(ねぇ、ウボォーどうするの?あのままじゃアイツ頭がぼんって爆発しちゃうよ)
(といっても、どうやって助けるんだよ。俺は嫌だからな、あの中に入るの)
(あら、いいじゃない。ノブナガもフィンクスもちょうどいいからあの中に入ってお話しっかり耳をかっぽじって聞いていらっしゃいよ)

あの中―――俺たちがいうあの中とは俺たちが円陣を組んでるその少し離れたところでがっつりと体を抱え込まれて女の人に説教されているウボォーさんのことだ。
俺たちに売られた形のように(でもみんなウボォーさんを指差したから誰が悪いとかはないはずだ)ウボォーさんはあれからずっと女の人に『女性に対する接し方』を聞かされている。
なにか思うことがあるのだろうパクはそれを承知の上でフィンクスとノブナガにあの二人の中に入っていって話を聞いて来いといっているのだ。
マチも何も言わずに軽く二人を見ているから同じ気持ちなのかもしれない。

(なんで俺たちだけなんだよ!それだったらクロロもフェイもフランクリンもシャルだって一緒に行けばいいだろ!)
(バッカ、あんた達は格別だよ!クロロたちが今更女の人に対する接し方を知る必要はないんだからね。あんた達だけで充分だよ)
(えー、マチ、俺ちょっとだけ聞いてみたいなぁ)
(シャル、やめとけ。ウボォーを見てみろ、ただでさえない脳みそが沸騰して気絶する一歩手前だ)

ウボォーさんと女の人のほうをぼんやり見ているシャルにフランクリンが少しだけ慌てた表情をして止めにかかる。
みんなの弟のようなシャルはいつも好奇心旺盛でそれを止めに入るマチとフランクリンはいつも大変そうだ。

(にしてもいつ終わるのかなぁ)
(だたらフィンクス、やぱお前がいてくるといいね)
(ばっ、俺はやだぞ!あのウボォーを軽々手首の力だけで投げる女だぞ!)
(怖いのか?)
(・・・・だったらノブナガ、お前は怖くないのかよ?あれは絶対違うぞ)
(違う?)
(違うだろうがよ。今まで流星街でいろんなやつ見てきたけどあの女は違う、この街でもなんか別格だ、なにがって言われたら困るんだけどよ)

最後の方はごにょごにょとフィンクスにしては珍しく小さな声になってしまっていたが、そういわれて改めて俺たちはウボォーさんに懇々と説教している女の人を見つめる。
上空遥か彼方から落ちてきても骨折一つなく傷一つなく生きている時点で普通じゃないのはわかるけれど、ウボォーさんと接している姿は至ってそこらへんにいる女の人と一緒だ。
でも、フィンクスの言う通り、何かが違う。
あんな人間をこの流星街で見たことは、一度たりともない。

近寄りたくなくて、それでいて傍にいきたくなる。

きっとみんなも似たような事を思ったに違いない、俺と同じようになにか納得できないようなそんな顔をしていたから。
ただし、シャルをのぞいて。

おねーさーん、お話、おわったぁ?
「「「「「「「シャルゥゥ!?」」」」」」」

小さい子は無邪気、確かに3歳児にはあの女の人が何者であれ自分の興味ひくものであればどうでもいいのかもしれない。












「私のこと呼んだのは誰ですかー?っていうか久々にお姉さんって呼ばれて胸キュンしちゃったわ〜

片手でウボォーさんを脇に抱え(ウボォーさんはやっぱりあの後爆発して気絶してしまったらしい)俺たちのもとに歩いてきた女の人は、固まっていた俺たちを目だけでぐるんと見渡すとよっこいせと声をだして俺たちの目の前にしゃがみこんだ。
ウボォーさんはそのままどさっと女の人の横に落とされたけれど、相変わらず目覚める気配がない。

「あのねー俺!もうお話おわった?」
「んあ?ちびっこ、お前が私を呼んだの?ん、まぁ一応話はおしまいだね。なんか意識飛ばしちゃってるし」

そういって隣に寝転がっているウボォーさんを今度は女の人が指先でつんつんとつつきだす。
面白そうと思ったのかシャルもいつのまにか女の人の隣で座り込んでつんつんとウボォーさんをつつきだす。

「お姉さん、流星街に住んでる人?なにしにここに来たの?空から落ちてきたってことは捨てられたってこと?なんで空から落ちてきて生きてるの?どうしてお姉さん、女の人なのにウボォーよりも強いの?」

つんつんウボォーさんを遠慮なくつつきながら質問しはじめたシャルに女の人は一瞬呆気に取られ

「ちょっとお兄さんお姉さん、君たちの弟は警戒心というものがないのかね?ここは一応あの流星街じゃなかったっけか?」
「私たち、シャルの兄でも姉でもないわ。それに普段はシャルだって警戒心、ちゃんとあるのよ。初対面の人にここまで人見知りもしないで話しかけたのは貴方がはじめてだわ」

俺たちのほうに顔を向けて口を開いたがパクがそれに眉をひそめながら返答を返す。
普段俺たちが一緒にいる時はシャルも安心しているのかあまり回りを警戒してはいないけれど、一人になった時は土地柄しっかりとまわりに注意を向けている。

「ふーん、そっか。ちびっこ、お前シャルって名前なのね。いくつ?」
「3歳だよ、でももうすぐ4歳!」
「そうかー、んじゃイルの一つ下だね。にしてもガリガリだね、しっかり食べてるかい?」
「食べてるよー、ちゃんと食べないとフランクリンが怒るんだ。ねぇねぇ、それよりもおねーさん、俺の質問に答えてよ〜」

自分から女の人の服をぐいぐいとひっぱりだしたシャルに俺たちは今度こそ本当に呆気にとられる。
少しだけ間延びした喋り方、まるでシャルナークが目の前に座る女の人に甘えているようでどことなく俺たちは居心地の悪い思いをしている。
まわりが大人ばかりで、俺たちだってみんなシャルよりも年上で、なのに今まで一度も甘えるような仕草をしたことがなかったのだ。
それは多分一緒に住んでいるフランクリンたちにとっても衝撃的な出来事だったのだろう。
フィンクスなんて目をむいてシャルを見つめている。

「お姉さんはね、別に捨てられたわけじゃないよ。ただちょっと油断してたら(ファッキンジジイに)飛行船から放り出されてただけでね、それに私もここの人間さね」
「流星街に住んでるの?でも俺見たことないよ?」
「ちびっこが生まれてきた時には私は外にいただろうからねぇ、今日も呼ばれてなけりゃここには帰ってこなかったよ。ここに落ちたのも久しぶり、久しぶりにゴミにまみれてしかも目の前にはちびっこ。懐かしいね・・・」

そう言って目を細めて笑った女の人の手がすっと動く。
俺たちはそれに警戒するように体を強張らせたが、動いたその手は静かにシャルの頭に乗せられガシガシと髪の毛を撫でるだけだ。
そのとき、ピピピピピとなにか機械のような音が辺りに広がり女の人は「ちょっとごめんよ」と言うとズボンのポケットから何かを取り出して耳元に持っていく。
あーあれが携帯電話ってやつなんだとみんなが思い思いに(特にシャルは熱心に)女の人の手にあるものをじーっと見つめている。
唯一ノブナガだけがミツヒデのところで見たことでもあるのか、そこまで興味深く見つめてはいなかったけれど。

「今?ちょうどゴミ溜めに落ちたとこだよ、ゼノの野郎に突き落とされてね。そんなにイルミにあわせたくないのかって話だね!初孫なのは同じじゃん!?」
「わかってるよ、今からそっちに向かう。え?議会?面倒だよ、いつでもいいって言ってたし」
「ぎゃーん、今すぐぅ?いい加減、誰かそういうことやってくれる人見つけてよ。私だって暇じゃないんだからさぁ」
「はぁ!?ガキを捕まえるだけぇ?逃げ回ってる?そんなのそっちで勝手にやってちょうだいよ。あ?つかまらない?知らないよ、って聞けー人の話を!」

携帯電話に向かってギャーギャーと声を荒げる女の人に俺たちはビクビクしながらも見つめていた。
どうしてあの時逃げなかったのか、今でも不思議に思うけれど。
でも俺だけじゃなくて他のやつらもみんな、誰一人として逃げようとはしなかった。
けど、女の人の口から漏れる言葉に俺とフランクリンは思うところがあって、二人して互いの顔をみつめた。
「議会」と「逃げ回っている」と「ガキ」、それはもしかしなくても俺たちのことじゃないだろうかと。

「仕方ないなぁ、んでどんな子供達よ?あ?ライオンみたいなガキんちょと?」

そう言って女の人の視線がすっと横たわったままのウボォーさんに注がれ

「眉毛のない坊主に?ちびっこにしてはもったいないくらいガッシリした体型のガキ?」

すーっとその目は次にフィンクスとフランクリンに動いていき

「金色蒼目の小さい子に、全身真っ黒な感じの男の子、と」

シャル、そして俺へと視線が向けられる。
やばい、逃げなきゃと思ってるのに体が動かない。
だって、ウボォーさんはまだあの女の人の隣で気絶したまま横たわっていて、いやそうじゃなくて、俺たちじゃあの女の人には絶対にかないっこなくて。
でも、目の前の女の人は

「うーん、気が向いたら探しといてあげるって伝えといて。それよりもさ、ミッチー、今からそっち帰るつもりなんだけど食材たんまりあったかなぁ?またこぶ付で帰ってもいい?いやーん、今度は押し付けられたわけじゃなくて拾ったのぉ」

どうでもよさげに俺たちから視線を外し、シャルの頭に再び手を置くとぐりぐりと撫で回していく。
シャルもシャルでそれを受け入れていて、いつのまにか電話をきった女の人によっこいしょと抱えられても嫌だと突っぱねさえしなかった。

「ちびっこ、今からうちに来るかい?ご飯、いっぱい食べさせてあげるよ?」
「本当?いっぱい食べてもいいの?おなかいっぱいになるまで?」
「勿論、そんなにガリガリしてちゃちびっこの間はダメだよ。そこのほかの坊主とお嬢ちゃんたちもいらっしゃいな。私の目の前でガリガリ細々ってのはダメダメ、許しません。せめて平均の体型には戻ってもらわないとね」

シャルを片手で抱き上げ、もう片方の手でウボォーさんを再び俵のように担いだ女の人はそういうとクルっと背中をおれたちに向けて街のほうへと歩き出す。
誰も、何も、言わない、俺たちは女の人の少しずつ小さくなっていく背中を見つめながらどうする?とばかりに顔を寄せ合う。

「だってシャルとウボォーが連れて行かれちゃったんだぞ、取り戻さねぇと!」
「でも別になにかされるわけじゃないみたいだし、どっちにしても二人を追いかけないと」

うん、うん、と軽く頷いて俺たちは前を歩く女の人の背中を追いかけるようにして走った。






これが、自分達の母親ともいうべきとの出会いだった。