「リングの装飾が文字だと気付くものはそういない。恐らく越前氏でもぱっと見ただけではあれが文字だとは気付かない」

カチリ、カチリと壁に掛かっている大きな時計の針が動く音が静かな部屋の中に響く。
榊先生の声はそう大きくもなく、自分の声もそう大きくない。
このマンションの建つ場所も非常に静かな場所で時間帯も時間帯だから物音一つ外からは聞こえてこない。

「やはり、あれは文字なのですか?俺はいまだに文字だとはとても思えないのですが・・・」
「いや、それが普通の反応だ。あれを文字だと気付いた人間がいるのならばそれこそ問題なのだ」
「文字だと気付くことが問題?一体どういうことですか、先生。いやそれよりも、ならの奴は一体なんだって」

榊先生の話に頭がぐらぐらと揺れる。
理解はできる、意味はわかる、先生の話すこと、その内容に。
けれど本質がわからない、文字だと気付く事そのものが問題なのか、それとも人間には本来わからなくて当たり前の代物なのか。
そして、との関係。
何故彼女がそんな曰くつきといっていいほどのリングを所持しているのか、いやあのリングは榊先生から手渡されたとアイツは言っていなかったか。
ならば何故榊先生がそんなものを持っているのか。
入手経路は?なぜ先生はあの装飾が文字だと知っている?あの文字は一体どこの文字なのか?








そもそも何て書いてあるんだ?








6月5日 0:00 Start of the DAY























へらへらといつも笑っている、能天気に。
どんなことがあっても、どんなことを言われても、ただ笑っているだけ。
決して怒らない、腹を立てようとしない。
理不尽だと思わないの、悔しいと思わないの、悲しいと思わないの。
なんでそんなに馬鹿みたいに笑っていられるの。

いつからかあの笑った顔を見ているのが嫌になった、いや、いつからかなんてものじゃない。
あいつに会った日、初めてあいつを見た日からだ。
誰もがお互いに壁を作りあってギスギスとした雰囲気が流れていたあの事務所で初めて出会った日からだ。

あの冷たい雰囲気が心地よかった。
誰からも干渉されず、誰からも注目されず、ただ自分ひとりの空間さえあればそれでよかった。
自分だけじゃない、あいつ以外の誰もが最初はそうだった。
だから本当に心地がよかった。

それが気付けば、あいつがいつのまにか中心にいてあいつがいつのまにか皆の壁をぶち壊して。
自分が心地よいと思っていた空間が自分にとって心地悪いものに変わってしまった。

別に自分が一番でなくちゃいやだとか負けたくないとか、そんな馬鹿みたいな勝負心というかプライドは持ち合わせていない。
けれど妙にあいつが気に食わない、理由なんてしるものか。
知りたくもない。


へらへらと (誰にでも) 笑いかけるあいつも そんなあいつに皆が (心のこもった) 笑みを返すことも。


気に喰わない、気に喰わない。

ボクに干渉しないで欲しい (もっと干渉できるやつらがいるだろう)
ボクに話しかけないで欲しい (もっと話しかけやすいやつらがいるだろう)
ボクを心配しないで欲しい (それこそ自分を心配すればいい)

お前のことなんてボクは何一つ知らないよ、知りたいとも思わない。
ただボクに近寄らないでほしい、ボクに踏み込まないで欲しい。






ああ、気に喰わない。









   ふ  じ  










それでもボクに笑いかけるあいつが気に食わなくて
そして壊したくなる。