目の前で博士おじちゃんと小さくなった新一が言い争いをかれこれ10分以上している。
お題は『果たして人間が小さくなんかなるものかどうか』なのだが、いくら新一が自分は工藤新一だと言い張ってもおじちゃんは信じようとしない。
漫画のようにおじちゃん相手に推理でもかましてしまえばイチコロに違いないのだろうけども、なにせ私というイレギュラーな存在がいることで話が微妙に変わってきてしまっている。
新一がおじちゃん自身のことを恥ずかしい事までこと細かく話せば『さてはわしのストォカァじゃな』と言い張る始末。
こりゃ駄目だと二人の間に入るつもりで声をかけようとしたのだけど、それよりも早くものすごく困り顔をした新一が私のほうにクルリと顔を向けてきて。

はオレが新一だって信じてくれるよな!?な!?」

どさくさにまぎれてついでに抱きついてくるのはどうにかしてくれないだろうか、この中身高校生。
後ろでおじちゃんが「その手の顔はみんなくんにセクハラしかできんのかぁ」とかなんとか騒いでいるけれど、その手の顔も何も本人そのものなんだからどうしようもない。
尚もしがみついたまま「な!?な!?」と確認をとってくる新一に溜息しか出てこない。
おかしい、こういうシーンって普通もっとしんみりしたり切羽詰ってたりするものじゃないのかしら。

「あーうん、小さくなってるけど新一なんだよね?」

確認の意味も込めて人の体に抱きついたままの新一に問えば、あろうことかやつはブルブルとなにやら痙攣を起こしだした。
愛だこれこそ愛だとかわけのわからない独り言が聞こえてくるけど無視だ、無視。
私が素直に小さい少年のことを新一だと認めたのが納得いかないのかおじちゃんが眉をひそめて私の名前を呼んだ。

くん、人間が薬で小さくなるなんてありえん話じゃあ。確かにこの坊主は昔の新一そっくりじゃがそれだけで新一だと決めるのは早合点すぎやせんかのう?」
「まあ、普通はそう思うのが当たり前だとは思うのよ、おじちゃん。けどね」

まあ見ててよと言って、いまだ人の腹のところで愛って素敵とか言ってる新一の体をベリリと剥がし質問を投げかけた。

「ねえ、今から尋ねることに素直に答えてね。真面目に答えるのよ?質問その一、貴方の幼馴染の名前は?」
オンリー
「蘭はどこにいったのよ、毛利蘭は」
「蘭は幼馴染じゃねえ、アイツはオレの生涯のライバルで天敵だ!!恐ろしいヤツなんだ・・・」
「ふぬぅぅ、新一と同じことを言っとるのう・・・じゃがこれだけじゃのぅ」

胸を張って答える小さな少年の姿におじちゃんが唸り声をあげるが、まだ納得いかないらしい。
そりゃそうだ、科学者としてそんな人を小さくする薬なんて認められるわけがない。
かくいう私もいまだに目の前のチビッコが新一だとは信じられないのだ、ただ単に知っているだけというだけで。

「じゃあ質問その二、小学四年の時に私と蘭があげた誕生日プレゼントは覚えてる?」
「たりめーだ、オレに内緒でお前ら二人が沖縄に行った先で買ってきたメンソーレキーホルダー」
「・・・・・・・まだ根にもってんの?新一に黙って行ったこと」
「あと、蘭からの右フック
「おお、そうじゃったそうじゃった。あまりに新一がオレだけのけ者扱いだなんだとごねて、キレた蘭くんが殴り飛ばしたんじゃったな」

誤解のないように言っておくと、別に蘭と二人っきりというわけじゃあない。
もともとは蘭たち毛利一家の家族旅行に私がお邪魔しただけで、新一だって一緒に行く予定だったのだ。
おたふく風邪にさえかからなければ。

「どう?おじちゃん、新一だっていう証拠になるかしら」
「んん〜、あともう一押しといったところかのう。こうもっと決定的な証拠のようなそんなものが欲しいのう」
「意外と我が侭ね、おじちゃん。ま、いいわ。じゃあこれで最後の質問にしましょ?」

私の言葉にゴクリとおじちゃんと新一の喉がなる。
なんでそんなに二人して緊張しているのか、私にはさっぱり理解できないけれど。

「君の将来の夢は?」

その質問におじちゃんはちょっと期待はずれでもしたのか間の抜けた顔を私にさらしている。
それとは逆に何故か頬をそめてウズウズしている新一はというと微妙に体をくねらせながらやに下がった顔を私に向けて

お婿さん

しっかりと答えた。
しかも自分の回答に恥ずかしくなったのかあいも変わらず間の抜けた顔をしているおじちゃんの足をバシバシと両手で叩きだす始末。
小学生のやに下がった顔なんて見るも無残なものではあるけれど、ぶっちゃけいつものことだ。
ここに蘭がいれば天誅!とばかりに右上段蹴りが決まっているはずだ。
バシバシおじちゃんの足を叩いていた新一はしかし突然真顔になると

「その為にはあの小姑のような蘭をどうにかしないと・・・ブツブツブツ」

しょうもない『蘭排除計画』を宣言し緻密な計画をたてはじめる。
こんなことは今までも何度かあったけれど新一の頭脳による計画はいつも初っ端で蘭の体を張った妨害によって木っ端微塵になっている。
どうせ今回の計画も似たような末路を辿るに違いない。
しかしこのお馬鹿極まりない将来の夢は博士おじちゃんにしっかりとこのマセ餓鬼が工藤新一であると認識させるのに充分だったようで、口元に手をあて考え込んでいる少年の頭をしらけた目で見つめている。
おじちゃんのこのしらけた目こそ普段の新一に見せる博士おじちゃんの目そのもので、ああようやく納得したかと私が何故かほっとしてしまう。

「・・・信じられん話じゃがこの坊主が新一であることは確かなようじゃ。じゃが・・・」
「ん?」
「一体どうするつもりじゃ、くん。聞けば拳銃密輸がどうのこうのとか未完成な薬がどうのこうのとか、わしらではどうにかしようにもどうにもできん話で・・・第一こんな話誰にも言えんぞ、わしらは既に巻き込まれてしまったが危険極まりない話じゃないか」

確かに危険極まりないだろう、なんせ平気でビルを爆破するような世界的組織が相手なのだ(その割には拠点が日本に多いわ構成員も日本人が多いわ不思議なことも多いのだけど)
実際漫画でこの先蘭のお父さんが勘違いで狙われた事もあったはずだ。
けれどなんというか14年前、何の因果か私が親元を離れて博士おじちゃんの家に預けられたこととか工藤一家と出会ったこととか毛利一家とも出会ったこととか今更なしにすることはできなくて、顔も思い出せないけど眉毛は異様に細かったあの占い師のバアサンに言われた大殺界なんて不吉極まりない言葉は今の今まで付き纏ってるに違いないとしか思えず。

ようはこれもこの先のなにもかもが最初から仕組まれて・・・はいないだろうけど、自分の運命に組み込まれていたことのようにすら思えて仕方がないのだ。
新一を助けるなんてことは出来やしないけど危ないことから少しは守ってあげることはできるんじゃないかしらと、14年間隣にいて考えてきたのだ。

「ここに新一を一人で置いとくわけにもいかないし、私、新一を連れて行こうかと思ってるの」

蘭の家にいれば確かに情報は入ってくるだろうしこの先出会う人も広がっていくに違いない。
でもそれはもう少し落ち着いてからでも構わないんじゃないかとも思っている、今はおじちゃんと私と一緒に過ごして工藤のおじさんたちにも話をして、先のことを少し考えてからでも遅くはないと思うのだ。
蘭の家に居候するのは。

「いやいやいやいや、くん、それはいかん!新一を我が家に連れ込むのはいかん!!」
「へ?」

まさかおじちゃんに真っ向から反対されるとは思わず情けない声が口から出てしまったけれど、私の肩に両手を置いて必死の形相でなにやら訴えてくるおじちゃんに文句を言うことなんてできなくてただ何故と理由だけを尋ねるに留まってしまう。

「何故じゃとう!?くん、わしは君の父親として新一を家に連れ込むことは断じて許せん!!」
「は?いや、だからなんで・・・」
「新一じゃぞう!くん!!新一なんじゃあ!!















日に日に下着が減っていってもわしゃあ知らんぞぅ!!!