勝ってうれしい はないちもんめ
負けてくやしい はないちもんめ

隣のおばさんちょっと来ておくれ
鬼が怖くて行かれません

お釜をかぶってちょっと来ておくれ
お釜がないので行かれません

お布団かぶってちょっと来ておくれ
お布団破れて行かれません

あの子がほしい あの子じゃわからん
相談しましょ そうしましょ



















どの子がほしい あの子がほしい



















「死人が生き返る、そういうのは俗称ゾンビといわれますよね?」
「正確には違いますが世間一般に言われているのは確かにゾンビですね。ただ世間一般に言われるゾンビと呼ばれるものは呪い云々によって動かされる、いわば死んだ人形のことです」

呪い?と伊藤さんが確かめるようにこぼす。

ゾンビは本来『蛇』という意味をもつ、ブードゥー教に古くから伝わる神のようなものである。
神のようなものといえどもこの神もどきは生きていない、私たちの知るゾンビと同じで何かしらに精力を注ぎ込まれた死体である。

この精力を注ぎ込む何か、これは私たちと同業者だと考えていい。
この同業者、意外と世界各地に散らばっていてその能力も様々である。
例えば、代表的なのは中国に存在する術士。
彼らの人形もといゾンビはキョンシーと呼ばれる。
特別な札を体のどこかに貼り付ける事でその死体は術士の支配下に入り、思うままに操る事ができる。
ただこの札が死体から離れてしまうと効力はなくなり、ほんとうにただの死体と化してしまう。

死体にかけられる呪いと呪いをかける術者は一心同体といってもいい。
死体に意識はなく、動かされるものはただの「人形」なのだ。

「つまり、伊藤さんや山崎さんの言うとおり死体が生き返っているというのなら、更にその後ろに何かがいるということになる」
「な、なにかが?」
「普通の人には死体を動かせるだけの術がない、しかもその術もかなりの経験をもってしてでないと使える代物にはならない」
「つ、つまり、どういうことですか?」

バックミラーごしに尋ねる伊藤さんに不二は一つため息を零しただけで、黙り込んでしまう。

もしも、山崎さんを襲う死体の後ろに何者かがいるというのならその襲ってくる死体に私たちが遭遇すれば簡単に見つけられる。
死体には必ず何かしら呪いの『跡』が残っている筈だから。
その『跡』を手繰りさえすれば、どんなに力のある術者でも必ず見つかる。

でも、なにかが引っ掛かる。

も何か思うところあるかい?」
「いや、それにしてはスミレちゃんが嫌そうな顔をしてたなぁと思って…」
「僕も竜崎先生が気になってた。あの先生は越前さんの師匠で、その危険察知能力に関しては特に抜きん出ている。その先生が、受けるのをやめようかとさえ思ったんだ。絶対に何かある」
「うん、私もそう思う」

野性の本能、なんていうとスミレちゃんに盛大に怒られるので言わないけれど、スミレちゃんの危険察知能力は外れた事がない。
そのスミレちゃんに『この依頼は気持ちが悪い』と言わしめたこの依頼、きっとそう簡単に終わる気がしない。

「その山崎さんたちが隠れているという小屋にはいつ着きますか?」
「も、もうすぐ着く!この坂をのぼりきったところだ」








14:38








車から降りてドアを閉める。
ん〜っと背伸びをして思い切り空気を吸い込む。
東京の空気とは違う、どこか澄んだ空気が肺の中いっぱいに入ってくる。
違うのは空気のおいしさだけじゃない、山の中だからか、それともどうやら昨日雨が降ったからか、とても湿った感じがする。
まだそれでも山の中特有の涼しさがあるので、嫌な気分にはならない。
車がとまっているその先には一軒のおんぼろ木造小屋が建っている。
ジャリジャリと湿った感じの砂利道を歩いていき伊藤さんが扉を軽く叩く。
不二は車を降りてから何を考えてるのかわからないまま、一人でスタスタと歩き出して小屋の周りをぐるぐる見て回っている。
私はとりあえずすることがないから伊藤さんの後ろについて行って、同じように中にいるのだろう山崎さんたちが出てくるのを待っている。

「山崎?おい、山崎。俺だ、伊藤だ」

コンコン

伊藤さんの手が更に二回、扉を叩く。

「山崎?」

更に二回。
それでも中から反応がかえってこない。

「山崎?!おい、いい加減返事っ」

ドンドン!!

今度は拳を打ち付けて。
でも、返事は勿論、物音一つ返ってこない。

「伊藤さん、中に本当に山崎さんたち、いるんですか?」
「あぁ、絶対に出るなって言っておいたんだ!だから、中にいるはずなんだがっ…」

ドンドン!!

「山崎!?返事してくれ!!」

返事のない扉に向かって拳を打ち付けている伊藤さんの後ろでどうしたものかと立ちつくしていると、、と不二が私を呼ぶ声が聞こえてくる。

、ちょっと」
「なに?」

先程不二が消えていった小屋のちょうど裏側に向かって足を進めていく。
どうやらこの小屋の後ろは崖になっているらしく、不二は中を覗きこむようにしてその崖の端に立っている。

「どうかしたの?」
「ここ、見てごらんよ」

そう言って不二が私たちの立っている地面を指差した。
地面といっても草が生い茂っているし、周りに木も生い茂っている。
地面らしきものがあったのは小屋の前だけである。

「なに、これ…」
「引きずった跡、それから…なにかの血、かなぁ」

薄暗い小屋の傍、赤い絵の具のようなものがまるで一箇所から引き伸ばされるようにして崖の方へと続いている。
それと同じように生い茂っている草もなにか重いものを乗せられたかのように同じように崖の方に向かって押しつぶされている。
小屋の前には赤いものなんてなかった。

「誰かがなにかを殺してこの崖まで引きずって行って、そして」
「崖に落とした…」

ふと、この引きずった跡の残っている方の小屋の壁に目がいく。

「不二、窓がある…」
「うん、まぁ何があったのかはわからないけど、その窓は窓の役目、果たせてないけどね」

不二の言うとおり、たった一枚の窓ガラスは思い切り割れていて、風は勿論雨も小屋の中に入り込んでいる。
自分の足元を見て窓ガラスのカケラが一つも落ちていない事に気付く。

「外から割られた?」

ひょいと真っ暗な小屋の中を覗きこむ。
見えるのは、割れた硝子の破片と、タオルケットか毛布かそれらしきもの。
それに無造作に床に転がっているコンビニ弁当の容器。
中にいるはずの人間の姿はどこにも見当たらなかった。