世の中は 棚の達磨に さも似たり 起きては転び 転びては起き
俗に言う七転び八起きではなく七転び七起きに近い道歌だ。
人生、七転び八起きよりも明らかに後者のほうが多いに決まっている。
うまくいかないのが人生、うまくいってる人なんてきっと数少ないはずだ。
かくいう私も七転び七起き派で八回も起き上がれるかい!ってのが正直な感想。
それも今年にはいってからの私は嫌な意味合いでスゴイ。
これも某身体の体格と名前が正反対の有名な占い師(という名の説教バアサン)によれば私は今年から大殺界だからだそうなのだが、占いなんてと過去の私なら信じないだろうに今では先生サマサマとばかりに信じている。
不運続き、この一言に尽きる。
大学の単位の組み込みがうまくいかなくて留年決定、おかげで両親からはこっぴどく怒られる、バイト先の店長にセクハラされる、ペットの猫が逃げ出して行方不明、友達と大喧嘩していまだに仲直りできず・・・えとせとらえとせとら。
ネチネチネチネチと不運が私に迫っている、お金がないなんてのは過去現在未来きっと全て通して当てはまるだろうから気にはしないけれどそれ以外の不運だけは胸にこたえた。
「だからこれもきっと大殺界のせいなんだわ、ブラボー大殺界」
朝起きてベッドからいつものようにおりようとして足をのばしたところで、なぜかわからないが地面に足が届かず思い切り頭から床に落ちた。
しこたまに打った頭はじんじんと、いやヒリヒリと、とにかく痛みを訴えてくる。
手で打った箇所をさすろうと変な体勢のまま自分の頭に手を伸ばしたのだけれどこれまたなんだか違和感。
いや、そもそも足が着かないとかいつのまに自分のベッドは巨人サイズになったというのか。
首だけ後ろに向けばやはり普段見慣れてるベッドよりも2倍くらいは大きく感じるマイベッド。
おかしい、眉根をよせたところでふと目の前にあった箪笥備え付けの鏡におかしなものが映っているのに気付く。
ベッドの前に座り込む幼子。
なにやら懐かしいキャラクターがプリントされているパジャマを着て呆然と鏡をみつめている小さな女の子。
どこかで見たことのある女の子だなとまだはっきりしない頭で考えながら、ひりひりと痛みを訴えてくる箇所に手をのばして今度こそハタと目が覚めた。
鏡に映る女の子も私と同じように手を頭にのばして私がさすっている場所と同じ箇所を鏡の中の女の子もさすっている。
「ひっ・・・」
嘘でしょ、とかありえない、とかそんなこと考える暇もなく。
「ひえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
私は大声をはりあげた。
鏡の中の女の子が懐かしいのは当たり前だ、たまに自分でも見ていたアルバムの中の写真によく写っていた女の子、過去の私だ。
「ど、どうしたの、ちゃん!?」
口をパクパクと鯉・・・というほどの人間じゃあないからせいぜいフナのように開閉しながら突然開かれた扉にビクリと身体をすくませる。
イヤオマエハダレダ。
扉を豪快に開け放ち現れた女性を見ての感想はただそれにつきた。
なんだかバブルを感じるような、一昔だか二昔だかのアイドルを感じさせる髪形をした若い女性。
どんなに頭の中の引き出しを捜してもそんな女性、知り合いにはいない。
まして自分のことをちゃんと下の名前で呼ぶ人自体がほとんどいないのだ。
「怖い夢でも見た?それとも、ああ、またベッドから落ちたの?本当に、誰に似たのか寝相が悪いんだから」
なんだか勝手に自己完結して私の前にしゃがみこんだ見知らぬ女性は一つこれみよがしにため息をつくと、いまだに床に座り込んでというよりもへたりこんでいる私の身体を脇の下に両腕を差し込むことで軽々と抱き上げた。
俗に言う、抱っこ。
いったい何年ぶりだろうか、こんなことをされるのは。
思わず
「ひょえええええぇぇぇぇぇぇ」
再び変な叫び声をあげちゃったとしても仕方ないってなもんだ。
アナタハダレデスカ、ココワタシノヘヤヨネ、ナンデワタシガチイサイノ、えとせとらえとせとら。
聞きたいことは山ほどあるのに、山ほどあればあるほど口がうまくまわってくれない。
「どうしちゃったの、朝からおかしな声をあげて。ほら、もう起きるならお着替えしましょう?」
そういって見知らぬ女性は私のパジャマに手をのばしてきたのだけれど、思わずその手を叩き落してしまう。
貞操の危機、なのかどうかはさておき、服を人に着替えさせてもらうとか抱っこ同様昔のことすぎてありえない。
手を叩かれた女性はというとアラとばかりに私と視線を合わせると
「ちゃん、自分でお着替えするの?」
なんだか見当違いなことを尋ねられる。
まさか貞操の危機だと思ったのでと答えられるはずもなく、いや、それ以前にいまだ現状の展開についていけず頭の中がこんがらがってるのだけど、首を縦に思い切り何回もふることでとりあえず流してしまえということにしてしまう。
「あら、偉いわ!ちゃんも大人になろうとしてるのかしらぁ、てっきり寂しいってごねるものだと思っていたのに・・・子供って不思議ね」
私には貴方が不思議よ。
そう言ってやりたいのはやまやま、ぷちぷちと小さくなってしまってぷにぷにとしている自分の手でパジャマのボタンをはずしていく。
いや、ちょっとまて私、どうしてこうも素直に流されているんだ!と思いはするものの、これもきっとあの占い師という名の説教バアサンの試練に違いない。
もしくは夢なのだ。
「ちゃんはさておき、ママは寂しいわ。やっぱり博士くんにあずかってもらうのはやめて一緒にアラスカに連れて行こうかしら・・・」
なにがなんだかわからない。
寂しそうにテキパキと着替えていく私を見つめている女性はそう呟くと、どうやら寝癖ではねまくっているらしい私の頭を優しく撫でてくれながらこくりと首をかしげた。
「ねえちゃん、寒いのは好き?博士くんみたいな一人ヤモメのところなんかじゃなくてママとパパと一緒にアラスカに行かない?」
チョットマテ。
どこからつっこめばいいのかわからないけれど、とりあえず見たこともない目の前の人は自分のママだというのか、アリエナイ。
寒いのは好きだよと答えたらアラスカに連れて行かれるのだろうか、アリエナイ。
いやいや、だから私のお母さんは貴方みたいな昔のアイドルみたいな人間じゃなくて中年太りまっさかりの肝っ玉母ちゃんで・・・・
「大殺界ブラボー!!」
全てがありえない。