悪魔にしろ魔物にしろ何にしろ。
普通「召還する」って言ったら皆はまず何を思い浮かべる?
地面に書かれた訳のわからない文字や魔方陣?
それとも、訳のわからない言葉で綴られる召還魔法?
でも普通はさっきの二つのうちのどっちかを思い浮かべるよね?
それが普通だと思うんだよ。
でも、魔王不二は普通じゃないからして―――

「じゃ早速サルガタナス呼ぶから」

地下室のとある一室、別名「魔王の宮殿」に入った私と不二は準備万端ってところで後は皇居に移動するだけ、であった。
私は一人部屋の隅っこにおいてあるソファに座り不二がサルがナスとかっていう奴を呼び出してくれるのを待っていた。
で、さっきの冒頭に戻るのだが。

「というわけで、サルガタナスよろしく〜」



パチン。



なんとも気力の抜けるような言葉に指パッチンの音が部屋に響く。
召還という言葉に連想される行為を全て否定するかのような行動である。
召還魔法もなければ魔方陣もない。
お前はいつから跡部になったんだよ、と思えるような指パッチンオンリー。
しかし。
ボワンという煙とともに私と不二しかいなかった部屋にもう一つ気配が増える。

「遅い!」
「遅いって…不二様…」
「音が聞こえたら3秒以内って言ったでしょ?」
「言わせて貰うとですね、食事の途中だったんで…」
「え?何か言った?
いえ、何も…

煙が晴れて中から現れたのは。

「これがサルがナス?」
「サルガタナスです…お嬢様」

異様に耳が長くて尖っていて、目がぎょろっとしていて、背がちっこくてひょろっとしてて、牙が異様に目立つ…ようは言葉では言い表せないかな!
説明しろっていう方が無理なのよね、うん!

「お初にお目にかかります、アシュタロト様直属の6大上級魔人が一人、サルガタナスと申します。以後宜しくお願いいたします、お嬢様」

そう言って彼?は私の目の前でちょんと丁寧なお辞儀をしてくれる。

「私は。とりあえず今回(嫌々ながら)不二のパートナーを勤める少女です。よろしく」
「含んでる部分については後で聞くとして。サルガタナスはこれでも旅団を率いるほどの実力者なんだ、これでも」
「2回も言わなくても結構です、不二様…」

しかし不二がニコとサルガタナスに向かって微笑めば彼は「ただの独り言です」と小さく返す。
これじゃあ魔界の住人もうちの事務所の人間も同じじゃない!と思った私はきっと間違えてなんかいないんだろう。

「で、今回の御用は?」
「僕達を指定場所まで運んでほしいんだ。場所はここ」

不二はポケットから何か紙切れをとりだし彼に渡す。
それを見た彼はおや?と首を掲げる。
ちなみに言わせて貰うと、サルガタナスが首を小さく傾げても可愛くなんかちっともない。
やっぱり、こういうことをさせて可愛いのは見た目だけでいうと太一とか(奴は中身が魔王系統だから本当に見た目だけ)
あとはやっぱり観月サン!?
もぅ〜本当乙女なんだもーーん!!

「口開いてるよ、
「はっ!」

しまったしまった、と誰も見てない(不二は置いておいて)けど両手で一応口を隠して閉じる。

「そりゃあ観月がやると(僕は絶対思わないけど)可愛いかもしれないけど、僕はやっぱり他の人の方がいいなぁ」
「えー!不二は誰がいいの!?」
「僕はタカさんとか樺地君をオススメするよ?」

わぁ、さすが不二の美的感覚
まじでついてけねぇ……
とかいいつつ手始めに樺地君の首を小さくかしげた時の様子を頭の中で思い描いてみる。

「うっ…意外とイケル!!」
「でしょ?」
「ところで不二は何で私の頭の中の妄想話を知ってたの?」

そうだよ、だって首を傾げて妄想はさっきまで私の脳内で行われてて口には出してないはず!
そりゃあ口は開いてたけど…
いやいや、それは関係ないって!

「やだなぁ、愚問、でしょ?」
「そうだね…愚問…だよね…」

聞かなきゃ良かった。
これが私の正直な感想、でもつい口から出ちゃうんだよねぇ…

「あのー…不二様?」
「ん?」
「もうそろそろお運びしてよろしいですかな?」
「あー!ちょっと待った!」

さぁ運びますよ〜という雰囲気のサルがナスに待ったをかける。
なんでございましょうか?という雰囲気のサルがナスとまさか忘れ物?という雰囲気の不二に挟まれて私はポケットの中から一通の封筒を取り出す。

「サルがナスさんは」
「サルガタナスです」
「そのサルがナスさんは」
「もういいです」
「それが良策だね、ふふ」
「アシュタロト様の部下ですよね!?」
「えぇ、そうでございますよ」
「アシュタロト様にお会いになりますよね?お話になったりしますよね?ていうか会ってくれますよね?頼みごと聞いてくれますよね?」
「……は、はぁ…」

私に明らかにおされ気味の彼にさっき取り出した一枚の封筒を差し出す。

「コレ!」
「困ります、お嬢様!」
「え?なんで?」
「わたくしは魔族です。貴方は人間。そんな種族を超えた愛なんて…!しかもお嬢様とは今日先程会ったばかりではありませんか!」


「……不二、意外とサルがナスは真面目なタイプだと思ってたんだけど違ったんだね」
「彼はちょっとどこかおかしいんだよね、クス。でもそこが面白いんだけどなぁ」


両手を前に突き出して首を横に振り続けているサルがナスを傍目に不二と会話する。

「サルガタナス、違うよ。これは間違っても君宛じゃないから。安心して」
「は?私宛じゃないので?」
「アシュタロト様に渡してください、アシュタロト様ですアシュタロト様。わかりました?ドゥーユーアンダスターン?」

私の最上級の笑顔をつけて手紙を渡す。
不二がサルがナスに「彼女の名前を言ってやればアシュタロトも貰う筈だから」と言ってくれる。
それを聞いてか納得したのか彼は私のラヴレターを自分の服の中に入れる。

「ちょっとー!しわしわにしないでよー!渡し忘れないでよー!」
「わかりました、ちゃんと渡しますから…」
「さて、の用事も終ったし。そろそろ出発しようか?」