さめざめと泣いていた私はハタと今の自分の状況を思い返してみることにした。
日付け、そんなもんしらん。
キキョウちゃんと別れてから(断固として捨てられたとは言わない)3日寝続けていたとか言っていたけれど、そもそもキキョウちゃんと別れたのがいつか思い出せない。
軽いトラウマというか、キキョウちゃんとの別れをなかったことにしようとしてるだなんて口が裂けてもいえない。
時間、もっとわからん。
おなかがすいているようですいていない、そんな感じで正確無比な私の腹時計は役に立たない。
場所、シルバの部屋。

「超危険であーる」

さーっと血の気がひいていくのがわかる、食べなさ過ぎで貧血とかありえない、これは明らかに『シルバの部屋』に反応した貧血だ。
これは早々にお暇させていただかなければならない、なにがなんでもお暇させていただかなければならない。
出入り口は一つ、シルバのでかい図体の向こう。
窓は一応ある、あることはあるけどぶっちゃけこいつの部屋の裏側はククルーマウンテンの絶壁になっていてスカイダイビングをパラシュートなしでやるつもりでいかないと窓を出入り口に数える事はできない。
無差別鍵束、これはダメだ。
使える扉がそもそもシルバの体の向こうにあるわ、コイツ自身がシルバのことお気に入りで絶対に扉をつなげたとしてもこの家のどこかに繋がってるに違いない。
誰だ、こんな念にしくさったのは!!!って私だけど!
ムクロさんといいどうして私の念はシルバ贔屓になるわけ!?普通ご主人様な私に従うもんじゃないのか!!
いや、もういい。今更そんなことを言ったって何も変わりやしない。
ムクロさんはあれで結構シルバのことを認めているというか、好きだ。多分私よりも・・・、それってどうなのとか思うけれど色んな思惑があってムクロさんはシルバが大好きだ。
きっとムクロさんの頭の中ではこういう図式ができあがってるに違いない。






私とシルバがくっついて結婚

シルバと歳の近いキキョウは微妙な位置関係に

ならば自分がキキョウを貰ってしまえ

父親はとりあえず飛影にして家族ごっこスタート

いがいとはまってしまってキキョウを本気で自分の娘にしてしまえ

自分的に超ハッピーエンド






「おおいにありうるであーる」
「お前、さっきから語尾がおかしいぞ」

うるさい、ちょっとした現実逃避だチクショウメ!!
嫌な可能性ばかりわんさかで良い可能性がちっとも見当たらないこの現状をどうにかするためには、ちょっと気合をいれてガッツでこの部屋を抜け出さないといけないようだ。
ならばするべきことは一つ、シルバのほとんどない隙をついて扉に向かってダッシュだ。
さすがに富士山と同じくらいのククルーマウンテンからパラシュートなしのスカイダイビングは無理だ、そんな高さにチャレンジしたことはないしできもしない。
ならば絶食○日目で体にガタがきてようが何が何でも死ぬ気であのシルバの体の向こうに見える扉まで辿りつかなければならない、このやろう、もっと狭い部屋で暮らせよ!!

「黙り込んでどうした、
「いや、あんまり3日も寝込んでたってわりには喉もかわいてないし体もベタベタしないなァなんて・・・ってあれ?」
「・・・・くくく」
「あれ?ちょっと待て?本気で待て?いや、私の頭はとまるな?」

なにかすんごいことを私は今考えないように頭が自然となっていってないか?
どうしてここまで喉が潤っているのか、今のところ寝起きだというのに喉は超ウルルンだ。
どうしてここまで髪の毛がサラサラでお肌もツルツルなのか、秘境だか樹海だかで結構長い間一人呆然としていたはずだ、その間の記憶がないのだから確実にお風呂もはいってないはずで。
となると一週間近くお風呂に入っていないはずなのにどうしてここまでサラサラリンのツルツルリンなのか。

「・・・・・逃げます。さようなら、シルバ!」

考えちゃあいけない、すべき行動はただ一つ。
何も知らない、何も気付かない、ていうかここにいた記憶は忘れろ、だ。
ベッドから起き上がるとシルバの肩越しに見える唯一のドアに向かって足を踏み出し・・・・

「・・・はれっ?」

たと思ったら、ガクンと力が入らずゴチンと頭から床に落ちた。
痛いかっこ悪いなんで、いろんな言葉が頭をよぎる。そのよぎってる頭は冷ややかな石床とごっつんこ中だが。

「大丈夫か、。なかなか面白い格好をしているな、くっくっくっ・・・」
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!笑うくらいな助けんかい、このヤロウ!」
「まあ構わないが・・・貸し一つだな」

聞き捨てならない言葉が耳に入ってくると同時にぐいっと上半身に腕をまわされ床から持ち上げられる。
と思いきやなぜかベッドでなくシルバの膝の上にストンと落とされる。

「・・・・・・・ヒィィィィィィ!!何しくさってんねんゴラァ!!」
「思うように動けないんだろう、特に下半身が」

ぐいーーーーーーーーーっとシルバのシルバでさえなければお気に入りの胸板を自分の腕を思い切りはることで遠ざけようとするものの、どことなく笑いを含んだシルバのその発言に思わず顔をあげる。
ニヤリと笑ったこれまたシルバでさえなければ結構お気に入りの顔を目前にして、シルバの言うとおり力の入らないまるでプランプランと揺れてるだけのような感覚がジワジワと足に広がっていくのを感じた。
やられた、というのはまさにこのこと。
はめられた、というのはまさにこのこと。
絶体絶命だとかさらば我が人生だとかエトセトラエトセトラ。

どれも縁起のいい言葉じゃねえじゃないかぁ!!シルバーッ!お前、私に何したわけ!?薬か!?薬なのか!?
「薬といえば薬だが。とある香木だ、よく嗅いでみろ。どことなく匂いがただよってるだろう、何故か足だけ麻痺させる俺にしてみれば最高の香木だ」
「んなもん樹海さ迷い暦ピー年の私でも聞いたことないわ!!」
「当たり前だ、くれたのはムクロだからな。魔界のなんたらかんたらとか言っていたな、俺にはよくわからんが」

やっぱりムクロさんが絡んでたー!
もうこの人、いやこの妖怪、あの彼女だけが幸せ満載の未来日記もどきを実行する気だ!

「ムクロから伝言だ、『キキョウはオレと飛影が面倒を見てやる、お前は安心して子作りに励め』だとよ」
「ギャー!家崩壊の危機じゃねえか!ていうかやっぱり黒幕はお前かムクロォォォ!出てこーい、今すぐでてこんかぁい!」
「もう一つ伝言だ、『しばらく魔界のパトロールで忙しい。呼び出しには応じないからな』だとよ」
「嘘をつけぇ!どうせ百足の中でねっころがってるだけのくせしてぬわぁにがパトロールだぁぁぁぁどちくしょう!」

足が動かない?
なら腕を足のように動かしてでも逃げるしかないだろ、腕立てでも逆立ちしてでも逃げてやる。

「まぁムクロのやつもそこまで言ってくれてるわけだしな、お前は今日からの名を名乗るなよ?」
ヒィィ!腕を、腕をはなせぇシルバァ!流星街かえるーおうちかえるー!うわーーーん!!
「お前は今日から=ゾルディック、身も心もオレの嫁だ」

頭上からの「いただきます」に私の『冴えない人生』という目標ははかなく散り、ムクロさんの未来日記は見事成就することになったということに私は飛びそうな意識の中で気付いた。








バキバキメモリアル、バキバキなのはわたしの下半身。
ついでに改め今日からハラハラメモリアル、はじまります。