパ先生も向かいの席に座る。
いただきます、と洋食にはあわない挨拶をして焼きたてのトーストにチョコクリームをペタペタとぬっていく。
パパ先生は普通のマーマレードだけど、私はどうも無類のチョコ好きでパンにはチョコ!!とばかりにいつもバターチョコだのミルキーだの買いあさってきてしまう。

「そういえばねー、今日なんか変な夢見たような気がするんだよね」
「変な夢?」
「んー…でも中身全然覚えてないの。なーんか覚えてたとしてもハッキリしないような…」

トーストにかじりつきながら首をかしげて考え込んでいると、パパ先生に行儀が悪いとたしなめられる。
それに肩をすくめて静かにトーストを皿の上におき、ボールにもられたサラダを一掴み小皿にうつす。
ミニトマトにフォークをぶっ刺すのはお行儀が悪い、と以前に叱られ済みなので難しいけれどフォークですくうようにして口の中にいれる。
広がる甘みにえへ〜とばかりに笑うと(私はトマト好きでもある)パパ先生がおかしそうにこっちをみている。
表情はほとんど変わってないも同然だけど、ちょっとした眉の動きとか、些細な動きでパパ先生の表情を読み取ることができるのは数少ないと思う。

「30分になったら跡部が迎えに来るんだろう?あと10分しかないぞ?」

トマトとチョコペーストの幸せにひたっているとパパ先生にそういわれ、時計を見ると確かにもう針は20分をさそうとしている。
慌ててゴチソウサマーと言って食べ終わった皿を台所のシンクに置き、バタバタと洗面所に向かう。
そんな私の後姿を見て、パパ先生が何度目になるかわからないため息をついていたのには気付いていたけれど。



後ろに目があるわけじゃない私は、パパ先生の眉がひそめられていたことになんか気付くはずがない。
















6月1日 AM9:21 快晴