「あのぉ、跡部さーん!」
「なんだ?」
「久々の任務に浮かれてるのはわかりましたけどぉ、なんでよりもよって」
あーん?聞こえねえぞ、もっとでかい声で喋れ!

視界が霞んで見える、別に私の目が悪くなったとかそんなんじゃない。

なあんでよりにもよって吹雪の中で任務なんじゃー!くっそー!こんな仕事不二にでも押し付けてしまえぇぇぇぇぇぇぇ!!

そう、吹雪のせいで霞んで見えないだけだ。
あと、ついでに耳もそうはっきりとは聞こえない、聞こえてくるのはビュービュー吹きさらす風の音ばかりだ。
今私と跡部は吹雪の中、多分見えやしないけれど大量の怨霊だか妖怪だかに囲まれて突っ立っている。
ちなみに、その不二に押し付けられてここに立っているのだけれどね(いつかアイツをしめてやらねば私に平穏は訪れない!)




「とりあえずぅー、あの大きい岩みたいなところから右側が跡部の担当でー」
「大きい岩ぁ?んなもん、見えねえぞ!」
「はぁ!?いや目の前にあるからさ、んで左側が私の担当!」
「見えねえっつの!視界がもう真っ白なんだぞ!」
不二に言えぇい!もうどうでもいいや、とにかく適当にぱーっとやって適当に終わらせてください、以上!んじゃ、さよーならー!」

微妙に通じ合っていない会話を吹雪の中大声張り上げてやるものの、あまり意味がないことに早々に切り上げてさっさとグローブを両手にはめる。
ちっとも相手の姿が見えないけれど、とにかく自分の勘と気配を信じてやるしかない。
跡部に「お先」と右手を上げたけれど、多分聞こえもしてなければ見えもしないんだろうな。
なんでこんな仕事を押し付けたんだとここにはいない(しかもこの真冬に沖縄の仕事をもぎ取った)不二に呪いの言葉を吹雪で音がかき消されるのをいいことに吐きまくる。
襲い掛かってくる何かの気配をとにかく勘で、避けては拳をその体に叩き込んで、避けては叩き込んでを繰り返していく。
目の前くらいにまで相手が近づいてくると見えるのだけれど、やはりそれ以上の距離をとられると真っ白だ。
こんな中でなるべく雪に足をとられないように立ち振る舞ってる私ってもしかして大晦日の視聴率がっぽり取れるんじゃない!?と一人グフフと笑いながら(どうせ跡部にゃ聞こえないのだ)またやってきた何かに思い切り拳を打ち込む。
ドサドサと落ちていく妖怪たちの亡骸はどうせ後で跡部のお掃除君(名前はイワノフだったか、フランソワーズだったか、そこまでは覚えていないというか覚えていられない)が吸い込んでくれるだろう。
そう思えば後処理のことなんて考えずにいられて楽なものだ、ただ拳をこのグローブごと打ち込んでいけばいいだけなんだから。
しばらくして一匹も自分に近づいてくるものがいなくなったことに気付く。

「あれ、もう終わり?これじゃあ昔キヨちゃんと行った任務の方がきつかったかも・・・まぁ吹雪の中とかってことを考えりゃキツイっちゃあキツイか」

少しだけ穏やかになってきた吹雪に今更だと一つ舌打ちをして、跡部がいるだろう方向に顔を向ける。
そろそろこれくらいの吹雪なら少しはなれたところのものも見えるはずだ、と。
なのに見えるのは散らばった妖怪たちの倒れ付した姿ばかりで跡部の姿は勿論、ジョルジョットやアルベルトたちの姿も見えない。
もしやあのお兄さん、結構離れたところにまで行っちゃったんじゃ・・と不安になり、あの跡部の場合、どこかぬけているからこそありえる話で。
仕方ない、探しに行かなくちゃと一人ごちると足を一歩踏み出した。


―――ズボッ!!


「ずぼ?」

一週間前から積もってる雪だからかなり固まって足が雪の中に沈む事はないだろうと思っていたのに。
どうしてかそこだけ雪が非常にやわらかくなっていて、踏み出した私の足は思い切り雪の中に沈んでしまっている。

「うぅわぁ、ついてない!つか思い切り深みにはまってるじゃん、抜けねえ!」

はまっていない方の足に力をこめて足を抜き取ろうとするもののかなり深いところにまではまってしまっていて(実際膝上くらいまで雪の中だ)変な体勢になっていることでうまく力がはいらない。
こんなときに跡部のやろう、どこに行ったんだー!やっぱり不二が悪い!!と足の周りの雪をさぶいーさぶいーと呟きながら少しずつ掻き分けていく。
ようやく膝の辺りが見えてきてホッと一安心していると、ふと自分になにか影がかぶさったのがわかった。
足の周りの雪かきに夢中になっていて近づいてきた気配に気付けなかったらしい。
それだけじゃない、顔を起こして近づいてきた妖怪の姿を見て私は首をかしげた。
なにかが違う、まるで気配を感じないのだ。

(こいつ、生きてる感じがしない!)

はまったままの足をどうにかして抜こうと必死になって力をこめているのに、ちっとも抜けそうになくて、寧ろ反対の足も少しでも力をこめたらはまってしまいそうな感じで。
目の前で振りかぶった妖怪の手を目の前で見つめながら、瞬時に思い切り口を開く。

やっぱり悪の根源は不二だァ!くそー、死んでも呪い続けてやらぁ!!

自分の首めがけて振り下ろされるだろうその瞬間が当たり前だけれど怖くて、ぎゅっと目を瞑る。
ああ、東京にいるパパ先生。せめて最後にぎゅっとしてほしかった。
ああ、東京のどこかでのんびりしてるだろう越前さん、てめーの息子は最初から最後まで生意気だけど可愛かった(将来欲しかったのに)
ああ、東京の事務所にいるだろうスミレちゃん、せめて私が亡くなったあとは嫌がらせの如く不二に仕事を押し付けてください。
ああ、東京の事務所とか神奈川とかにいるだろう事務所のみんな、不二の嫌がらせの矛先(しかも最大手)が今いなくなります。
あとは自分達でがんばれ!

ああ、沖縄でバカンス中の不二周助さん。
お前の事は死んでも忘れねえよ、畜生!ていうか夢枕にたってやりたいけれど逆に地獄に突き落とされそうな気がするから裕太の夢枕にたってやる!














「おいおい、いくらなんでもそれが遺言ってのは馬鹿すぎだろうがよ。アーン?」

そんな声が聞こえてきたと思ったら、ピシャーンと雷が落ちる音が聞こえてくる。しかもすぐ傍で。
天国について早々俺様の声を聴くなんて 最 悪 !と一人目を瞑ったままでいると、今度はガスンと頭に衝撃が落ちてくる。

「なにすんじゃゴラァ!跡部声の天使なんてくそくらえー!
「俺様が天使のように素晴らしい顔立ちなのはわかるが、くそくらえってのはどういうことだ、アーン?」
「あれ?私生きてる?うっそ?さっきの雷音はもしや」
「俺様だ。しかも俺の発言は無視か?あーん?」
「あージョルジョット!君が助けてくれたのね!なんていいこなんでしょ!!」
「まあこういう展開になるのはわかってたけどな」

ふっと一つ小さくため息をついた跡部は私の脇下に両手をさしこんでぐいっと上に引っ張りあげてくれる。
やっとこさ冷たい雪の中から救出できた私の片足はズボンごとおもいきりぬれてしまっていて、はっきり言うと今すぐ暖かいお湯プリーズな気分だ。

「とりあえずお前はここでじっとしてろ、コイツはどうやら操られてるだけらしいからな。本元をさっきから探していたんだがお前が囮になってくれたお陰で発見できた」
「私のおかげか!よきにはからえ!」
「・・・とりあえず後で不二にも色々言わなくちゃいけねぇことがあるみたいだからな。そのへん、じっくり後で話し合おうな、

お前の弱みは俺様の手の中だぜとばかりにニヤリと笑った跡部はそういうとジョルジョットを連れて大きな一枚岩のほうへと進んでいってしまう。
一人ぽつんねんと雪の中取り残された私は、やっぱり諸悪の根源は不二だと訳もなく雪をかき掘りながら呪詛の言葉を吐き続けた。