ブンッという風をきる音と同時に私と不二の立っていた場所に衝撃が走る。
「ひ、ひえぇぇぇぇ…っ!!」
「うわぁ、すごいねぇ…」
「すごいねぇじゃなーいっ!床を見てみなさい!ぶっこわれっちゃってるじゃないの!」
暢気に感心している不二に阿呆か!とどなりたくなるのを抑え(似た様な事は口走ったけど)奴の顔を先ほどまで立っていた場所に向けさせる。
廊下と思われし場所はいまや鬼の腕が思いっきり破壊してくれたおかげで、一種の台風で流されてしまった橋状態である。
「ちょっとちょっとちょっと!これはさすがにマズイでしょ!」
「あぁそういや目立たないようにやってくれって言ってたっけ?」
「言ってたの!第一目立つとかの問題じゃなーーーーーーい!」
焦点の定まっていない鬼の目が騒いでいる不二と私の方に向く。
うわぁ!またこっち来るじゃないの!
「不二〜庭に出てこられたら外にまでばれる!!」
「あーもう、しょうがないなぁ〜」
鬼の体全体がこちらに向けられる。
ついでに殺気のようなものも。
相変わらず鬼の口からは「返せ」とだけ。
ぐっと鬼が足に力をいれたのがわかる。
こっち、飛んでくるよ!?とのけぞった瞬間周りの空間がぐんにゃりと歪み始める。
「あら?あれ?あれあれあれ?」
周りの空間だけでなく立っている場所も、そして鬼ですらもぐんにゃりと…
咄嗟の事で思わず目を瞑ってしまった。
もう大丈夫かなと、片目をそうっと開ける。
「って、ここはどこじゃーーーーーーーー!!!」
目を開けるとそこは雪国だった。
んな訳なくて、目を開けるとうっそうと低木やら岩が生えたり転がっている場所でした。
「こ、ここは所謂サバンナと呼ばれる場所じゃあ…」
「ピンポーン!もその辺は知ってるんだね」
「知ってるんだね、ってなんでこんな所に…ってお前かーーーーー!!」
笑顔でニコニコと、しかもいつの間にやら自分専用の椅子まで用意して私の後ろで座っている不二に思いっきり指をさす。
「目立たないようにって言うから絶対に目立たない場所に連れてきてあげたよ」
「あぁそりゃ目立たないでしょうよ!でもココ日本じゃないもの!アフリカじゃないの!目立つ目立たない云々の前に不法侵入だっつの!!」
お馬鹿ーー!と半分泣きそうになりながら不二の両肩をつかむ。
ありえない!ありえないから!
ビザ取ってないでしょ!つかパスポートも持ってない!その前に予防接種してないわよ!
「色々考える事があるみたいだけど、あちらさんは待ってくれないみたいだよ?」
「へ?」
不二が指差す方に顔を向ける。
と、目の前に突然こちらに向かってくる鬼の拳が目に入る。
「ウッギャーーーー!!」
叫ばずにはいられるか!とばかりに思い切り叫んでゴロンゴロンと横に転がる。
助かった〜とばかりにふぅと溜息をつくけれど、さっきまで私の後ろには椅子に座った不二がいたのだという事を思い出しグルンと顔を向ける。
「ふ、不二っ!!」
叫んだ私の目の前では優雅に椅子に座っている不二と、そして拳を突き出している鬼。
その間に淡い銀色の髪をなびかせて立つ青年。
不二の前に立つ青年はたった一本の指で鬼の拳を止めている。
「こいつ、殺すか?」
「あぁ、ありがとう、セーレ。でも殺さなくていいよ」
「そうか、つまらんな」
鬼の拳を指一本で止めたままセーレと呼ばれた青年はふぅと溜息をつく。
なんなんだ!?と一人混乱する私をよそに(というかコレだったら私ってば最初からいらないんじゃと思ったり)不二とセーレの二人は会話を続ける。
というかセーレさん、いるんだったらさっさとやってくれていいのに…
「この空間に移動しても鬼の正気は戻らないみたいだね」
「誰の空間移動術だ?」
「さっきはオレイだった」
「オレイか…一応あいつも30の軍団を率いる大公爵だぞ…」
「そう、オレイにも気付かせずそれでいて尚まだ正気にならない」
「それ以上の存在…四大実力者クラスか……」
その間鬼は止められていないほうの腕を振り上げ、再び二人に向かって拳を下ろす。
「、鬼を正気に戻す!」
「ほい、きた!」
下ろされたもう片方の拳もセーレと呼ばれた青年は難なく受け止める。
その間に私はというと腰にぶらさがっているポーチに手をつっこみたくさんある球体のうちの一つを掴みだし、それをグローブの甲の部分に差し込む。
「無の球」
黒だったグローブが私がそういうことで淡い水色のような光を放つ。
「うっし、いくぞ!」
ぐっと拳を握り締め、足を踏み出す。
思い切りスピードをあげて無防備になっている鬼の背に向かって走り出す。
「正気に戻す方法イチぃ!」
ぐっと膝をまげ、右足にかかる全ての重さをばねに思い切り地を蹴る。
「脊髄第三関節に手を押し当て」
水色の光が私の振りかざした手に段々と集約されていく。
落下する際、光るその手を鬼の脊髄第三関節付近に触れさせ
「おもいっきりぶっ放ぁーーす!!」
ドン!!という音ともに鬼の背中が大きくのけぞるのが目に入った。