「みーなーみーくーん!」
「あーそーびーまーしょー!」
ここ最近仕事続きで、土曜日の今日、やっと俺は久しぶりの休日をゲットした。
この日が訪れるまで紆余曲折、色々あったのだがそんなこと全て水に流してもいいと思えるくらいこの日が待ち遠しくて、そして楽しみだった。
毎日が忙しくて普通の高校生みたいにやりたいことがやりたい時にできなくて、休みになったらあれをしようこれをしようと色々考えたりもした。
仕事(バイトではないよな)がら他の高校生と比べるとお金には困ってないし、寧ろ裕福な方だと思う。
でも、時間の余裕は全くなくて。
遊びに行く約束とかしているクラスメートを見て羨ましいと何度思ったことか。
そんな土曜日。
けれど、俺は自分が休み=千石も休み、ということをすっかり忘れてしまっていたようだ。
「今日は頼むから帰れ。いや、帰ってください」
玄関で家族が見守る中俺はニコニコと笑顔で突っ立っている二人に土下座してみた。
時刻は9時少し前。
休みの日くらい思いっきり寝させてくれよと内心かなり頭にきていたのだが、そんなもの目の前の二人には通用しやしない。
案の定
「なんで?一緒に遊ぼうよ」
「折角キヨと南くんとお休み重なったのに…」
と諦めることなく、寧ろブスーっと不機嫌になりながら口をとがらせ文句を言ってくる。
あぁ、そうだな。お前達はこういう奴だ。
「千石、。今日は俺、静かに過ごしたいんだ。頼むから二人で遊びに行ってこい」
「えー!でも南がいなかったらつまんないよぅ」
「どうしてもだめぇ?」
なんでお前たちの上目遣いはそんなに胸にきゅんとくるんだろうな。
俺がおかしいのか?
「頼むよ、今日は本当久しぶりの休みなんだ。ゆっくり休ませてくれ」
「うぅ、みなみぃ…」
「南くぅん…」
あぁ、お前たちのその顔、きっと忍足なら喜ぶよ。本当。
「まずはどこ行く〜?」
「はーい!私、映画見に行きたーい」
あぁ、そうさ。俺はどうせ可愛いものには弱いよ。千石にだってにだって弱いよ。
なんだって俺ってば、土下座までしたのに渋谷にいるんだろうな。
にしても二人は本当に仲良しだな、俺お前達についていく余裕が特に今日はないよ…
「ねぇ、南、南!」
「んぁ?なに?」
「今から映画見に行こうって話してたんだけど、映画でいい?」
右腕を千石、左腕をがいつのまにか掴んでいて顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
あぁだからそれは忍足にしてやってよ。
「あぁ、うん。いいけど…」
そういえば、この間封切りされた映画の監督、結構前から好きで今度のも見に行きたいなぁなんて思ってたんだっけ。
SF大作とまで言われてるから、アクションモノが好きな二人には見たいなんて言えないしなとか思いながらも了承の返事を言うと。
「わーい!さてさて、ここで千石くんからとっても重大なお話があります」
「え〜なになに??」
「ジャジャーン!!!」
そう言って千石がポケットから取り出したのは
「映画のチケット?」
「そ!この間懸賞に出したら当たったんだよ!タダだからこれにしない??」
俺が見たい見たいと思ってた映画の無料鑑賞券。
うわぁとちょっと嬉しくなって、思わずうんうんと首を縦に振る。
もタダならいいよ〜と笑顔で了承。
三人でつまんないこと騒ぎながら映画館へと歩き始めた。
「結構面白かったね〜アクションとはまた別の迫力があるっていうかさ」
「私最後ちょっぴりしんみりしちゃった」
千石とがそんなことを喋りながら映画館から出て行く。
俺はというと、記念にパンフレットを購入。
映画の方も大満足で、ちょっとだけ今日休みを潰してまで千石たちと遊びに来て良かったと思った。
「南くん南くん、おなかすいたからご飯食べに行こっかってキヨちゃんと言ってるんだけど」
先を歩いていた二人が立ち止まって俺に尋ねてくる。
なるほど、時刻は既に1時を回ろうとしていて確かに言われてみればおなかがすいたような気がしないでもない。
「そこで、今度はちゃんからとっても重要なお話です!!」
「へ?」
「じゃじゃーん!これは一体なんでしょー!!」
そう言って今度はが得意げにポケットからなにかのチケットを三枚取り出した。
なんだ?と思って近づいてチケットに書かれた文字を読んで驚いた。
「これ、あの赤坂にあるホテルのバイキングチケット?」
「ピンポーン!パパ先生に出かげに食べてきなさいって貰っちゃった!ね、これ行かない?」
「うわぁ、バイキング!しかもホテルの!?俺行きたい行きたい!!」
千石は嬉しそうにハイハイと手をあげていて。
が南君はどうする?と首を傾げてくるのに、俺も勿論行くよと答える。
こんな機会でもなけりゃ滅多に行けないもんな、ホテルのバイキングとかって。
は勿論、榊さんにも感謝しなくちゃいけないな、なんて考えながら地下鉄を乗り継いでホテルへ。
ちょっとどんな料理がでるのかワクワクしてしまったのは二人には内緒だ。
あんなに朝出かけるのを渋ってたのに(土下座までしたんだもんな)ここで喜んでたらなんだかゲンキンだもんな。
でも、出される料理、全てが本当最高で。
俺、今日だけはゲンキンな人間でいいかもしれないと思ったり。
千石とも本当おいしそうに食べる食べる(なんかは特に幸せそうな顔してるしさ)
なんかは俺と同じくらい食べるもんだから心配して大丈夫かと尋ねたんだけど、どうやら女の子の胃袋はこういうときだけ4つに増えるらしい。
牛かよ!!
あの後、千石が服を買いたいとかが新しいバッグを買いたいとか駄々をこねて(あれは本当に駄々だ…)
新宿まで戻ってかれこれ3時間はいろいろ買い物に付き合わされて。
晩御飯のつもりでファーストフード店に入っている。
昼がホテルのバイキングだったことを考えれば、この晩飯はかなりランクがさがったことになるよな。
「あ、南!ここの代金俺達が払うからいいよ」
「は?何言ってるんだ?」
「いいからいいから!南くんは先に場所取ってきてね〜」
に背中を押されて仕方なく三人分の席を探しに歩き始め、ちょうど奥の方にテーブルを一つ見つけたのでそこに千石たちから押し付けられた荷物と一緒に腰を下ろす。
しばらくして二人が三人分の食事がのったトレイをもって現れて。
「おまたせ〜」
「はい、これが南の分ね」
二人にとりあえずおごってもらったことに礼を述べると、二人は揃って顔を見合わせて。
「お礼を言うのは私とキヨちゃんの方だよ」
「そーそ。いつも南に迷惑かけちゃってるからさ」
「「今日はいつものお礼もかねて南(くん)になにかしたかったんだ」」
そう言ってブンと顔を下にそろって下げる。
「「いつも、ありがとう!!」」
あぁ、今日は色々二人からのプレゼントだったんだとそこではじめて納得というか。
そういえば、あの映画見たいんだって話は千石にしかしたことないよなとか。
そういえば、この間においしいものがたくさん食べたいとかぼやいたっけとか。
それを覚えてて俺に本当にプレゼントしてくれた二人に。
「おまえら…」
心からありがとうの言葉を。
感謝の言葉を。
帰りに三人で撮ったプリクラは俺の定期入れにこっそりと貼られてある。