あんたね、私が事務所でなんて呼ばれてるか知ってるんでしょ?

女の私にみんなしてバケモノとか怪力女とか言うのよ。

だーれが、そんな奴にバレンタインチョコやらなきゃいけないんだっつーの!

寧ろ私がみんなからセクハラ発言だって無理矢理して慰謝料もらってもいいくらいだと思わない?

なのに、2月に入ったと途端みんなして「楽しみにしてるからな」とか言うの。

なーにが楽しみにしてる、だ。

私からお前らにやるチョコなんて一つもありゃーせんわい!!

その点、あんたは違うよね?

一番最初に会ったときは何度殺してやろうかと思ってけど。

え?そのことはもう忘れてくれって?仕方ないなぁ。

まぁでもその後からは本当あんた私のあと、ストーカーかってくらい付きまとってくれたし。

あんただけだよね、私のことカワイイとか好きだとか言うのって。

え?幸村?あれは別よ別。あいつ真田のことも時々カワイイって言うんだもん、信用できない。

あーあ、事務所のみんなも赤也を見習えって話だよね?アハハ


























なーんて。
好きな人から言われたら誰だって、ドキとかまさか…とかっていらない緊張っつか期待しちゃうと思わねぇ?
人間なんて単純な生き物なんだぜぇ、特に俺とか。
電話でにそうやって言われた時、俺、すっごい期待しちゃったんだからな!
しかも13日の夜。
次の日は平日で学校があったけど運良くというかたまたまというか、俺とはお休みを貰ってて。
しかもの家に御呼ばれとかしちゃったりするんだぜ!?
なぁ、これで期待しないやつがいたら俺に教えてくれよ!?
俺はおおいに期待して電話を切った後、布団にもぐりこんだけど自分の鼻息の荒さとドキドキする心臓が五月蝿くて結局眠ったのは5時ごろ。
勿論学校に遅刻したのは言うまでもない。




「おじゃましまーす」
「ほいさ、いらっさい」

そう言って玄関の扉を開けてくれたのは私服姿の
別に私服のを見るのはこれが初めてじゃない、けどドキドキしちまうのはここがの家で二人っきりで。
あと。

玄関とかなんか大理石でできてたりするからかもしんねぇ。

なんだ、この馬鹿みたいに高級そうなセレブマンションは!!
マンションなのにリビングにシャンデリアがぶら下がってるぞ!?え?普通シャンデリアってどの家にでもあるもんなの!?
俺んちが貧乏すぎるだけ!?

「なにポカーンと馬鹿みたいに口あけてんの?」
「いや、お前んちって金持ちだなぁ…と思って」
「そう?あとべーのほうが金持ちっぽいし、真田とかだって実家すごいじゃん」

どうでもよさげに答えたはいまだリビングで突っ立ったままの俺を放っておいてソファにどかっと腰をおろしこれまたどでかいテレビの電源をいれた。
壁いっぱいに広がるテレビにうおっとこれまた驚いて。
さっさと座れば?ゲームやるんでしょ?とに言われてようやく隅っこにちょこんとカバンを置かせてもらってソファの端っこにちょこんと座る。
なんつうか、慣れない。

「飲み物、冷たいのとあったかいの、どっちがいい?」
「あ、コーヒーある?あったらそれくれ」

ココは男らしくコーヒーで勝負!と他の奴が聞いたらハァ?とか言いそうな理由で苦手なコーヒーを頼んだんだけど。
でてきたのは。

「なに、これ…」
「なにって、エスプレッソ。うちのはパパ先生の趣味で豆からいいやつだから味わって飲め」

命令形でが俺に手渡してくれたのはこじんまりとした小さな小さなコーヒーカップ。
俺ってばこんなの見たことねぇんだけど!?とかこれまた驚いて。
いやいや、とにかく男らしさ男らしさとカップに口をつけ一口飲んで。

「………」
「え?なに?まずかった!?」

黙ってしまった俺にが眉をひそめる。
にげぇ…とにかくにげぇ。
普通のブラックよりも苦い。
が、これまた男らしく男らしくと自分に言い聞かせ。

「いや、すんげぇうまいから驚いちまった」

と笑顔で言うとも笑顔で「当たり前でしょー」と返してくれた。
とりあえずエスボレッソとかいうやつの始末はあとでつけるとして、俺とはいそいそとゲームの用意を始める。
にしてもこんな大画面でゲームがやれるなんで夢にも思わなかった。
がやりたいやりたいと言うから俺も昔のゲームを漁りにあさって持ってきたやつがある。

「ほらよ、お前の言ってたKOF」

そう言ってカバンから取り出してそれをに渡してやると

やーん!うれし〜京さまぁ〜!!!庵さん!!!」

心底嬉しそうにそれをセッティングしていく。
問題なのはこういう状態にがなると周りのことが見えなくなるということだ。
案の定は一人で勝手にゲームをスタートし始め、俺のことなんて眼中にない状態。
はぁ、とわかってはいたんだけどやっぱり悲しくなってため息をつくと。

「そうそう、赤也。冷蔵庫にトリュフ入ってるから食べていいよ」

画面から視線を外さずにが口を開く。
サンキューといって立ち上がると俺はこれまたなんかすげぇ冷蔵庫の扉をあけ、中を覗く。
一番目に付くところに小皿にこんもりと盛られたトリュフが置いてあるので、それを取り出す。
ラップのかけてあるそのトリュフはなんというか一つ一つの形がすごくいびつで。
どう見ても。
それは、どう見ても。

!」
「んぁ?なーにぃ?」
「これ、手作り!?手作り!?」

キッチンから身体を乗り出してに尋ねるとはこれまた画面から視線をそらすことなく。

「あーそうそう。一応それバレンタインの。味はうまいと思うから食べるんだったら食べて」

どことなく言い方が適当っぽかったけど、俺はそんなの気にしない!気にするわけない!!
ラップをはずして一つぽいっと口の中に放り込む。
じんわりと冷たいそれは口の中でふんわりと解けていく。

夢にまでみたからのチョコ!
俺って幸せもの!!

しかもどうやらトリュフはこの皿に入ってるだけのようだ。
つまり、これを全部食べちまえばあの五月蝿い事務所の連中にがやるチョコはなくなるってこと!?

!これ全部食っていいのか!?」
「あぁ、いいよ別に。それだけしかないけどさ」

神様ありがとう!俺はすっげぇ嬉しい!!
キリシタンのように胸の前で十字をきると(あ、俺は仏教徒だぜ)幸せをかみ締めながら小皿のトリュフを一つ一つ口にいれていく。





結局俺が食べ終わった後もはゲームから手を離すことはなく。
俺も帰るタイミングをなんとなく逃してしまって、夕飯までいただいていくことになった。
笑顔で画面を見ているを見てると、俺の大好きなゲームをさせてもらえない悔しさがなんとなく薄れていって仕方ねぇなぁなんて思ってしまう。
普段の俺だったらまず考えられないことだ。
相手が幸村ぶちょとかじゃない限り絶対いつもの俺なら相手の手からコントローラー奪い取ってる。
あぁ、俺って本当が好きだなぁってため息一つこぼしてると玄関の方からガチャガチャという鍵をあける音が聞こえてくる。

「なぁ、。誰か来たぞ?」
「うわ、もうこんな時間じゃん!パパ先生だ!」

そういうやいなやコントローラーをぽいっとソファの上に放り投げはバタバタとリビングの扉へ向かう。
けどがその扉に手をかける前にドアが勝手に開いて。

「おかえりなさい!!」
「あぁ、いま帰った。ん?お客さまが来ているのか?」

これまた驚くようなしぶーーーーーい人が現れた。
渋さならうちの真田先輩といい勝負かもしれないけど、こっちの男の人の方が気品がある(真田先輩に気品なんてものは絶対にない)
慌てて立ち上がって「おじゃましてます!」と頭を下げると、男の人は「気楽にしていってくれ」と言い(でもここで笑わないところは真田先輩に似ている)と一言二言喋って一番奥にある部屋に消えていった。
といっても軽い服装になってすぐに部屋から出てきたけど。

「君が切原赤也くんか。から話は聞いている。」
「は、はい!切原赤也です、よろしくお願いします!!」
「私の娘はとんでもないじゃじゃ馬だが、仲良くしてやってくれ」

あぁじゃあこの人がの言ってたパパ先生なんだと、ようやく納得。
いただいた夕食も普段家で食べるようなものじゃなくてこれまた驚き。
しかもそれをのパパ先生が作ったってんだからさらに驚き。
この家、ビックリ箱かなんかか!?ってくらいだ。

でも、俺はこのあともっと驚くことになる。

「えへへ〜はい、これ!」
「ん?なんだ?」

夕食の後、が突然立ち上がって自分の部屋に消えたかと思うとなにやら綺麗にラッピングされた箱を持って現れその箱を笑顔でパパ先生に渡す。
あけてもいいか?と尋ねるパパ先生にが頷くと、俺の目の前でパパ先生はその箱を綺麗に開け始める。

「今年はブラウニーか」
「うん。ちゃんと味は保障するからね!!」
「あぁ、ありがとう。あとでいただこう」
「うん!」

まぁお父さんにチョコをやるのは娘なら誰でもよくあることだ。
そんなことで俺は嫉妬なんかしねぇ、あのブラウニーの方が大きいとかもちょこっと思ったけど口にはださねぇ。
けど。
俺はそうも言ってられなくなる。

「跡部君たちには何かあげたのか?」
「あとべーたちには全部トリュフ。もらえるだけ感謝してくれって話だけどさ!」

へ?

トリュフ?

跡部、たち?

お、俺だけじゃないの?

「もう少ししたら事務所終わるから取りに来るんじゃないかな、みんな」

がそういうとタイミングよくピンポーンと来客を告げるチャイムが響き渡る。
はそのチャイムが聞こえるやいなや、ほらね?とばかりにパパ先生に首をすくめてみせ「はいはいはーい」と言いながらインターフォンに向かった。










とりあえず。

アンハッピーバレンタイン…!!