カラーンカラーンカラーン

「おめでとうございますっ!特賞、ペアでご招待、東京ネズミーランドビルトンホテル一泊二日大当たりぃ〜〜」
「へ…あ、あたし?」
「おめでとうございまぁす!!」

その日遠山和葉は地元の商店街の抽選会で特賞をあててしまった。
やんややんやと商店街のおばちゃんやらおっちゃんやらにおめでとうと囃したてられ、何やら書類を書かされて、開放された時には手にはスケジュール表。
あまりの展開の速さに自分も大阪人であるにも関わらず何やら出遅れてしまい、気付いた時には書類の入った封筒を持って何故か平次の家。
あかん、なんであたし自分ちやなくて平次の家におんねんと自分につっこみをいれるも少し遅く、その書類はしっかり平次の手に渡った。

「ほぉ〜ネズミーランド…しかもビルトンホテルかいな」
「言っとくけど別に平次と行くんちゃうで、蘭ちゃんとちゃんと行くんやから!勘違いせんといてや!!」
「ハァ?じゃあなにしにうちにきとんねん、おまえ」
「え、自慢?うらやましいやろぉヘッヘーって感じ?」

売り言葉に買い言葉。
図星ではないけれど和葉にしてみればペアなんだからもう一人は平次にやろうと思ってはいたのだが、そこはそこあれはあれ。
しっかり話はこじれてビルトンホテルに泊まってネズミーランドで遊ぶのは平次以外の人間になってしまった。
まぁ蘭ちゃんもちゃんも一緒におって楽しいからええかとすぐに考え直したけれど。
ただ和葉はきちんと気持ちの切り替えができても、そうはいかないのが一匹、もとい一人。
服部平次、幼馴染が自分を差し置いてビルトンホテルなんぞにお泊まりなんて何かが許せなかった。
例え和葉と一緒に泊まるのが女の子であっても何か気に食わない。







和葉がトイレに部屋をでた隙に先ほどの書類をちょろまかすと、平次は肝心な部分だけ色々とメモっていく。
日時、場所、ルームナンバー、一日の予定…エトセトラエトセトラ。
和葉が戻ってくる頃には書類もしっかりと封筒に戻し、平次は何食わぬ顔で携帯でポチポチポチとなにやらメールを打っている。

「あ、はよ蘭ちゃんとちゃんに電話して確認せなあかん。ホテルにもお願いしてサブベッドいれてもらおーっと」
「……おまえ、寝造悪いねんから頭から落ちひんようにせぇよ」
「うっさいで、平次!!あたしのどこが寝造悪いんよ!」

プンプン怒りながら和葉も自分の携帯を取り出し、平次の部屋だというのに大声で話し始める。

「あ、蘭ちゃん?あんなァ、来月の○日なんやけどその日空いとぉ?商店街の福引でネズミーランドのチケット当たったんよ、一緒にいかへん?」
「うん、それでな、ビルトンホテルの宿泊券もついてんねん。ちゃんも誘ってお泊まりいこー」
「ほんまにー?おおきに、じゃあちゃんには蘭ちゃんから伝えといてくれる?うん、助かるわぁ」

どうやら蘭からの承諾は得られたらしい。
蘭が誘うならも一緒に和葉たちと出かけるに違いない。
ニヤリ、平次は和葉の電話の内容を想像しながら携帯のメール送信ボタンを押した。

「ポチっとな…なーんて」

ヘッヘッヘ、邪魔してやっからな和葉。
なにか平次は方向性がずれていることも気にせず和葉には見えないようニヤリと笑みを浮かべた。

「え?平次?平次は今回関係ないで!あいつは留守番、大阪で一人でおったらええねん」
「あー…工藤くんな…蘭ちゃんならできるって。大丈夫、ちょっと殴って蹴ってどっかに閉じ込めとけば…」

和葉の失敗は工藤対策ができていても平次対策ができていなかったということにあったのだろう。






ネズミーランドに遊びに行くその日、空には雲ひとつなくまさしく快晴であった。
前日から和葉は蘭の家に泊まりに来ており、朝早くからと合流し三人で仲良くゲート前の行列に並ぶ。
このまま泊まりになるので荷物があったのだが、それは駅のロッカーに押し込んできた。
今日は女の子三人で一日中楽しむのだ、蘭と和葉の結束力は最高潮に達していたといえる。

「にしても服部君、本当に一緒に来なくて良かったの?」
「あー、ええねんええねん。平次なんて放っておけば。それより蘭ちゃんとちゃんこそ、よく工藤君留守番にできたなぁ」

それ、工藤新一に関しては実を言うと蘭とも驚いてはいたのだ。
格好のデートスポットでも行くというのに新一は先約があるのだと珍しく駄々をこねなかった。
これは絶対何かあると前日までいぶかしんでいたのだが、その前日から新一は出掛けてそして帰ってこなかったのである。

「ええ?あの工藤君が?なーんかあやしいなぁ」
「あ、やっぱり和葉ちゃんもそう思う?」
「平次もなぁ、ブツブツ文句は言いよったけどそれだけでなぁんか様子がおかしいしなぁ」
「服部君も大阪で一人で留守番とか考えられないよねぇ」

幼馴染二人ともひどい言い草である。
しかしは二人の段々とエスカレートしていく暴言に慣れてしまったのかどこ吹く風で、開園アナウンスが流れるのを今か今かとソワソワして待っている。
歳をとってもネズミーランドはおとぎの国ファンタジーの世界でワクワクするものはするのだ。
ようやく流れた開園アナウンスにはいまだおしゃべりに夢中の二人の腕をぐいぐいと引っ張ってみる。

「ほら、蘭も和葉ちゃんも!開園だよ開園!私、スペー○マウンテン乗りたい」
「よっしゃ、ちゃんの為に和葉ちゃんが走ってきたろ!」
「和葉ちゃん、カッコイイ!じゃああたしは別のアトラクションのファストパスでも取ってこようかな」

楽しい楽しい一日の始まりだ。







楽しい楽しい一日は開園してから2時間もしないうちに崩れさった。
三人で仲良くハニーハントに並んでいるときのことだ、全エリアで園内放送がかかったのだ。

『迷子のお知らせをいたします。米花市からお越しの毛利蘭様、大阪からお越しの遠山和葉様、お連れ様がお待ちです。至急インフォメーションセンターまでお越しください。繰り返します、迷子のお知らせをいたします』

その放送がかかった時の蘭と和葉の二人の顔を言葉で表してみろと言われたら、恐らくはこう答えたに違いない。
般若その1と般若その2がく○のプーさんを背景に立っていたよ、と。

「お連れ様だって、和葉ちゃん」
「ほんまやね、蘭ちゃん。お連れ様やって」
「迎えに行かなきゃね」
「そやね、迎えに行かなあかんね」

そう言ってオロオロするをハニーハントの列に並ばせたまま、般若となった二人はインフォメーションセンターがあるほうに向かって走って行ってしまう。
なにこれ私一人でハニーハント?置いて行かれたで二人がお邪魔虫二匹を連れて帰ってくるのを待つこともせず、結局そのまま一人でハニーハントを楽しむことになった。
出口からでてきたはちょうど戻ってきたらしい汗をかいている二人を見かけ声を張り上げて名前を呼んだ。
しかしおかしなことにお邪魔虫二匹の姿が見えない。

「新一のやつ、あたしたちがインフォメーションセンターに着いた時にはもう消えてたのよ!!」
「絶対平次のやつもおるわ!あーもう、腹立つったらしゃあないで!!」

プンスカ怒っている二人に一人ハニーハントで遊んでしまって申し訳ないとはこっそり反省しながらも、二人の間に割り込んでグイっと二人の腕をつかむ。
そして蘭のほうに顔を向けてニコっと笑えばオッケーだ。

「いなかったらいなかったでいいじゃない。折角三人で遊びに来てるんだから、最後まで楽しもうよ。ね?」
「真紀子がそう言うならあたしはそれでいいのよ!!」
「まぁ、うちも平次のことなんかどうでもええわ。さーガンガン遊ぶでー!!」
「「おー!!」」

少しだけ蘭に対してもちょろいと思ってしまったのはだけの秘密である。







パレードも見たしアトラクションもほぼ制覇した。
お土産もしっかり購入したし、三人でおそろいのものも買った。
あとはホテルでチェックインして荷物をおいて、そしてご飯を食べるだけ。
三人はチェックインするべく広いロビーをおしゃべりしながら突っ切ろうとした。
途中ラウンジで某お邪魔虫二匹を見つけるまでは。

「ぬわぁにやってんのよ、し・ん・い・ち・く・ん?」
「あだだだだだ、こめかみが痛い痛い」
「こんなとこで何やっとんねん、平次!!」
「いだだだ、耳はやめて耳は!」

蘭のこぶしで新一はこめかみをぐりぐりと挟みこまれ、平次は平次で和葉に思い切り耳をつまみ上げられている。
恐らく痛さでいうなら平次よりも遥かに新一のほうが痛いに違いない。
案の定新一は蘭のぐりぐりから解放されるや否やそのままパタリと一人掛けソファに沈んでしまった。

「あー痛かった。死ぬかとおもたやんけ」
「平次なんかそのまま死んどけ!見てみ、工藤君なんか完全に死んでんで!」
「自業自得よ、放っておいていいの和葉ちゃん。こんなストーカー馬鹿なんてね」

ひどい言い草である。言い草ではあるが、も後ろでうんうんと頷いているところを見ると公認ストーカーなのかもしれない。
真っ赤になった耳をさすりながら平次は和葉を睨むものの、逆にギロリとにらみ返され多少小さくなる。

「で、二人してなんでここにおるん?」
「和葉ちゃん、それは愚問よ愚問。服部君はともかく、新一はが帰るまで絶対に帰らないわ」
「ふっふっふ、その通りや。オレも工藤もちゃーんと部屋予約してあんねんからな!」

ニヤリと笑う平次に嫌な予感を覚えた和葉は、まさか、と呟くと平次の胸倉をかかえて詰め寄った。

「部屋もうちらの部屋の近くやなんて言わへんよな?」
「さぁ〜、オレらは1206号室やけどぉ」
「それ、うちらの部屋の隣やんか!!!平次、まさかアンタあたしが席たっとぉ間に書類のぞいたやろ!!」

すっと和葉から視線をそらした平次にそのまさかであったらしいことが判明し、和葉は思い切り平手を喰らわせる。
このスットコドッコイ!という叫びとともに。








結局三人で楽しむはずのディナーも五人で囲むことになった。
その日、ビルトンホテルのとあるレストランでは目いっぱいおしゃれをしている女の子三人の隣で、顔に真っ赤な手形をつけたガングロ少年とどこかテレビで見たことのある少年がきまり悪そうに座っているテーブルが見かけられた。

「くそう、蘭がの横を陣取りやがって…でも真正面から…よしとしよう」
「和葉のやろう…なんも思い切りぶつことないやんけ」
「なぁんか言ったぁ、平次?」
「新一、一人だけ別のテーブルに移ってくれても構わないのよ、あたしたちは」
「わかってるよ、蘭!お口にチャックだろ!!わかってるよ、わかってるさ、幼稚園の時からのお約束だもんな!!」

口をあわてて押さえる新一に蘭は満足そうに頷くと再びを挟んで和葉と楽しそうにおしゃべりを始める。
少年二人の肩身狭い、けれどちょっぴり幸せな夜はまだまだこれからだ。