10月は別名「神無月」という(ただし陰暦の10月のことだ)
その由来は、八百万(やおよろず)の神々が、この月に出雲大社に集まり他の国にいないからと考えられてきたことにある。
逆に出雲大社のある島根では「神無月」ではなく「神在月」と呼ばれるそうだ。

さて、皆様ご存知越前幽限事務所神奈川支部の立海温泉はもともと神々の湯治場として(兼幸村の趣味)作られたものである。
10月は神々が全て出雲大社に集まってしまうため、必然的に立海温泉には本来のお客様がやってこない。
依頼は常に同じペースで舞い込んでは来るが一番肝心の湯治場の仕事が成り立たないため、今年から10月いっぱいだけ神奈川支部は一時閉鎖することに決まったのだ。
その間、神奈川支部のメンバーは全員東京本部にまわされることになり彼らは自分達の支部の仕事と本部のお手伝いをすることになったのだ。





で。






そーんなこと、まったく、これっぽっちも知らないし教えてもらわなかった私は。

「あ!!!」
「やぁ、今日はちょっと遅かったんだね」

なーんて。
不二&幸村コンビ(略して不幸コンビ)に笑顔で執務室入り口でお出迎えされたのだった。
この不幸コンビが揃うのは実際かれこれ二年だか三年ぶりだかで、その名の通り周りの人間に不幸だけ与え続けるというとんでもないコンビである。
遊ぶのが大好きな不二と私といるのが何故か大好きな幸村。
この二人の格好の的が私になるのは言うまでもない。

そして私は事務所執務室のドアのところで危うく意識を飛ばしかけたのだった。








「スミレちゃん…なんでここに神奈川支部の連中がいるの?」
「おや?不二から聞いてないのか?」
「なーんにも聞いてませんが?」
「おかしいのぅ、不二は自分からに言っておくと言っておったが」

神奈川支部の連中がそろいに揃って全員執務室にいる理由を問いただすためしょちょうしつへ向かった私を待っていたのはやっぱりというかお約束の回答で。
まぁ不二が面白がって言わなかったなんていうのは考えるまでもなくわかることだ。
で、これにいちいち反応していたら自分の身体がいくつあっても足りなくなるのでもうきっぱりさっぱり無視することに決める。
勿論、不幸コンビも(できる限り)無視。
真田&柳コンビも無視。
ジャッカルはいてもいなくても一緒だから無視。
仁王と柳生、ブン太は害はないけどとりあえず無視。





だが。





〜今日から一緒だぜぇ?」

私に纏わりつく人間、切原赤也、コイツがいる限り私の『神奈川部員はきっぱり無視しよう』計画は全て水の泡になる。
自称私の弟子という赤也はそれはそれは嬉しそうに所長室から出てきた私を待っていてくれて。
それから私が自分のデスクに戻ってもずーっとくっついている。

「赤也ばっかりズルイ!!」

そんな赤也に対抗するかのごとく幸村がやってきて、赤也とは逆サイドで私に纏わりついてくる。
私を挟んで二人でギャーギャーと言い争いするのはやめてほしい。
ついでに腕を取るのもやめて欲しい、ペンすらもてないから仕事にならない。
で、幸村と赤也が私に纏わりついていると次にやってくるのは。

、許すまじ!!!

と鬼のような顔をした真田。
本来ならこれにまだ柳がオマケでついてくるのだが今日は久しぶりに幼馴染に会えるということで私が事務所へ来たときから柳は乾のデスク付近で二人で色々と話し込んでいた。
何を二人で話しこんでいるのかはわからないが、いつも乾と一緒にいる深司が離れた場所にいるのや二人の周りに誰も寄り付かないところを見る限りエグイ話をしているに違いない。
これはこれで逆に気になる。
柳生はというといつも忙しそうな観月サンのデスク付近でなにやら色々と作業をしている。
恐らく神奈川支部の依頼調整をしているのが柳生なので観月さんと調整しながらお仕事しているんだと思う。
普段ならジャマされたくないからと誰にも自分の仕事を手伝わせない観月サンだけど、柳生は同じ仕事をしているからか許しているらしい。
まぁでも観月サンはいつもと同じ量をこなしているわけだからいつものごとくすましたお顔をしていらっしゃるけど、柳生の方は仕事の量が半端ないことに結構ズタボロの状態で必死に取り掛かっている。
そして、そんな二人にそっとお茶を差し出すのはジャッカル桑原。
ぶっちゃけあんたいつからお茶くみOLになったのよと突っ込んでやりたいが、彼はいたって幸せそうなので誰もつっこまない。
観月サンにお礼を言われて嬉しそうな顔になったジャッカルは今度は橘さんと南くんの方にお茶を持っていく。
きっと本部にいる限り彼は赤也とブン太っていうダブル迷惑コンビの世話から解き放たれるので幸せいっぱいの生活を送れるに違いない。
そんな迷惑ばっかりかけているブン太はというと。

「あー!!丸井くんだC!!」

と事務所にきて早々覚醒ジロちゃんに捕まり二人でお仕事に出かけたんだそう。
ジロちゃんはブン太の匂いに限りなく敏感なので、仕方ない話だといえば仕方ない。
まぁブン太もそんなジロちゃんに懐かれるのが嫌じゃないようなのできっと一ヶ月の間、ジロちゃんはブン太と一緒に仲良く(常に覚醒状態で)お仕事をするんだろう。


神奈川支部の連中が思い思いに行動している中。
私はというと。


「幸村ぶちょはと昔から仲良しなんだからたまには俺に譲ってくださいっ!」

右腕を引っ張られ

「そんなの関係ないんだから!赤也こそ年功序列って言葉知らないの?」

左腕を引っ張られ

、お前は少し初期メンバーだという自覚をもってだな!聞いているのか!?」

上からはお説教(という名の完璧な八つ当たり)
私だけなにかおかしくない?なんでいつもいつも私だけこんな目に合わなきゃいけないの!?

――けれど、私の不幸はまだまだ続くのだった。







「折角だから幸村と不二と。三人で一ヶ月チーム組んでSランクの仕事こなしていってくれ」

とスミレちゃんからSランクの依頼の束をどっさりと手渡される。
私が文句言う前に笑顔で不幸コンビが「わかりました」「頑張ります」なんていうからそのまま流れ流れ…

「ふふ、頑張ろうね、
「楽しみだなぁ。あ、これなんて依頼場所が秋田だよ。比内鶏食べれるね〜」
「こっちは徳島だよ。うどんだね、うどん」

全国津々浦々、今日から一ヶ月不幸コンビに挟まれてお仕事しなくちゃいけないようです。







―――あぁ、勘弁してくれ。