「はいはい、邪魔だから先に入った奴は座りな。振り分けしていくよ」

所長室に先に入った連中からスミレちゃんがデスク前のソファに座らせていく。
勿論座れなかった連中は私と一緒で適当にあいてるスペースに立つだけ。

越前幽限事務所が本格的にスタートしてから6ヶ月。
最初は私を含めて七人だった所員も、あれからほんのちょこっとだけ増えて11人になっていた。
新しくメンバーに加わったのは、前からうちのパパ先生と跡部が目をつけていた宍戸亮、なんというか跡部のおまけでついてきた芥川慈郎、竜崎先生に是非にと乞われてやってきたらしい赤澤吉朗、そして何故か入ってきた当初からやけに私に突っかかってくる真田弦一郎の四人。
時々低いランクの仕事もこなしながらこの6ヶ月で私たちは結構働いてきたと思う。
それなりに仕事も徐々に増えていっていて、近頃は『越前南次郎』宛ての仕事でなく『事務所』宛ての仕事も増えてきた。
気付けば仕事を組むパートナーのようなものがそれぞれにできていて、手塚さんと橘さんみたいに自主的に組んでる人たちもいれば、跡部とキヨちゃんといったどうみてもスミレちゃんの差し金としか思えない組み合わせもある。
学校のない土日は必ずみんなこうやって10時に事務所に集合して、事務所に届いた依頼をスミレちゃんと南次郎さんに振り分けられる。
一つだけ振り分けられる時もあれば幾つかの依頼をまとめて渡される時もある。
土日だけで終わらなかったらそのまま学校のある平日に仕事を回していく。
学校に行ってる余裕があれば放課後から仕事、余裕がなければ学校はお休み。
私たちの新しい六ヶ月はそうやって過ぎていった。

「今週は少ないから安心しな。まずは一件目、蔵からおかしな箪笥がでてきたらしい。これを手塚と橘、それから赤澤に任せる」

そう言ってソファに座っている手塚と橘、ぼーっと起きてるのか(目を開けたまま)寝てるのかよくわからない赤澤にそれぞれ依頼書のコピーを渡す。

「次に、廃ビルでおかしな現象ばかり起こるって連絡が入ってきている。これは跡部と千石、それから芥川に頼もうかね」
「げっ…」

スミレちゃんの言葉に嫌そうな声をあげたのは勿論、私の横に立ってる跡部。
明らかにこれは「千石と芥川の面倒はお前に任せたよ」っていうスミレちゃんの考え。
ホレ、とばかりに目の前に突き出された依頼書を嫌そうに跡部が受け取るとタイミングよく所長室の扉がバーンと開けられる。

「おっはよーん!今日も遅刻しましたー千石清純くんでーす」
威張って言うな、このお馬鹿!!

ゴインっていう音がスミレちゃんの振り下ろされた拳から聞こえてくる。
問答無用でキヨちゃんの頭を叩いたスミレちゃんはそのままさっき跡部に渡したのと同じ依頼書のコピーを渡す。
ちなみにジロちゃんにその紙は渡されていない、というのも思い切りソファの上で眠っているから。
きっとこの後跡部が怒鳴り散らして起すか、そのまま引きずって現場にでも行くんだと思う。

「うーん、廃ビルだなんてなんだかミステリーな香り♪」
「馬鹿野郎、ミステリーで片付けるな」

思うにキヨちゃんの面倒を押し付けられたのは跡部がこうやって面倒見よろしくちゃんといちいち反応返してやってるからだと思う。
不二みたいににっこり微笑んで強制終了させるとか、手塚さんみたいに最初からスルーしちゃうとかしればいいのに。

「次、不二と
「あーい!」
「ちょっと手間がかかりそうな依頼だがあんたたちなら大丈夫だろう」

そう言って差し出されたプリントを受け取る。
手間がかかるってどんなもんだと思いながら受け取ったプリントを見ていると、同じように両隣から興味深そうにキヨちゃんと跡部が覗き込んでいる。
その間もスミレちゃんは次の依頼書を、幸村、真田、それから宍戸に手渡している。

「三人にはね、一応真田が実力あるといっても入って間もないから、簡単な依頼を二つにしておいた」
「俺は別に構わないんですが…」
「あー不二ってばいいなぁ。先生、俺もたまにはと組んでみたいんだけど」
「幸村…あんたはそればっかりだねぇ。とりあえず考えておくよ、だからまずはそっちの依頼を終わらせておくれ」
「了解」

すごく残念そうに幸村がため息をつく。
私は別に不二だろうが幸村だろうがパートナーは誰でもいいんだけど、多分真田が幸村を手放さないと思うし私と不二もようやくお互いの事に慣れてきたって感じだから微妙なところ。
ちなみにこうやってスミレちゃんが依頼の振り分けをやっている間、南次郎さんはというと自分のデスクに両足を乗っけて鼾をかいて寝ている。
暢気なもんだけど、いつものごとくスミレちゃんの「解散」がでたあときっとまた拳骨だけでは済まされない状態になるに違いない。

たちの依頼書、Sランクじゃん」
「お前、不二に迷惑かけるなよ?」
「かけないよ!私だってちゃんと自分のやる事はやってるんだから!」

一枚の依頼書を挟んで三人で云々言い合ってると、スミレちゃんの解散合図が出される。
一人一人所長室を出て行く間に案の定バコンだかガツンだか何かを殴る音が部屋の中に響く。
勿論、ギャーーーなんて断末魔も。
誰も気にすることなくそれぞれの相方の元へいき、それぞれの依頼に取り掛かり始める。

〜」
「あ、幸村」
「いつになったらと一緒に仕事できるんだろうね…俺たち今回Cランクだけだよ…たまにはハラハラドキドキするような依頼をとやりたいよ…」

私の横に立っていた跡部をグイグイと自分の体で押しのけ(勿論跡部の声は一切無視)幸村が先程まで跡部の立っていたところに立つ。
いつもと同じように自分の世界に入り込んでいる、ちなみに最近やっと気付いたんだけど幸村のこのマイワールドは彼の性格によるものでわざとやってるわけでもなんでもないらしい。
跡部をいつの間にか(彼にしてみれば本当にいつのまにか、らしい)排除しているのも意識しての行動ではないんだそうだ。
ただ。

「幸村!いつまでの傍にいるんだ、さっさと依頼現場に向かうぞ!」

幸村が私の近くにいると必ずこうやって真田がやってくる。
真田は幸村がスカウトしてきた男で、能力はかなり高い。
真田本人も自分をスカウトしてくれた幸村の事をすごく信頼しているし、幸村も真田の事を信頼してると思う。
ただ言うなれば二人の信頼の比重が99:1なわけで、尚且つ幸村の中で私っていう存在はすごく大きなものらしい。
そのせいか入所当時から真田にやたらと因縁をつけられてるというか、キヨちゃんいわく『恋のライバル』扱いだそう。
真田の幸村への思いいれは恋ではないと思いたいんだけど、真田の私に会った時の第一声が『お前には幸村を渡さん』だっただけに説得力にかけている。
というか、真田がありえないのか幸村がありえないのか、それとも私がありえないのか。
誰か教えて欲しい。

「現場も被害者もバラバラだからテキパキと動かねばならんのだ、幸村!!」
「あー…〜」
「さ!行くぞ、幸村!ではなく俺と組んでいるのだからな!!」

絶対真田がありえないんだと信じたい。

跡部とキヨちゃんと三人で幸村を引きずりながら引っ張っていく真田を見送っていると、その後を心底面倒くさそうに突いていく亮ちゃんの姿が目に入る。
あんな二人(もとい真田)を見た後に言えることは一つだけ。






「「「宍戸(くん)(亮ちゃん)、頑張れ!!」」」






さぁ、私たちもがんばるかな!!






6月1日 10:18  全ての始まり