今日は今年一番の寒さになるでしょう








「うぅ〜〜〜〜寒い寒い寒いさむーーーーーい!!!」

バンっと思い切り執務室の扉を開けて入ってきたモコモコの人間ともう一人の人間はすぐさま扉を閉めハフゥと息をはいた。
モコモコの人間――は耳まで隠れる毛糸の帽子は勿論、一体何枚服を着てるんだと不思議に思うくらい着膨れていてマフラーと手袋はしっかり装備されている。
そのマフラーも通常のマフラーよりかなり長いやつらしく、首と顔の下半分が隠れるくらいにぐるぐると巻いてある。
もう一人の人間――跡部はというとスッキリとした黒のロングコートとマフラーだけでいたってシンプルである。
カシャコンとタイムカードを押していると、ひょこひょこと芥川がやってきてポフンとに背中から抱きつく。

「うおっ、ジロちゃんじゃないの!」
「ん〜〜、なんかいい匂いがする〜肉の匂い〜」
「に、肉?あぁ、これのこと?」

そう言って左手に持っていた一階のコンビニの袋を持ち上げて芥川の目に入るようにしてやる。

「うわぁぁ、肉まんだ!肉まんだ!!」
「にっしっし。跡部にいっぱい買ってもらっちゃった〜」

スポンと頭から帽子を取り手袋を片方ずつ取り去り、ぐるぐるのマフラーもほどいていく。
そのまま芥川を背中に貼り付けたままは執務室片隅のソファに行きボフンと音をたてて座る。
芥川もの隣に座りキラキラと目を輝かせて顔をみつめている。

「はい、これ。ジロちゃんの分ね。で、これあとべーの分。これは私の」

後からやってきて同じようにソファに座る跡部にハイと一つ肉まんを渡し、隣に座る芥川にも一つハイと渡してやる。
つい先ほど買ってきたばかりなのでまだまだ熱くて、半分にわると湯気がぶわっとたちのぼる。

「えへへ、おいC〜〜」
「あん?、お前は食わねぇの?人が折角買ってやったのに」

モフモフと肉まんにかぶりついている芥川やちぎって行儀よく食べている跡部に対しては自分の分といった肉まんを再びコンビニの袋に戻してしまう。
袋の中には先ほどが戻した分の肉まんともう一つ入っていて。

「忍足に渡して一緒に食べてくるね、一人じゃ可哀想じゃん」

そういうやいなや立ち上がりすれ違う所員たちに挨拶しながら執務室から出て行く。
廊下に出ると暖房がきいていないからとても寒く、あぁさっき帽子とマフラーと手袋外すんじゃなかったと後悔する。
コートのポケットに両手を突っ込みカンカンカンと音をたてて階段をのぼっていく。
5階にある忍足の研究室は一番廊下の突き当たりで、たどり着くまでに吐き出される息はやはり真っ白。
寒いのをこらえてコンコンとノックすると「どうぞ〜」と返事がかえってき、冷たいノブに手をかけ中に入る。
部屋の中はちゃんと暖房がきいてるらしくかじかんだ手がピリピリと痛む。

やん、どないしたん?」

札作りでもしていたのか作業机にむかっていた忍足はぎぃっと音を立てて椅子ごと身体をこちらにむけてきた。
前髪が邪魔になるからかゴムでちょんと前髪だけ結んであって、しかもそれが微妙に似合ってたりで可愛かったりする。

「肉まんあげよーと思って。食べるでしょ?」
「肉まんかぁ、食べる食べる。まぁそこ座りぃや」

忍足の部屋には冬限定で作業机とはまた別にこたつが置いてある。
ちゃんとじゅうたんの上に設置してあるので座ってもお尻は冷たくならない(座布団もたくさんあるし)
ごそごそとコートを脱いでこたつの中に入るとコトンと音をたてて目の前にあったかいお茶のはいった湯のみがおかれる。
同じようにして自分の湯飲みも置き、ちょうどの目の前の位置に忍足はもぐりこんでくる。
ゴソゴソと机の上に置かれたコンビニ袋をあさり自分の分の肉まんを取り出すとペラっと台紙をはがし半分に割る。

「ん〜まだあったかいやん。どないしたん、これ?」
「はふ、ほれ、はとへひはってほらった」
「飲み込んでから喋りぃ」

ゴグンと飲み込んであったかいお茶に手を伸ばす。
フハァと自然にこぼれる一息に自然と笑みがこぼれる。

「それねー下のコンビニで跡部に買ってもらった。ジロちゃんの分と跡部の分と私のと忍足の!」
「はぁ、そらどうも。にしても跡部と下ででも出くわしたん?」
「んーん、今日は跡部と一緒に事務所に来たからねだってみた」

残り半分の肉まんにガブリとかぶりついたに忍足は一瞬眉をひそめ。

「一緒に?」
「うん、昨日あとべーの家に泊まってたから」
「――泊まり、ねぇ」

真正面に座るは忍足のいぶかしげな視線を気にすることなく最後の一口とばかりに残りの肉まんを口の中につっこんでいる。
その顔は大変幸せそうで、お手軽な幸せやなぁと忍足は一口お茶を口に含む。

「前から仲えぇ仲えぇとは思いよったけど、お前ら仲良しの域超えてんのとちゃう?」

でもどこかイライラしている自分の口からは辛らつな言葉しかでてこなくて。
別に俺が気にすることちゃうのに、とわかっていてもとまらない。

「えー?なんで?」
「いくらなんでも女の子が男の家に泊まりは」
「だって、昨日は仕方なくだったんだし」
「仕方なく?」
「そ。パパ先生(榊のこと)が用事で家を空けるのになんか変に心配してさ、跡部の家に押し付けられただけだし」

一人でも別に大丈夫なのにさー、パパ先生変なところで心配性だからさ。
なーんて頬を膨らませてブツブツ呟いているに。

「な、なんや。そうやったん?」

忍足は変に安心しちゃったりして。
慌てて手に持っていた残りの肉まんを口に突っ込む。
量が量なだけに思い切りのどにつっかえ慌てて湯飲みに手を伸ばしゴクゴクと熱いお茶を飲み込んでいると、正面のはクスクスと自分の方をみて笑っている。

(ま、こいつに限ってな……)

今はこのままでいいよな、とどこか今のこの空間に安心している自分がいて。
楽しそうに笑ってるがいて。
どうでもよくなってしまった忍足はにお茶の御代わりの有無を尋ねたのだった。











今日はちょっとだけ心がポカポカする一日になるでしょう