女の子のプライドって色々あると思う。
特に男の子には負けたくないものがいっぱいあると思うの。
女の子だからこそ、譲れないもの、誰しも持ってるはず。
だから、譲れないものが男の子に負けたときってすごくショック。
日曜日の夜、事務所の中には既に九時を過ぎているからかほとんど人がいない。
残ってる連中もほとんどみんな仕事終わりで、きっともうすぐ「おさきー」とか言いながら事務所を出て行くんだと思う。
ちなみに私はというと。
「、さっきから何です?ジロジロと」
自分の仕事はとっくに終わっていていつでも家に帰れる状態だというのに、珍しく事務所に残ってたりする。
というのもマイアッシー(ていうと本人は怒るけど)跡部が今スミレちゃんとなにやら話しこんでいて、私の帰る手段がないからなのだ。
かれこれ跡部が所長室に入ってから1時間。
何の話をしているのかはわからないけど、ここまで時間がかかってるってことはよっぽど大事な用件なんだと思う。
仕方ないのでお暇な私は残ってる事務所員たちに話しかけたりお茶をしたりからかったりしながら時間を潰していたのだが、それもみんなが帰ることでできなくなってしまった。
そこで目に付いたのが、遅くまで残業真っ只中の観月サン。
みんなの予定を一週間分たてたり、所員に連絡を取ったりすごく大変そう。
他の所員みたいに邪魔をすると、すごく綺麗な笑顔でもって毒舌はいてくれそうなので絶対に邪魔だけはしない。
その代わり、ゴロゴロと観月サンの後ろのデスクからイスを失敬して邪魔にならなさそうな範囲内の観月さんの斜め後ろ辺りで観月サン観察をはじめる。
お行儀悪いなぁとはわかってるんだけど、イスを逆にして座ってる私はイスの背もたれ部分に自分の顎をおいて斜め後ろという微妙なアングルからボーっと観月サンを見ている。
今の観月サンはパソコンに向き合って何かずっと打ち込んでいる。
―――カタカタカタカタカタ…
キーボードを打つ音が静かな執務室の中に響いている。
ふと気付けば執務室の中には私と観月サンしかいなくて、どうやら残ってたほんのわずかな所員もみんな帰ってしまったらしい。
―――カタカタカタカタカタ…
忙しい観月サンの邪魔にならないようにと思って静かに斜め後ろから見てただけだったんだけど、どうやら観月サンには私がずーっと見てたことに気付いていたみたいで。
でもキーボードを打つ手は休めずに小さなため息とともに観月さんが口を開いた。
「んー…観月サン観察のつもりなんだけど…」
もうすぐ夏、気温も日に日に高くなってきている。
特にここ東京では五月半ばだというのに30度近くまで気温があがってきていて、これで今から梅雨シーズンなんだと思うとげっそりくる。
今日も特に気温が高くてふと温度計を見ると26度にまであがっていた。
クーラーなんてものをうけるには早すぎて結局みんな自分の服で気温調整している感じ。
かくいう観月サンも今日は羽織っていたブラウスの下にノースリーブのタンクトップに近い服を着ている。
北国育ちの観月サンには今日でも十分暑かったらしく、室内だから日焼けもしないとばかりにブラウスを脱いで二の腕をさらけだしている。
「つもりだけど、なんです?」
くるくるとちょっと巻きすぎかなって思えるほどの巻き毛にノースリーブの黒色は凄く映えている。
でもそれ以上にその黒色が引き立たせているものはきっと、観月サンの白い肌だ。
北国の人は肌が白い。
本当そのとおりだよなぁって納得できるくらいの白さ、まるで北国の象徴、雪みたい。
「んー…なんつうか…」
顔を動かすことなく目だけ動かして自分の二の腕を見つめる。
そこまで日焼けするタイプではないけど、やっぱり少しずつは焼けてるのだろうか、目の前に広がる白とは比べ物にならないくらい小麦色。
これでも結構白い方なんだけどなぁ、って自分の学校の友達の肌を思い浮かべながら自分の腕をじーっと見つめる。
「なんですか?ハッキリ言ってごらんなさい」
ようは観月サンのその白い肌が羨ましいってことなのだろうか。
でも彼本人もすごく夏場は気にしてるみたいで(あれは赤くなるのが嫌だからだって赤澤さん言ってたっけ)外にいるときは絶対に長袖の服を着ている。
う〜ん、でも気遣っての白さじゃないんだと思う、やっぱりこの白さは観月サン本来の白さなんだろう。
うん、やっぱり羨ましいんだ私。
なによ、なによ。
男の人のくせに、その肌と私の肌、交換して欲しい。
私だって、綺麗な白い肌さらけ出してみたい。
「怒んない?」
「えぇ、怒りません。気になるから早く言っておしまいなさい」
相変わらずキーボードを叩く音。
目の前には観月サンの後姿。
黒いノースリーブからのぞいているのはなにも二の腕だけじゃない。
「あのね、その真っ白い首に噛み付きたくなっちゃった」
なにも首にそそられるのは男の子だけじゃないんだから!