「すみませーん、一つ聞きたいことがあるんですが」
「なんだ?」
「ここって、ついさっき1時間程前まで私と不本意ながらシルバがいたシルバの部屋ですよね?」

相変わらずシルバの肩に担ぎ上げられたまま私たちはリビングらしき部屋でゼノと別れ、何故か再びシルバの部屋に戻ってきた。
本当に、なぜかね!
しかし行きと同じ道を逆戻りして帰ってきたシルバの部屋なのに、私たちの目の前に広がるシルバの部屋には違和感。
いや、もうこれは違和感とかいう問題じゃない。おかしすぎる。

「どこをどうみてもオレの部屋だ」
「だよね、あはは!じゃあなんでこの部屋をたった1時間程しか離れてないってのに部屋のベッドがダブルから天蓋付のキングサイズに変わってるのかしら。おほほほ、私の目の錯覚?つか幻覚?」
「ははは、幻覚じゃないぞ!お前の目は正常だ」
「そうよね、正常よね。・・・ってふざけんなゴラァァんなわけあるかぁ!なんでベッドが変わってんだ!?しかもなんでこれみよがしに私の私物がごっそりと部屋に転がってるんだ!?その箪笥ミッチーからかっぱらった流星街にある筈のお気に入りのやつだよね!?そこのハンガーにかかってるコートはキキョウちゃんが去年の誕生日に買ってくれた流星街で保存されてる筈のコートよね?あの小物入れはヨークシンの闇市で買ったお気に入り!あっちはミッチーの本棚にしまってた筈の私の本!あっちは・・・あれは・・・・」

まず一番に目がつくのは真っ赤な天蓋付のキングサイズのベッド、確か一時間ほど前にはシンプルなダブルベッドだった筈だ。
もともとこの部屋には何もなかったのに何故か今は所狭しと私の箪笥と本棚で部屋の片面が埋まっている、流星街にあるはずのもので。
さらにその箪笥の中に入っている服やら小物やらも全て流星街にある筈の私のもの。
そして全て一時間ほど前までにはここにはなかったものだ。

「な、なんじゃこらぁ!!」
「こっちが宅急便の伝票だ、ん」

そう言って渡された伝票には『ムカデ宅急便』と明らかに手書きの文字。




品物:の私物全て(壊れ物注意、ただし気を使う必要なし)
備品:ゴトー
お届け先:シルバの部屋




「ムクロさーーーーーん!!まじカムバーック!!つか魔界のパトロールとやらはどうしたぁクロネコじゃなくてムカデの宅急便かよ!?んでなんで備品がお前なわけ、ゴトー!!」

ビシっとシルバの肩の上で指を差した先にはちょこんと黒い燕尾服を着込んだ教会での養い子の姿。
服はブカブカで明らかに「急いでましたー」ってのがみえる、つかあからさまだ。

「エ、エステメルダにが心配だから見てきなさいって・・・そしたらムクロがきてこの服着せられてここに連れてこられた・・・」
「ヒィ!!未来日記にエステメルダも参入してる!?ていうかもうあれだ、作者ムクロ、協力者エステメルダ、犠牲者、もうこの設定だとしか思えない!!」
「え、えっと!頑張ってお世話します!よろしくお願いしますッ、えーと、奥様?」

誰だこの子にいらん知識を与えたのは!(エステメルダだ、絶対彼女しかいない)
そして奥様発言にお前が満足そうにしてるんじゃないよ、シルバ。
絶対に私は認めません、嫁になんかきません、隙あれば逃げまくってやる!

「ゴトー、私は別に奥様でもなんでもないからね」
「え、でもエステメルダが」
「エステメルダの嘘に決まってるじゃないの、オホホ!お前、拾ってやった私とエステメルダどっちを信用する気よ・・・」
エステメルダ

即答だった。

「そ、そう・・・なら私の世話なんてどうでもいいから流星街に早く帰りなさい。あ、なんなら送っていったげるよ?まだゴトー小さいもんね、ほらお姉さんが家まで送っていってあげよう」
「エステメルダが怪しい人にはついていっちゃダメですって」
毎日顔あわせてた私が怪しい人だってお前は言うのか!?私のどこがあやしいんだっつの」

えーい、将来親バカならぬ執事バカになるくせになんてガキだこのやろう。

「自覚なしか・・・」
「お前だけには言われたくないよこのストーカー野郎」

10年間人のことを追い掛け回しておいて何言ってんだ、この年齢詐欺(ビスケほどじゃないけど)
いつのまにかベッド傍まで歩み寄っていたシルバにぽいっとゴミよろしくスプリングのきいたベッドの上に落とされる、ぐえっと思わず舌をかみそうになり思わず涙目になってしまう。
イタイイタイと微妙に噛んでしまった舌をベロンとだしてひぃひぃ言っていると背中になんだかやけに視線を感じる。
なんだよと思いつつ振り替えれば何故か目をこれでもかと見開いて私を凝視しているシルバの姿、傍らには相変わらず服に着られたままのゴトー。


「なんですか、ていうか人のことジロジロ見るのやめてもらえます?10年経っても慣れないというかキモイんですがぶっちゃけ」
「したくなった、ヤらせろ」

は?
人が声をあげるまえにでかい物体が思い切りのしかかってくる、首だけ後ろに向けた状態だったからかシルバみたいなバカみたいにでかい図体を支えられるはずもなく一瞬にふかふかベッドに体が沈み込む。
ちょっとまてちょっとまてなんだこれはと視線をずらせば、やっぱりまだいるゴトー。

「ゴ、ゴトー!ちょ、たすけ・・・ってギャー!人の足持ち上げるんじゃないよこの変態っ!」
「パンツなんか今更だろうが、んなもん脱いでるところだってバッチリ見たぞ」
「耳をふさげゴトー!ていうか助ける気がないなら早々に部屋から出て行けー!」

押し倒されたままゴトーに顔だけ向けて叫ぶ私と、そんな私に覆いかぶさったままいそいそと人の服を剥ぎ取ろうとするシルバ、そしてポツンとそのベッド脇に立ちすさんでいるゴトー。
シチュエーション的にも常識的にも精神的にもおかしすぎるでしょこの状況。
ベロンと体をひっくり返されてベッドの上でうつ伏せの状態にされると同時に背中が突然スカスカっとなる、ブラのホックを外されたらしい。

「どえー!ゴトーまじで頼むから部屋から出ていってよーぉー」
「・・・・・部屋から出てもどこに行けばいいかわからないんだもん、がいるならここにいる」
ヒィィ!なんて恐ろしい子!シルバッ、頼むからゴトーだけどうにかしてぇ!さすがにまだ羞恥プレイはしたくねえ、ていうかもうなにもかもが羞恥プレイだけど人に見られて興奮するような変態じゃないのよあたしゃあ!」
「面倒くせぇなぁ・・・」

人の胸を両手で鷲掴みしながらチッとシルバが舌打ちした音が背後から聞こえてくる。
てめ人の胸を揉んでおいて舌打ちかいつかありがたがれやと内心ギタギタに思いつつ、そんな風に思ってしまうなんて少々ほだされかけてるんじゃないかと自分に危機感。
だめだだめだと首をぶんぶん横に振ればベロンとうなじのところを舌で舐めとられる。

「ひっ」

思わず出てしまった声に(まあシルバに聞かれるのは今更というところではあるけれど)慌てて両手で口をおさえるも、ふとした弾みで横を向いてしまいバッチリとゴトーと目が合ってしまう。

「・・・・・」
「・・・・・?じゃない、奥様?」
「まだいたのか畜生羞恥プレイは好みじゃないんだよていうか普通にやって普通に!3日も部屋にこもっておいて今更だけど普通ってのが大好きなんだよぅ!シルバ!!ゴトーをどうにかしてくんなきゃ蹴る!一撃必殺オーラを最大限纏わせて力いっぱい蹴る!!
「ちなみにどこを蹴る気だ・・・・」
「・・・・ふっ」

答えることなく鼻で軽く笑ってやるとようやくシルバの両手がいつのまにやらむき出しになっていた胸から離れる、離れた瞬間少し肌寒いとか思ってしまったことは早々にデリートだ。
ベッド脇にあった電話らしきものを手に取り待機中の執事の誰かにゴトーを引き取りに来るように言うシルバの傍らでいそいそとシーツを上半身にまきつけ、ひょいひょいとゴトーに向かって手招きする。
燕尾服のすそがズリズリと床を引きずっているがゴトーは気にすることなく素直にひょこひょこと私の目の前にまでやってくる。

「あのね、素直にエステメルダのところに帰りなさいよ。ムクロの言う事もエステメルダの言う事も気にしなくていいから、あの教会でのんびり暮らしてりゃいいのよあんたは。こんなところにいたら毎日が殺伐どころか地獄だよ地獄、まだ流星街のほうがマシさね」
「でも教会に帰ってもは帰ってこないんでしょ?」
「なにがなんでも帰るよこんなとこいつまでもいるわけないじゃん。お前まだ10歳じゃないの、エステメルダたちと一緒にいなさい。ソレが一番いいんだから」
「いやだ、と一緒にいる。オレを拾ったのはエステメルダじゃなくてでしょ?エステメルダが言ってた、拾ったものは最後までしっかり面倒見ましょうって」
「お前はハムスターか犬か!?」

埒の明かない会話をしていた私とゴトーだったがひょいと突然ゴトーの足が床から離れた、シルバに摘み上げられたらしい。
そのままブンヒョイと廊下に放り出す、もうすぐ人が来るからお前はそこで待ってろと言いながら。

「ちょっと何しくさってんですか!まだあのこと話してる途中だったんだけど!?つかあの子はここの執事なんてならないからね、流星街に帰すから!」
「そりゃ無理な話だ」

再びシルバに覆いかぶさられながらなんでと口を開けば、ムクロのやつがしっかりと金をゾルディックからまきあげてやがるとそのまま口にかぶりついてくる。
セックスを食べるという行為で比喩することがあるけれどあれはコイツみたいな男にぴったりだ、きっと優男が迫ってきて体をつなげてもそれを「食べられた」ということは絶対にない。
つか金をまきあげられてるってどういうことだとグイグイと舌をねっこからひっぱられつつ考えていると

「ゴトーの給料むこう5年間分、ムクロが持っていったらしいぞ」

シルバが爆弾発言をもらした。










ムクロさんの計画通りに全てが進んでるような気がしてたまらない、いやその通りに違いない。