全ての始まりは一本の電話だった。
幸村は私が中学三年になってから、つまり彼が高校に入ってから東京本部から神奈川支部へと移動になった。
神奈川支部は越前幽限事務所で一番最初にできた支部で、幸村はそこへ神奈川代表として栄転することになったのだ。
もともと彼の実家は神奈川よりにあり横浜(最初は横浜に支部があったのだ)まで通うことはそこまで大変なものではなかったらしい。
幸村が栄転すると同時に真田も彼を追いかけるようにして神奈川へ(無理矢理)移動。
さらにその後を追うかのように柳も(これまた無理矢理)移動。
計三人が東京本部から慌ただしく神奈川へと消えていった。
その後幸村は半年もしないうちに仁王、柳生、ジャッカルという三人の能力者をスカウトし神奈川支部は六人になった。
仁王は私にとって(やっかいではあるけれど)話しやすい奴の一人で、事務所の愚痴をなんだかんだで聞いてもらっていた。
もっとも奴は聞いているというよりも聞き流しているに近かったが。
柳生は、その、一言で言えば「あぁ、大石くんと南くんの仲間が増えた」だった。
実際、彼の神奈川支部での生活は悲惨なもので…涙なしでは語れない。
ジャッカルも柳生と似たような境遇ではあったが、彼の場合まだ存在感がなかったに等しかったのが幸いしたのか柳生ほどではなかった。
六人はそれなりに神奈川支部をもりたてていき、その成績に満足した越前さんとスミレちゃんは早速他にも支部を作ることを決めた。
ようは神奈川支部は他の支部のきっかけでありお手本だったってこと。
そんなとき、仁王から電話がかかってきたのだ。
「で、なんで俺とジローが神奈川にまで行かなきゃなんねぇんだ?」
「ぐーーー」
「まぁ色々あってさぁ…」
快速に乗って横浜に向かってるのは私と亮ちゃんとジロちゃんの三人。
二人が事務所にやってきたと同時に拉致ってきてこの電車に乗っている。
後ろで跡部が「俺様をおいていくな」だの叫んでいたがそれはそれ、これはこれ。
必要なのは亮ちゃんとジロちゃんのみ!だ、今回の神奈川行きに跡部は必要ない。
亮ちゃんは突然の誘拐にしきりに理由を聞きたがっていたが、理由を言えば恐らく品川だろうがどこだろうが横浜にたどり着くまでに下りてしまうに違いないので黙っている。
ジロちゃんは電車に乗ってすぐに夢の世界へと旅たったので大丈夫だろう。
「おまえなぁ、いい加減理由言えよ。俺、帰るぞ」
「だめだめだめ!そんなことされたら仁王が怒るでしょ!!」
そう、今回神奈川に亮ちゃんとジロちゃんを連れて行ってる原因は仁王からの電話だった。
幸村に神奈川に行くとは連絡をいれていないので彼が横浜駅で待ち伏せしてることはないと思う。
幸村のすごいところはあのとんでもなく広い横浜駅の中でたとえ私がどこにいても必ず嗅ぎ付けてやってくるところだ。
それを手塚に一度話したら「それはスゴイというよりも…少しお前は恐怖心を持ったらどうだ?」と逆になぜか説教された。
「仁王?誰だ、それ」
「神奈川に二ヶ月前入ってきた奴。私より一個上だから亮ちゃんたちと同い年」
「で。そいつと俺達がなんの関係があるんだ?跡部は置いていくしよ」
「なんかね、神奈川にまた新しい所員が入ってきたんだって。だから見に行くの」
「見に行くのはかまわねぇが、それと俺達との関係はなんだっていって」
『横浜〜横浜〜お降りのお客様はお忘れ物にご注意ください』
しつこい亮ちゃんの詮索に困っているとタイミングよく横浜へ到着。
さっきの質問は聞こえていなかったふりをして寝ているジロちゃんを起こしにかかる。
そう、理由は決して亮ちゃんにはいえない。
『お前、幸村からもう聞いたかのぅ?』
「なにを?今週は幸村と喋ってないよ」
『そーかそーか。いやなに、神奈川に新しい奴が入ってくるんじゃ』
「へぇ?また幸村スカウトしてきたんだ?」
『おう。それがなぁ、まーた男なんじゃよ。そろそろ女いれてくれてもいいと思わんか?』
「どっちでもいいや。私自身女だしぃ〜」
『そういやそうじゃったな。ま、そこで相談じゃ!!』
「相談?話にもよるけどさ」
なんとか起きた(足取りはやばいけど)ジロちゃんの背中を押しながら快速を降りた私たちはそのまま改札のほうに向かい始める。
階段を降りている最中やらなきゃいけないことを思い出し。
「はい、ジロちゃん。こっち向いて〜」
階段を降りたところで私はカバンから赤いリボンを取り出しそれをくるくるとジロちゃんの首に結びつけた。
右の耳の下のところでちょうちょ結びしてやると、これがまた可愛い。
「いや〜、ジロちゃん、かっわいい!!」
「んにゃ〜ねむい〜…」
「お前…何してんだよ」
亮ちゃんのつぶやきなぞこれまた綺麗さっぱり無視してジロちゃんの手をとって改札に向かって歩き始める。
広い広い改札の向こう側にひときわ目立つ銀髪がちらっと目に入り、待ち合わせ場所いらずだなぁなんて思う。
後ろからちゃんと亮ちゃんがついてきているのを確認し、私たち三人は改札から銀色の髪の毛のもとへと向かう。
向こうも途中で私に気付いたようで軽く右手を腕に上げた。
「よぉ、。おはよ〜さん」
「はよ〜、仁王。わざわざ横浜まで出てきたんだから、昼飯は勿論あんたのおごりでよろしくね〜」
挨拶を二人でしたあと、まじまじと見てくる仁王に何?と尋ねる。
それに仁王はすぐさま答えず私の腕を取って少し離れた場所までいき、小さい声でさらになにかたずねてくる。
まぁでもこんなにたくさん人がいるから多少大きな声で喋っても大丈夫だとは思うんだけど。
「お前、カワイイ子どこにおるんじゃ?連れてくる言うたよな?」
「だからちゃんと連れてきたよ」
ジロちゃんを近くの柱にもたれかけさせて亮ちゃんは私と仁王のほうをいぶかしげに見ている。
その瞬間
「どこがカワイイんじゃ!お前、連れてきたの男しかいねぇだろ!!」
仁王が声を荒げて私にそういうもんだからさ(必死なのはわかるけど胸倉つかむことないじゃんね)
宍戸がぎょっとした感じでこっちを目を大きくあけて見てくる(どこの部分で驚いたのかはわかんないけどね)
まぁとにかく、仁王がそんなこと言うもんだから私もちょーっとだけ腹が立って柱で寝ているジロちゃんの腕を引っ張って立たせる。
「馬鹿ね、仁王!!あんたこんなカワイイカワイイ子連れてきてあげてんのに!!しかも亮ちゃんつき!」
「えー、なぁにぃ?っち」
「テメ、どういう意味だ!?」
「アンタこの二人を可愛くないっていうの!?目がおかしいわ!寧ろ、私がほしいくらいなのに!!」
「アホか!!!」
私の主張を仁王にぶつけていると後ろからゴンと亮ちゃんに殴られた。
「お前、俺とジローどういうつもりでここまで拉致ってきた!?いい加減はいてもらおうか、あ?」
「仁王が全部悪いんだよ、私は悪くないもんね」
『お前、幸村からもう聞いたかのぅ?』
「なにを?今週は幸村と喋ってないよ」
『そーかそーか。いやなに、神奈川に新しい奴が入ってくるんじゃ』
「へぇ?また幸村スカウトしてきたんだ?」
『おう。それがなぁ、まーた男なんじゃよ。そろそろ女いれてくれてもいいと思わんか?』
「どっちでもいいや。私自身女だしぃ〜」
『そういやそうじゃったな。ま、そこで相談じゃ!!』
「相談?話にもよるけどさ」
『誰か可愛い子紹介しろ。一応女子校通ってるんやから可愛い子知り合いにいるじゃろ?』
「えぇー!面倒くさいじゃんか…いやだなぁしんどい、なんで私が…」
『紹介してくれたら昼飯おごったる』
「今度の日曜でいい?横浜駅まで迎えに来てね、幸村はいらないからね」
「っていうわけなの。ホラ、私悪くないでしょ?」
「お前も十分悪いっつの!!こんのアホ女、飯につられてんじゃねぇ!」
再びバコンと音をたてて頭を殴られる、つか女の子に手を上げるなんてひどい!!
最近スミレちゃんに似てきたんじゃないかな。
「もういいよ、さっさとご飯食べに行こう。私中華ね、中華以外受け付けませんから!!」
さっさと話は終わらせるに限るとばかりに話を思いきり変えてしまう。
そんな私に亮ちゃんはハァとため息を一つこぼし、仁王はいまだ連れてきた『可愛い子』がヤローだったことにショックを受けている。
カワイイ子を連れて来いとは言われたけど、女とも男とも言わなかったから私は悪くない(断言する)
「ちょっと待て、お前はそれでいいかもしんねぇけど俺、コイツのことしらねぇんだから紹介くらいしていけ」
ぐいっと襟を掴まれて首が一瞬ぎゅっとしまる。
亮ちゃんの指差す先には落ち込んでいる仁王がいて、三人ともお互いのこと知らないという事実に今更ながらに気付く。
とりあえず掴んでいた手を離してもらって亮ちゃんに仁王を指差しながら紹介してあげる。
その際いい加減諦めろとばかりに仁王の頭をはたいて、立ち上がらせた。
「これ、仁王雅治。電車の中でも言ったけど神奈川支部に二ヶ月ほど前に入ってきた新人さん」
「これ言うな。ども、仁王じゃ。二ヶ月前からじゃけぇ、まだまだ新人じゃがよろしゅう頼む」
「俺は宍戸亮、こっちの寝てる奴が芥川慈郎。俺達二人は今年で二年目だ、よろしくな」
「あぁ。それでじゃ、。実はもう一人ここに来ることになっとるんじゃ」
「もう一人?真田と幸村じゃなかったら別にいいんだけど」
「大丈夫じゃ。電話で言ったこの間新しい奴が入ったって言うたじゃろ。ソイツじゃソイツ」
そういうやいなやタイミングよく「おーい、にお〜ぅ」とどこか間延びした声が聞こえてくる。
ブンブンと手を振りながらやってくるのは真っ赤な髪の毛の、どこか幼さを感じさせるようなそんな少年。
わりぃ、と謝る彼に仁王は遅いと文句を言っていたが、すぐに私たちの方に向き直り
「コイツが神奈川支部に新しく入ってきた丸井ブン太。ブン太、こっちは前に言うとった東京の奴ら」
「丸井ブン太って言うんだ、幸村に誘われて入ったばっか。ま、シクヨロ!」
ニコっと笑うブン太少年はどことなく全体的な雰囲気がジロちゃんに似ている(カワイイしね)
「宍戸亮だ。よろしくな」
「私は。私の前で幸村と真田の名前はあまり出さないようにしてね」
「それから、もう一人…」
そう言って亮ちゃんがジロちゃんを紹介しようと柱にもたれかかっているジロちゃんに顔を向けると。
「ん〜なんか〜いい匂い?ん〜俺と同じ匂いがする〜」
突然目をつぶったままくんくんと鼻をならしながらこちらに近づいてくる。
匂い?とばかりに私たちは頭の上に?マークを浮かべていたのだが、ジロちゃんはそのまま鼻をならしながらぐるぐると動き回ると。
「キミだぁ。俺と同じ匂い!!」
来たばかりの少年、丸井ブン太少年の前で立ち止まると突然覚醒モードに切り替わり思い切りブン太少年に指をつきつける。
その顔はとても嬉しそうで、ニコニコと笑いながら「俺、芥川慈郎っていうの」とブン太少年の腕を上下に振っている。
「おい、ジロー。その辺にしとけ」
「つか匂いってなに?俺なにもつけてねぇけど…」
亮ちゃんがジロちゃんを困惑気味なブン太少年から剥すもすぐに再びジロちゃんはペタっと彼にくっつく。
ぶっちゃけ、羨ましい。
「あのね、丸井くんから俺と同じ匂いするの。懐かしい匂い」
「お前と?懐かしい匂い?」
「うん、俺のおばあちゃんと同じ!!」
笑顔で言い切ったジロちゃんにブン太少年はおばあちゃんと一緒にされたからか複雑そうな顔。
でも、確かジロちゃんのおじいちゃんおばあちゃんって。
「たしかお前のおばあちゃんってお前と同じ夢魔じゃなかったか?」
「うん!」
「へぇ、芥川は夢魔か!ブン太はこれで死神なんじゃよ」
話によると、ブン太少年のおじいちゃんが死神なんだそう。
彼のお父さんお母さんはいたって普通の人間らしいので、そのへんはジロちゃんと似ているのかもしれない。
夢魔と死神というのはそもそも人間ではなく、魔族のとある一族のことである。
「つまり、ジローの言う匂いって」
「おばあちゃんが住んでる世界の匂い〜!うひゃ〜なつかC〜」
そのままジロちゃんは興奮しきったままでブン太少年にぎゅっと抱きつき嬉しそうに笑う(別にこれっぽっちも羨ましいとか思ってないよ)
ブン太少年も困ったように笑ってはいるが自分と同じ魔族の仲間に抱きつかれてまんざらでもなさそう(さっさと離れろとか悔しいとか思ってないよ)
さっきまで眠い眠い言ってたくせにジロちゃんの浮気者め!!
仁王はそんな私達三人を放っておいて「昼飯、食いにいくぜよ〜」と暢気に言うとさっさと歩き始めてしまい、亮ちゃんもそれにつられて歩いていってしまう。
ジロちゃんは嬉しそうにブン太少年を(なかば)引きずりながら二人の後を追いかけるようにして歩いていき。
残ったのは。
「―――私だけ一人?」
遠ざかっていく四人に忘れられるかのようにポツンと改札の前で立っている私はジーンズにつっこんでいた携帯が突如ブルブルと震え始めたのにきづき禄に表示された相手の名前を見ずに電話にでる。
あぁなんでこのときちゃんと表示された名前見なかったんだとすぐに後悔するのだけど。
『もしもし?〜?今日横浜に来てるんだってね!』
「――ゆ、幸村さん?」
『そうだよ。あと5分で横浜駅に着くから一緒にご飯食べようね〜』
私の返事を聞くまでもなくそのままブチっと電話は一方的に切られる。
さっきの電話、後ろで真田が騒いでた声が聞こえなかったか。
ヒィっと顔から血がぬけていくような感触を味わいすぐさま帰ろうと改札に向かった私の肩にポンと置かれる手。
そして
「お待たせ〜どこに行くの?」
「精市!!何故を誘うのだ!?」
「まぁまぁ、弦一郎。久しぶりだな、」
私を囲むようにして立つ三人の少年たち(一部おっさんだが)
―――さっきの電話から1分もしないうちの話なのは言うまでもない