1967年。

日本ではセブンセブンセブーンでおなじみのウルトラセブンが放送開始になった年だ(よく間違われるので言っておくとウルトラマンセブンじゃなくてウルトラセブン)
でもってハンターの世界で現在生息中のさんにとって1967年はある意味節目の年になろうとしていた。
キキョウがちょうど10歳になり、そろそろいいかとかねがねから計画していたことを実行しようと思ったのだ。

「というわけでキキョウと一緒に実家に帰らせていただきます」
「おほほほ、ごめんあそばせ。キキョウもお母様について行くことにしました」
「・・・・・・・・お前らの実家、ここじゃねぇの?」

ボストンバックもスーツケースも何も用意せず、ただ淡々と夕食時に私とキキョウが告げた言葉にミツヒデさんはお行儀悪く箸を口にくわえたまま同じように淡々と答えた。

「ちょっとキキョウちゃん、お聞きになった?ミッチーってばすっかり私たちにおうち提供してくれちゃってるみたいよ?つかすっかり普通の家族だねぇ」
「ええ、ええ、お母様!きっとお爺様、私達がいなくなってしまったら寂しがられてしまうんじゃないかしら!」
「二人して言いたい放題やめんか?大体俺にしてみりゃお前らが出て行ってくれりゃそれはそれで(かなり)静かになって万々歳なんだけどよぉ」
「まぁお爺様!そんなこと仰ってあとで寂しいとか泣きついてきても知りませんわよ!!」
「それだけはないから安心してくれよ・・・」

ミツヒデさんにあっさりと返されてしまってキキョウはどことなく拗ねてしまっているのか、右頬だけ器用に膨らんでいる。
まぁ年齢的にもジジイって歳じゃないのにお爺ちゃん扱いのミツヒデさんはキキョウにとってもそれなりに近い人間だから、恐らくミツヒデさんと離れる事になって寂しい思いをしているのはキキョウのほうなのだろう。

「まあとにかく、明日からキキョウと旅に出ます。いつ帰るかはさっぱりぽんです」
「どうぞどうぞ。あー生水には気をつけろよ、あとあまり環境破壊はしないように」
「あいあい。それで、いつもみたいに流星街の住民で処分できなさそうな仕事はこっちにまわしてくれていいですから。携帯は持っていくので連絡いれちゃってくださいな」
お母様!キキョウもお手伝いしますわ!

キキョウのキンキン声が食卓に響く。
結局この娘はアルト声の心優しい子には育ってくれず、思い切りソプラノ声の中世ヨーロッパ風の子供に育ってしまった。
齢10歳で、マリー・アントワネット。お外に出かけるときは孔雀の羽がついたピンク色のお帽子を必ず被っていくほどのマリーっぷり。
どこで何を間違えたのか、私にはさっぱりわからない。

「まあ好きにしたらいいが、何しにここを出て行くつもりなんだ?」

ごっそーさんといってミツヒデさんが箸を皿の上に乱雑に放り投げる、この人はいつまでたってもお行儀という言葉を頭に植え付けない。
食後はあいかわらず皿を台所に運ばず、今じゃキキョウが二人分運んでいってくれる。えぇ子や。

「私はとりあえず観光、行きたいところがわんさかあるんだもーん。あとはヒカリモノ探し、グフフ
「私は王子様探しですわ。オホホホホ
「「え?」」
「流星街には私の眼鏡にかなった王子様がいないようなので外の世界で探す事にしたんですわ、キャー恥ずかしい!」
「・・・キキョウちゃん、私が心配だから一緒に来てくれるんじゃなかったの?」

オホホホ高笑いするキキョウにちょっとだけむなしくなりながら尋ねると、いやですわーお母様も大事ですと言いながら再びオホホホ高笑いをはじめてしまった。
なんか私の付き添いは王子様探しの「ついで」っぽく聞こえるんですけど、そこらへんどうなんでしょ・・・。
というか10歳なのにもう王子様探し、ていうかお前の王子様はパドキア共和国のお山のどこかで毒でも飲んでるわさ!!

「私だけの王子様が見つかったらお母様?私、追いかけねばなりませんのでお一人で旅を続けてくださいませね?オホホホホ
「母親よりも王子のほうが大事か・・・白馬に乗ってるといいね・・・」
オホホホホホホホ!!

ぽんと居間を出て行こうとしていたミツヒデさんがすれ違いざまに私の背中に手を置いていく。
ミツヒデさんに慰められてもなんだかむなしいだけだ・・・そうか、これがある意味第一の親離れの時期なのね・・・





出発前夜、流星街ではキキョウの高笑いだけが響き渡っていた(後にこの日の晩に鼓膜に異常をきたした人間が何人も病院に担ぎこまれたことをミツヒデさん経由で知らされた)













翌朝、ミツヒデさんと教会の神父さんにエステメルダ、あと少々に見送られながら手ぶらで私たち親子は流星街をあとにした。
ほとんどの人間が「しばらく帰ってこなくていい」と嬉しそうに言ってきたのは、果たして見送りの言葉になるのかどうか非常に疑わしいところだ。

「で、お母様?一体どこに向かっているんです?」
「とりあえずヨークシン、ちょいとそこのカジノで遊んで(大金巻き上げて)から大陸横断鉄道に乗って『世界の○窓から』ごっこをします。あとは成り行き任せ」
オホホホホホホホ、さすがお母様。まったくもって計画性なんてありませんのね!オホホホホ!!
「辛らつな言葉をどうもありがとう。お母さん、君の王子様が早々に見つからない事を心から祈ってるよ・・・」
「嫌ですわ、お母様!キキョウの王子様は必ず私の前に現れましてよ?!オホホホホホホホ

うん、銀髪ウェービーな王子様はきっといつか現れるよ。
オホホホ笑い続けるキキョウを尻目に、私は絶対にパドキア共和国にだけは近寄らない事を心に誓った。

まだ婿はいらん。