この声が届くのならば

この手が届くのならば

私は貴方の為に貴方の傍に

焼け付くような想いと闇に囚われる悲しみがあるのに








貴方には届かない

















やめて。
たった一言、そのたった一言が音にならない。

こんな嫌な予感に囚われるのは、昔お父さんとお母さんがいなくなってしまったあの日以来。
二人の魂は私の手からスルリとすり抜けていった。
新しく『義父』となったパパ先生は私を本当の娘のように、時に厳しく時に優しく今まで見守ってくれた。

修行をする際、パパ先生は必ず私に言っていた言葉があった。

勘を大事にしなさい。
私の勘は予知とは違うけれど、必ずその勘を信じなさい、と。

跡部にその話をしたら、まるでお前は獰猛な動物みたいなヤツだなと言ったことがある。
女としても、人としても、遥かに超えたその力と危険に対する察知能力。



でもね。



そんな大層な力を持っていても私の手で守れたものはないの。
そんな大層な力もいつも届かない、届いてくれない。



お願い



「さてと。これで静かになったわけだし、契約相手の名前、早々に言ってもらえる?僕は気が長い方じゃないし我慢強い方でもない。言わないっていうのならそれなりの方法をとらせてもらう」



やめて



「小僧。お前はたいしたやつだな…その不思議な力といい、心の奥底に秘めている冷たい野心と欲望」
「………」
「自分への不可侵、許さなない追随。それはそれはとても孤高な心を持っているようだ」



やめて



「僕の事なんてどうでもいいよ。僕が知りたいのは」
「どうでもいい?そうか、どうでもいいのだな、お前は」
「あなたには関係のないことだ、今回のこととも」
「ふん。小僧、お前のようなものこそふさわしい。そう、お前のような『人間』こそがふさわしい」




ヤ メ テ ヤ メ テ ヤ メ テ













奢り高き人間の子供よ!そこまで望むと言うのなら我が命をもってしてお前に教えてやろう!!我が契約者が名前はハボリム!憎しみと怒りを操る魔族が一人なり!!











押さえつけていた筈の男が声高々に叫んだその瞬間、突然男の体が火に包まれた。
私の手の先にあった人肌の温度が触る事などできない、近づく事もできないほどの温度へと様変わりする。
ゴウと音を立てて燃え上がったその炎はオレンジがかった色ではなくまるで血の様な赤。
臭いなどしない、するわけがない。
だってほんの一瞬の事だったのだ。

崩れ去っていく人だったモノ、はらはらと風に流されていく。



「人の驕りほど醜いものはない!小僧!お前もお前の身をもってしてその血肉に刻むがいい!!人間は所詮人間に過ぎないのだ!!



全てが灰に変わってしまう直前に辺り一帯に聞こえた声は人だったモノの声だったのか。
あるべきものが崩れ消えてしまった。
たった一瞬の出来事だった。

人間のできることではなかった。









きっと私達は
侵してはいけない場所へ足を踏み入れたのだ