帝丹高校に入学してから、オレ工藤新一をはじめとする幼馴染三人組の放課後の過ごし方が中学生だった頃と比べて何か変わったかというと、ほとんど変わっていないというのが答え。
幼馴染の一人、毛利蘭はもうこれ以上強くなっておまえは何を目指してるんだと尋ねたくなるくらい部活の空手にいそしんでいるし、もう一人の幼馴染も中学の頃と変わらず蘭の部活が終わるまで教室か図書館で時間をつぶしている。
そしてオレはというと、サッカー部の助っ人を頼まれれば運動場に向かう日もあるし、なければないでたいてい図書館で時間をつぶして蘭を待っているを待っている。
決してオレは蘭を待っているわけじゃない、蘭の部活が終わるのを待っているを待っているのだ。
じゃあ中学の頃と何が変わったかというと、待ち時間の過ごし方といったところか。
高校生になってからできた女友達とが喋っていることが多いからか、待ち時間をと一緒に過ごせなくなったのだ。
園子のやつには『束縛する男は嫌われんのよ』と言われ、蘭からは『にもだけの時間があるんだから』と諭され仕方なく一人で過ごしているわけだ。
その日も蘭の部活が終わるのを待つを待っていたオレは中庭で思う存分新作の推理小説を読んでいて、ふと時計に視線を落とすと蘭の部活がそろそろ終わるころだと気付いた。
見上げれば空は薄暗くなりつつあって、さすがにこれ以上暗い所で本は読めないしなとのいる教室へと足を進めた。
確か今日は園子が部活がないとかで教室を出て行くときから相手にキャンキャン声で騒いでいたような・・・
今もきっと一人やかましく騒いでいるに違いない。
今日の晩御飯はなんだろうか、まぁの飯はなんだってうまいんだけどな!とズボンのポケットに両手をつっこんで教室のある二階にようやくさしかかったところで
「うっそ、ちょっとそれホント!?」
やはりというか園子のキャンキャン声が耳にはいってくる。
幼稚園から腐れ縁でずっと一緒にいるが、園子の園子たるところはあの口煩さにあるといっても過言じゃない。
まったくあいつの声は響く、とにかく響く。
オレが今歩いているところは園子たちのいる教室から三つ間に教室を挟んでいるのだ。
(あーうっせぇ、うっせぇ・・・に園子のしゃべり方が移ったらどうしてくれんだ)
歩くスピードを少し早め二人のいる教室に足早に駆け寄っていったその時
「、アメリカに行っちゃうの!?」
聞き逃せない一言が聞こえてきた。
、アメリカ、、アメリカ、、アメリカ・・・・・
ぐるぐるぐるぐるとオレの天才的な頭の中を二単語が駆け巡る。
、アメリカ、、アメリカ・・・・
(なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!)
脇に抱えてた新作の本が落ちたことすら気付かずオレは園子たちのいる教室へ駆け寄る。
帝丹高校にはいってまだ3カ月だ、蘭の邪魔が年々グレードアップしていてオレの夢にはまだ程遠いというのに。
ついロスに向かうときに事件を解決してしまったがために事件によく巻き込まれるようになってとの時間がとれなくなってきたというのに。
(がアメリカに行ってしまう!?)
冗談じゃないとばかりに力んだ腕で教室のドアを開けようとしたところで園子より小さいの声が耳に入ってくる。
よくよく耳をすませておかないと聞こえないほどだ。
ノブにかかっていた手をそのままにオレは周りに人がいるかどうかなんて気にすることなく、しゃがみ込んでドアに耳をピタリとつける。
こうすればの声もしっかり聞こえてくる。
「どうしてもって言われて・・・本当はいやなんだけどね」
「そりゃそうだ!アメリカなんて遠いじゃない!」
園子の言うとおりだ。
日付変更線を越えないとアメリカに到着しないんだぞ、ちょっとそこまでとかの距離じゃないんだぞ。
もっと言ってやれ、園子!
「うん・・・わかってるんだけどね・・・」
「もう断れないのね?」
「うん、そうなんだ・・・」
諦めるのが早すぎるぞ、園子!
これが蘭だったら・・・・蘭だったら・・・
「それで、アメリカのどこに行くことになったの?」
「ん、シカゴ。アメリカの真ん中だよ・・・」
「シ、シカゴ!!キャサリン・ゼタ=ジョーンズの町・・っ!」
蘭だったら・・・・・・・ん?
そこでオレは一つの可能性に気がついた。
いくら大好きな蘭といえどアメリカについていくことはできない、国内だったらまだ可能性はあったけれどさすがに国外は蘭のアクティブさがあっても不可能だ。
つまりはアメリカ、蘭は日本、二人は離ればなれ。
そしてオレはというと
(シカゴに転校しねぇと!!!)
なにがなんでもについていく。
もしや、これはオレの夢への第一歩じゃあないのか!?そうだ、誰かそうだといってくれ!
「それでいつシカゴに出発するの?すぐじゃないんでしょ?」
「うん、二ヶ月後の予定なの。まだ突然過ぎてなにも用意してないから・・・」
のどこか寂しそうな落ち込んだ声がドア越しに聞こえてくる。
いつもであればが落ち込んでいればすぐにでも飛んで行ってやるところだが、今のオレにはそんな余裕はない。
「ふ・・・ふっふ・・・ふふふククク・・・」
笑いが止まらない。
蘭in日本、そして&オレinシカゴ。
(蘭、わりぃな。オレはオレの夢のために旅立つぜ!!)
ぐっとこぶしを握りしめ、これから何をすべきか頭をフル回転させ計画を練っていく。
♪〜〜♪♪〜♪〜
園子と机をはさんでおしゃべりをしていたら、机の上に置いていた携帯が着信を告げた。
蘭の部活でも終わったかなと壁にかかっている時計を確認しつつ携帯を操作するとメールの送信相手が蘭じゃないことに驚いた。
「あれ・・・なんで新一・・・」
「新一君からメール?あいつ、と蘭を待ってるんじゃなかったの?」
「うん、そうなんだけど」
急に用事を思い出したから先に帰る。でも晩御飯は食べるからオレのも用意しておいれくれ。
「だって」
「かーっ、おまえは亭主かっつの。毎日毎日のご飯食べて、うらやましいっつの」
「私より蘭のご飯のほうがおいしいじゃん。うちはメタボがいるからどうしてもカロリーオフな食事になっちゃうしね」
あーメタボね、メタボ。
園子が肘をついた手の上に顎を乗せて面倒くさそうにつぶやいた。
にしても、急に用事ってなんだろう。
事件に呼ばれたってことならそう書くだろうし、朝の時点では何も言ってなかったんだけどなぁ。
「んまぁ、新一君がいないってことなら」
「ことなら?」
「蘭と三人でお茶でもしてからかえろっか!新しいカフェが駅の反対側にできたんだけど、これがまたおいしそうなケーキをねぇ・・」
園子がニコニコと笑いながら口もとのよだれをぬぐう仕草をする。
それにプッとばかりに笑って賛成だと言えば、園子はそうこなくっちゃと言って蘭にメールをうちはじめる。
ピポパと女子高生のうつメールの速さは尋常じゃない、私も二回目の高校生活を送ってるけど気分はおばちゃんなものだからつい羨ましさが表に出てしまう。
「にしてもさぁ」
「ん?」
「、シカゴに行っちゃったらおじさんとおばさん寂しがるんじゃない?だってってあれでしょ」
「?」
「怪我してるとこをおじさんが発見して助けたばっかりに懐いちゃって家の近所に棲みかを移したグリズリーでしょ?娘の名前をつけるくらいにおじさんとおばさんもそのグリズリーのこと可愛がってたじゃない」
あ、母さん?オレ、オレだけど。え、オレオレ詐欺?違うっつの、新一だっつの。ロスでもオレオレ詐欺がはやってんのかよ・・・はやってない?当たり前だろ。それがはやってんのは日本だっつの。あーうん、急にどうしたって、うん、その、な。いや、オレ一大決心したんだけど。
は?オレの人生にかかわることだって。実はさ、シカゴの高校に通いたいんだ。あ?冗談じゃねぇよ!本気、くそまじめに言ってるから!なんでって、これ聞いたら母さんだって諸手あげて協力する気になるぜ?実はさ、が・・・あーうん、煩いからもうちょっと小さい声でしゃべれって。
そのが、シカゴに転校することになったみたいでさ。ウソじゃねぇよ、オレだって今日はじめて聞いたんだ!驚いてるよ!!驚かねぇはずが・・・そうだよ、わかってるじゃん、母さん!
だからシカゴで良い高校と家、探しといてよ。サンキュー!あ、高校のパンフとか送ってくれよ、物件のもな。ん?私が届ける!?いや、来なくていいよ!来なくていいからシカゴ調べてくれよ!なぁ、聞いてる!?なあって・・・ちくしょう!きりやがった!!!